私には夢があるんだ。
君たちと一緒に叶えたい夢だ。
私の夢はね……
「君たちが死ぬことだよ」
彼女はそう言った。
「だってさー、君たちはいずれ死んじゃうんだよ? だったら私が殺すしかないじゃん?」
「だから君は殺さないよ。ずっと生きてていいからね!」
「あぁ! そうだ!! もういっその事、みんな殺しちゃえばいいのか!!」
彼女の目は狂気に染まっている。きっと正常な判断ができない状態なんだろう。
「ねぇ、どうして?」
少女は問う。
答えはない。
その瞳には、もう何も映らないから。
彼女はただ待つことしかできない。
いつか帰ってくることを祈って。
それは、希望と呼ぶべきなのか? 絶望と呼ぶべきものなのか? それすらわからないまま、彼女は待ち続ける。
それが、彼女の運命だから。
「どうしてこんなことになったんだろう……」
少年は呟く。
目の前に広がる光景の意味を理解することができない。
そこには、たくさんの人が倒れていた。
みんな血を流して動かなかった。
誰がやったのかなんてわからなかったけど、それでもこれは僕のせいだと思った。
だって僕は悪くないはずだ。
なのに、なんで僕だけ取り残されているんだろう? 僕の知らないところで何かが起きて、 僕の知らないうちにすべてが終わっていた。
まるで、僕だけが世界に忘れ去られたかのような疎外感だ。
僕の記憶から失われてしまったものが多すぎる気がする。
それは、本当にあったことなのかさえ怪しいほどに。
僕にはもう何も残っていないのか? 僕はどうしてこんなところにいるんだっけ……? あれ、おかしいな。思い出そうとしても全然出てこない。
確か大切なことをしていたはずなんだけれど。
あぁそうだ、思い出したよ。
僕の名前は『天宮勇人』。
ごく普通の男子高校生だったはずだ。
ちょっとオタク趣味があるだけのね。
それがいつの間にかゲームみたいな異世界で勇者なんてやってるんだから笑えるよね。
それで今は何をしてるかっていうと――
魔王城へと続く道の途中にある街へやってきた僕らは宿屋を探していた。
この街は比較的安全な地域らしく、そこかしこに屋台が出ている。
串焼き屋さんとか肉まん屋さんとか、ラーメン屋の屋台とか。
そうゆうイメージだったんですけどねー……。
あれから一週間経ちました。
あの日、わたしたちが辿り着いた場所は、なんと海でした。しかもかなり沖の方まで行っちゃったらしくて、自力で泳いで帰るにはちょっと厳しい距離だったので、助けを呼びに行くことになったのですが――その途中、なぜか突然海の中に入って行ってしまったんですよ! もうびっくりですよね? だって今まで歩いていた陸地から一歩踏み出したらそこは水だったんですもん。それも水深はかなり深いみたいで……正直、溺れちゃうんじゃないかって怖かったです。
けれど幸か不幸か、そうはならなかったんです。わたしたちの足下では絶えず海水が流れていましたけど、不思議なことに全然息苦しくならなかったんです。むしろ呼吸するたびに身体の奥底へ染み渡るような心地良ささえ覚えました。それはきっと、水中なのに濡れていない服のおかげだと思うんです。わたしたちはみんな、いつの間にか普段着に戻っていましたから。もちろん最初は驚きましたよ。ただでさえ理解不能な事態に陥っている最中だというのに、そのうえ今度は急に服装が変わったわけですから。しかも水着ではなく、もっとちゃんとした格好になっていたんです。まるで最初からそういうデザインの衣装であったかのように、自然に馴染んでいました。
彼女は何かを言いかけていましたが、突然目の前に現れた私を見て口をつぐむしかありませんでした。当然のことながら警戒していたようですが、こちらとしては危害を加えるつもりはまったくありません。とりあえず敵意がないことを伝えるため、両手を挙げて見せました。
しかし私の方としても彼女のことをじっくり観察する余裕はなく、「その恰好は何ですか?」とか「どこから来たんですか?」などと質問を投げかける前に、まず自分の身なりを確認しなければいけません。私は全身びしょ濡れの状態でした。雨合羽を着ていないどころか靴すら履いていませんでしたからね。こんな状態で人里まで歩いて行くわけにはいきません。それに今更ながらに気が付きましたが、私も彼女も裸足のままでした。これでは歩くこともできないし走ることもできない。どうしたものでしょうか? 私が困っている様子を感じ取ったのか、彼女は自分が着ていた服を脱ぎ捨てるとそれを私に差し出します。「これを使え」ということらしいのですが……それはちょっと問題がありそうです。なんせ相手は年端もいかない女の子なのです。さすがにこれは抵抗感があるというものでしょう。いくら彼女が服を着ていないといっても下着ぐらいはつけているはずです。なのにそれを貸してくれるというのはつまりそういうことなのかなって思ってしまいますよね。私は躊躇しましたが結局それを受け取りました。ここで遠慮してしまえばかえって失礼にあたると思ったのです。もちろん相手の好意を踏み躙るようなことは絶対にできません。
着替え終わると私は改めて彼女と向かい合う。
彼女は私を見つめながら微笑む。
その笑顔には見覚えがあった。
私が彼女の笑った顔を見たのは初めてだけれど……それでも確かに知っている気がするのだ。
私の知らない彼女がそこにはいた。
「ねえ……どうしてあなたはここにいるの?」
「それはね──」
彼女は答えようとした。
だが言葉にならない。
まるで何かを忘れているかのように、彼女は首を傾げた。
「えっと……何を言おうとしたんだっけ? あ! そうだ思い出した!」
彼女は再び笑いかける。
とても嬉しそうに笑う。
なのになぜだろう。
こんなにも悲しい気持ちになるのは。
「あのね! あたしのこと助けてくれてありがとう! ずっと言いたかったんだよ!」
「うん。知ってるよ」
彼女を助けるために私はここまで来たのだから。
「そっかぁ。じゃあさ、もっと早く会いに来てくれても良かったんじゃない?」
「ごめんなさい。色々あって遅くなったわ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!