テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
水を飲むこともできなくなった涼ちゃんを見て、𓏸𓏸はもう自分ひとりではどうにもできないと悟った。「……ごめんね、涼ちゃん。病院、行こう」
無抵抗の涼ちゃんの手を静かに握りしめ、病院へ向かった。
病院の白い廊下。
検査室の前の小さなソファに、涼ちゃんはほとんど動かず、静かに腰かけている。
うつむいたまま、ぼんやりと宙を見つめ、まるで世界の音が遠くなってしまったみたいだった。
𓏸𓏸は、付き添いとして診察室に呼ばれる。
先生は、涼ちゃんの検査結果のファイルをめくりながら、沈んだ声で説明した。
「……かなり深刻な栄養不足です。体重も、年齢の平均と比べて危険なほど低い。
それから、精神的にも強いストレスや無気力のサインが見えます。
このままでは命に関わるかもしれません」
𓏸𓏸は、先生の言葉を黙って聞くしかなかった。
頭の中は真っ白で、手が冷たく震えていた。
「ご家族の方や、専門の先生と連携して治療を進める必要があります。絶対に一人にしないでください」
𓏸𓏸は「はい……」と、小さくかすれた声で応える。
そのころ、涼ちゃんは何も知らずに、ただ病院のソファに座っていた。
人の流れも、アナウンスの声も、自分には関係ないように。
細い指をただ膝の上に添えて、静かな灰色の世界に浸っていた。
𓏸𓏸はまだ自分に何ができるのか分からないまま、
それでも涼ちゃんのそばから離れることなく、またゆっくりと手を握った。
――どうにか、助けてあげたい。
その祈りだけが、𓏸𓏸の胸の中で静かに燃えていた。