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珠莉はゆっくり立ち上がり、じっと遠くを見つめた。「ねえ、璃都。この先にサービスエリアとか、休憩できる場所ないかな?」
璃都は少し首をかしげる。「サービスエリア……? トイレとか、売店があるとこ?」
珠莉は静かにうなずいた。「うん。もしかしたら食べ物も残ってるかもしれないし、入り口も閉められるかもしれない。そこなら少しは安全かも。道路の看板、探してみよう?」
「うん!」
璃都は不安げな顔をしながらも、珠莉の手をぎゅっと握った。
二人は静かに高速道路を歩き出す。舗装された道の先には、車がいくつも立ち往生している。周囲を警戒しながら進み、道路脇の案内標識をひとつひとつ確かめていった。
やがて、遠くに大きな青い標識が見える。
「サービスエリア 2km」と書かれている。
璃都はその文字を見て、少し不思議そうにつぶやいた。
「“2キロ”って、どのくらい?」
珠莉も標識を見上げて、少し考える。「うーん……たぶん、すごくいっぱい歩いたら、着くくらい。学校から家までより、もっと遠いかも。」
「ふーん……遠いのかな。でも、がんばって行こう?」
「うん。静かにね、絶対、変なのに見つからないようにしよう」
二人は物音に耳を澄ませ、ときどき車の下や木陰に隠れながら、慎重に歩き続けた。
途中、潰れた自動車や捨てられた鞄が転がる道。誰もいないはずなのに、ときおり遠くから何かのうめき声が聞こえてくる。それでも、青いサービスエリアの標識が二人の心の支えになった。
珠莉と璃都は、慎重に歩きながら標識を頼りに前へ進んだ。
倒れたガードレールや壊れた自動車、あちこちに散らばる荷物が、以前の世界とは違う現実をいやでも思い出させる。
珠莉がふと立ち止まる。
「……璃都、待って」
前方の道路脇、柴が生い茂る影のあたりで、何かが動いた。
「……お姉ちゃん、今、音がした」
耳を澄ますと、石が転がる鈍い音――それに混じって、低く湿ったうめき声が聞こえてくる。
二人は息を止めてじっとその場に身を低くした。
ガサガサと茂みから、血でよごれた服をまとった大人の男が、ヨロヨロと現れた。皮膚は灰色、目は虚ろに宙をさまよっている。
「ゾンビ……」璃都の手が珠莉の袖を強くつかむ。
珠莉は、ハサミを握りしめた手を自分の胸元に寄せ、璃都を背に隠すようにしてひそひそ声で囁く。
「だいじょうぶ、静かにしてて。絶対動かないで」
ゾンビは二人には気づかず、ゆっくりふらふらと進んでいく。
しかし、少し歩いては振り返り、地面に落ちた何かをつかもうと腕をのばした。
珠莉は璃都の耳元でささやく。「今のうちに、あそこの車の陰まで……静かにね」
二人は息を殺し、できるだけ音を立てずに、近くの車の影まで移動する。
道端のゾンビはしばらくその場にとどまり、やがて別の方向に歩いていった。
珠莉はほっと大きく息をついた。「危なかったね、璃都。もうちょっとで見つかるところだった……」
璃都は震えていたが、なんとか頷いて言う。「お姉ちゃんが一緒だから、だいじょうぶだった」
「うん、一緒だからね。もう少しだけ、がんばろう」
二人は再び手を握り合い、サービスエリアを目指して一歩ずつ歩みを進めるのだった――