テラーノベル
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珠莉と璃都は、ゴツゴツとひび割れた路面を踏みしめながら前へ進んでいた。道端には傾いたガードレールや、所々に壊れた車が放置されている。サービスエリアまで、あと少し――けれど、空気は不穏だった。
その時、不意に横の茂みから、不気味なうめき声が聞こえた。
「……お姉ちゃん、あれ……」
璃都が袖を引き、不安そうに身を縮める。その視線の先にいたのは、血まみれの服をまとったゾンビの男。虚ろな目で、ゆっくりと二人に近づいてくる。
「……璃都、後ろに下がって」
珠莉は胸の辺りでハサミを強く握りしめた。指先には汗がにじむ――けれど、守らなきゃ。璃都を、絶対に。
ゾンビは二人の気配を嗅ぎつけたのか、突然、だらりとした腕を持ち上げて小走りに近寄ってきた。その勢いに璃都がうずくまる。
「怖い……」
「大丈夫、璃都は見ないで!」
珠莉は恐怖で足が震えたけれど、ゾンビがもう数歩で届くその瞬間、自分のすべてを振り絞って駆け出した――
そして、ハサミをゾンビの顔めがけて突き出した。
金属が肉を貫く感触、血の臭い。
ゾンビは苦しそうに呻き、ぐらりと後ろによろめく。
「もう一回……!」
歯を食いしばり、渾身の力でハサミを突き刺す。やがてゾンビは、そのまま力なく地面に崩れ落ちた。
珠莉はぜいぜいと息を切らし、手にしたハサミが血に染まっているのを見て、息を呑む。
その手を、璃都がそっと握った。
「お姉ちゃん……すごい……こわかったけど、わたし、がんばったよ」
涙ぐむ璃都の頭を、珠莉はぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫、もういない。守るから、絶対に」
二人はしばらくその場にしゃがみ込んで、鼓動が静まるのを待った。けれど、珠莉の心には震えるほどの恐怖と、それに勝った自分の強さが、確かに宿っていた。
「もうちょっとだけ、がんばろう――進もう?」
珠莉の声に、璃都も小さくうなずく。
二人は再び、小さな手をしっかりつなぎ、静かに歩き出した。
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