コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
本土から離れた島・鬼門島…通称”鬼ヶ島”。その島の中心に、鬼のための学校”羅刹学園”が建っている。学園内には様々な施設があるが、中でもひと際大きな訓練場から、元気な声が聞こえてくる。
「ほっ…!よしっ!…うわぁっ!!?」
「油断するなって何回も言ってるだろ」
「上手く決まったと思ったのに…」
「”上手く”がダメなんだ。それが命取りになったらどうするんだ。少し休憩するか」
「んあ”ァー!疲れた!身体訛りすぎ!今なら無人くんに負けそう」
「1年眠ってたんだ。訛ってて当然だろ。…まあ大分動けるようになってはいるな」
「ほんと!?やったァ!嬉しい!」
そう言って疲れながらも笑顔を見せる男性…名を斑鳩鳴海、、いや、一応結婚しているので無陀野鳴海と言っておこう。
2時間ほど前から新武器の動作チェックと本人のリハビリのために稽古をつけてもらっていた。
うつ伏せに倒れ込んでいる鳴海の横には、床に座り、余裕の表情で水分補給をしている男性がいる。
黒髪短髪で右頬に2本線のタトゥーが入った彼こそ、鳴海が”無人くん”と呼んでいる人物…名を無陀野無人。
自分の言葉に嬉しそうな顔をしている鳴海の後頭部を、無陀野はポンポンと優しく撫でた。
彼の表情はどんなことがあっても基本変わらないが、嫁である鳴海といる時限定で穏やかな雰囲気になる
「はぁ…ちょっとショック」
「何がだ?」
「出来てた事が出来なくなる事にショックを受けてる」
「そりゃな」
「お箸持てるようになるのに2日。歩けるようになったのが1か月前。前線復帰には程遠い…」
「ごちゃごちゃ言ってないで再開するぞ」
「うす」
気だるげに返事をして立ち上がった鳴海は、再び無陀野と向かい合う。
だが両者が動き出そうとした瞬間、突然無陀野の動きが止まる。
そしてこちらに向かってこようとしていた鳴海を止めるように手のひらを向けると、彼はポケットからスマホを取り出した。
「……分かった。すぐに向かう」
「無人くん?」
「鳴海、悪いが訓練は中止だ」
「なにかトラブルでも?」
「近くで鬼の血液反応が出たらしい。」
「鬼の血…!新しく目覚めた人かな。」
「かもな。一応入試用の一式を持ってく。」
「了解!カバン持ってくる!」
無陀野は効率重視の性格のため、移動手段も早さを求める。
故に室内以外は、彼の足元は常にローラースケートを履いた状態だ。
そんな彼と行動を共にするとなれば、鳴海にもそれなりのスピードが求められる。
鬼は一般人より運動能力が高いとは言え、常にローラースケートと一緒に走っていては業務に支障が出るが、鳴海に関しては学生時代から無陀野と走っているのでそこまで支障は出ない
「よし。おぶれ鳴海」
「了解!」
鳴海が素の体力でローラースケートを履いて移動する無陀野より速く走るので色々考えた結果、鳴海が無陀野をおぶって走る案が採用された。
傍から見れば変な光景だが、これが一番効率的なのだから仕方ない。
偵察部隊から血液反応の報告があった場所は、工事中の建物だった。
建物内から空が見える程に天井や壁面が派手に壊され、鬼の血の覚醒によって起きた出来事の激しさを物語っている。
すっかり静けさを取り戻した現場には2人の人物がいた。1人は和服に身を包んだ年配の男性であり、体の状態や出血量からして死亡していると思われる。
そしてもう1人は…頭から2本の角を生やし、年配の男性の前でうなだれている少年だった。
「こっち側覚醒した子?」
「あぁ。倒れている方はもうダメかもしれないが念の為に確認してくれ」
「はいよー」
無陀野から指示を受け、鳴海は静かに男性の方へ向かう。
背後から突然現れた巨体に、鬼の少年は驚いたように視線を向けた。
そんな彼に鳴海は優しく微笑むと、年配の男性の体を調べ始める。
脈なし・呼吸なし・瞳孔散大と死亡の3条件が揃っている上に、この出血量…確実に死亡していた。
鳴海はゆっくり顔を上げると、鬼の少年の背後に立つ無陀野に無言で小さく首を振る。
それに応えるように1つ頷いた彼は、いよいよ鬼の少年に声をかけた。
「ここじゃ人目につくな」
「!」
まぶたを閉じさせたり、血を拭ったりといった鳴海の穏やかな動きに見入っていた鬼の少年は、その声にハッと背後を振り返る。
だがそこに既に無陀野の姿はなく、再び背後に回った彼に首のツボを突かれ、少年の体はあっけなく力を失った。
少年が最後に見たのは、自分に対して変わらず優しげな笑みを向けている鳴海だった。
「(天使って…ほんとにいるんだ…)」
彼の口が”大丈夫”と動くのを見届けながらそんなことを思い、少年の意識は深く深く沈んでいった。
「簡単に背後を取られるなんてな…減点!審査するだけ無駄かもな…」
“入試採点記入表”と書かれた紙を挟んだクリップボードを秘書から手渡された無陀野は、評価を書き入れながらそう言った。
彼が記入している間、仕込み傘とカバンを預かっていた鳴海は、倒れている2人に目を向けながら言葉を漏らす。
「パパ死んだばっかりの子にそれは酷いよ。身内よ身内」
「それじゃ審査にならんだろ」
「そうだけどさ」
「それより2人を運ぶ手続きは?」
「連絡済み。直に来るよ」
「そうか。ありがとうな」
「きゃっ♡褒められちゃった♡♡」
「ブレないな、お前…」
「この後も一緒にいていい?」
「構わないぞ」
「っしゃ!」
「じゃぁ戻るか」
「はぁーい」
そうして戻った学園で、鬼の少年の入学試験が始まる。
鳴海:無事に無陀野とゴールイン。同じ苗字だと色々不便なので仕事中は旧姓。前回の事も踏まえてあっちこっちフラフラしないように胸ハーネスが導入された(不服)。
無陀野:やっと鳴海とゴールインした(めちゃくちゃ頑張った)。疲れたら鳴海の雄っぱいを吸いに来たりする(恒例行事になりつつある)。鳴海の雄っぱい大好き。ハーネス購入者