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大倉さんと暮らし始めて、あっという間に1ヶ月が経った。職場が同じだから、生活のリズムも同じなので、それなりに不自由なく一緒に暮らせてる。まぁ不自由なく…だけど――
「もう行っちゃうの? 早いんじゃないか?」
「しょうがねぇだろ。ここから離れた場所にあるトコで、食事の約束しちまったし」
「それって……俺と一緒にいたくないから、そんな遠くで約束したんじゃ」
「ちげぇよ! 客からの頼まれごとなんだ。仕事だと割り切ってくれって」
今まさに、出かけようとした俺の左足に抱きつき、つり上がり気味の一重瞼を更につり上げ、じと目で睨んでくる大倉さんに、盛大なため息をついてみせた。
同伴があると、毎回この状態なのである。以前にも増して、ヤキモチに拍車がかかった感じ。
「大倉さん、これは仕事なんだ。店のために、俺は頑張ってるんだからさ」
「そんなの、わかってる。だけど……」
足に抱きついてる大倉さんの両腕に、ぎゅっと力が込められた。毎回、この状態なんだけど――困惑するしかないんだけど。
「秀彦、なるべく早く、店に顔を出せるようにする。ガマンしてくれ、な?」
苦笑いしながらしゃがみ込んで、ふてくされてる唇に、ちゅっとキスしてやった。
「……わかった、我慢する。だけど1秒でも早く、帰ってきてくれよ」
掠れた声で言い放ち、俺の躰に腕を回してきたと思ったら、いきなり床に組み伏せるとか。
「っ……おっ、おいおい!」
毎晩飽きずに抱いているというのに、まだ足りないといった感じで、シャツのボタンを手早く外し、隙間に顔を突っ込んできた。
「やめっ! こら…しご、と、にぃっ……行けない、だろ」
大柄な躰を両腕で外しかけたら、鎖骨に音を立てて吸い付く。途端に、チクリとした痛みを感じた。
「これでよし! さぁ行っておいで」
キスマークなんてつけても、意味がないのにさ。いらないことばっかりしやがって、まったく。
眉根を寄せながらシャツのボタンを直し、ひらひらと右手を振って、マンションを出て行ってやった。この後、俺たちの間に嵐が吹き荒ぶとは、思いもよらずに。