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「これで終わりだ!」
僕は短剣を振りかざし、彼女の鎖を狙った。だが、次の瞬間、空気が一変した。
「甘いわね。」
彼女の言葉と同時に、鬼が低く唸り声を上げた。その体がさらに大きく膨れ上がり、漆黒の影が月明かりを覆い隠す。
「なっ…!」
鬼の体から角のような突起が伸び、爪が地面を引き裂いた。目の中には炎が宿り、圧倒的な威圧感が僕の全身を覆う。
「こいつ…何が起きているんだ?」
「覚醒よ。」彼女は楽しそうに笑いながら、鎖を引いた。「私の鬼はね、追い詰められるほど強くなるの。つまり、あなたの攻撃が足りないってこと。」
鬼が咆哮を上げ、木々がその振動で倒れる。大地が揺れ、思わずバランスを崩した。その隙を見逃さず、鬼が爪を振り下ろしてきた。
「くっ…!」
咄嗟に転がってかわすが、爪が地面にめり込み、土と砂が爆発するように飛び散る。
「どうするの?」彼女が挑発するように声を投げかけてきた。「逃げる?それとも、もう少し遊ぶ?」
「誰が逃げるか!」僕は息を整えながら答えたが、内心では冷や汗が止まらなかった。このままでは勝ち目がない。それに、このまま戦えば被害が広がるのは明らかだった。
鬼が再び突進してくる。その速度はさっきよりも速く、反応する間もなく距離を詰められる。僕は短剣を構え、何とか迎え撃とうとした。
──しかし、間に合わない。
鬼の爪が振り下ろされるその瞬間、僕の脳裏に彼女の言葉が蘇った。
「覚醒するほど強くなる…追い詰められるほど…」
「なら、逆に…!」僕は即座に短剣を投げ捨て、鬼の爪の隙間に飛び込んだ。
「何をしているの?」彼女が驚きの声を上げる。
僕は鬼の巨大な体に手を当て、静かに呟いた。「お前は自由になりたくないのか?」
鬼の目が揺らいだ気がした。それは一瞬のことだったが、確かにその瞳には迷いがあった。
「やめなさい!」彼女が叫び、鎖を引っ張る。しかし、鬼は動かない。
「お前はただ、命令されるだけの存在じゃないはずだ。」僕は静かに語りかけた。「戦いたくないなら、その意思を示せ。」
鬼が低い唸り声を上げる。その声は、先ほどのような攻撃的なものではなく、どこか悲しげな響きを持っていた。
「そんな…嘘でしょ。」彼女が呆然と立ち尽くす。
次の瞬間、鬼が自ら鎖を引きちぎり、彼女の前に立ちはだかった。
「何をしているの?」彼女は震える声で問いかけたが、鬼はただじっと彼女を見つめている。
「どうやら、お前の『鬼』も自由を求めているみたいだな。」僕はほっと息をつきながら言った。
彼女はその場に膝をつき、呆然と鬼を見上げた。その目には驚きと恐怖、そしてわずかな後悔が混じっているようだった。
「お前が本当に何を望んでいるのか、よく考えるんだな。」僕はそう言い残し、静かにその場を立ち去った。
背後で鬼が低い声を上げる。その声がまるで、自由を手に入れたことへの感謝のように聞こえた。