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――もっと詳しく教えていただけませんか? 私は夫に財布を握られているので、自由に使えるお金がありません。ヒントだけでも教えてください。
『申しわけありません。これ以上の情報提示となると、ポイント利用をお願いします。ポイント購入が困難な方は、条件達成でポイントを入手することも可能です。チャレンジされますか?』
(条件……なんだろう)
美晴はすぐに『やります』と答えた。アプリが提示する条件を達成すればポイントがもらえるというのなら、ぜひやってみたい。どうせ他のアプリと同じで、無料アプリなどをひたすらダウンロードしたり、サイトに登録したりすることで条件達成するに違いない。
しかし条件は美晴が思っていたようなものではなかった。画面が変わり、人物名の一覧が出てきた。
『どなたのものでも結構です。お知り合いの方でも構いません。美晴さんの知っている情報をわたしに教えてください』
(情報って……いったいどんな情報を伝えればいいのだろう?)
大勢の名前があいうえお順に並んでいるのでスマートフォンをタップしてスクロールした。あ行を見始めてすぐに知った名前が見えたので手を止める。
(相原さんだ……!!)
リンクが貼られているので、タップをしてみた。相原久次郎(あいはらきゅうじろう)について情報一覧が見られるようになっている。名前、性別、年齢、誕生日などの基本的なステータスは埋められている。
相原久次郎は、美晴が辞めた職場の上司だ。カフェ店内の総括・責任者の立場にあった。
人当たりがよく優しい性格で、四十代後半でやせ型、巷ではイケオジに入る部類なのだろう。柔らかな雰囲気が有名な俳優に似ているので、部下や客からも人気が高い。相原は美晴が知る限り、愛妻家で知られていたはず。その彼を『復讐アプリ』がターゲットに指定するのか…?
『あなたの情報提供内容によって大きなポイントバックがあります。がんばってください』
彼の情報を集めることができれば、ポイントが手に入るのだろうか。
やってみよう、と美晴は心に決めた。返信をしようと思っているとアプリの方からメッセージが届いた。
『復讐後、伴侶とは離婚をお勧めいたします。離婚に有利な証拠はなにかお持ちですか?』
証拠はなにも持ち合わせていないので、その旨メッセージを送信した。
『では、すぐに証拠を作り、集めましょう』
証拠がないなら作ればいい、とアドバイスをもらった。普段の行動や言動を録音するだけでいい、日記や受けた暴力の診断書や写真も有効である、と教えられた。
『まずは以前お勤めだった、クラウンホテルの留守番電話を探してみてください。美晴さんの通話履歴から算出しました』
そういえば数日前、幹雄から辛辣に責められた時があった。震える手で操作したものだから、間違えてホテルの職場に電話連絡をしてしまったのだろう。夜間だったため、事務所が留守番電話になっていたのだ。だから呼びかけても応答がなく、長い間通話状態になっていたのだと理解した。
美晴が勤めていたホテル内にあるカフェの事務所には、アプリが言うように電話機本体に留守番応答機能が付いている。古いものなので、電話機本体に直接録音されるものだ。
事務所の電話は、従業員への緊急連絡用に使用するだけでほとんど使われない。なら、誰にも触られずに音声が残っている可能性がある。
ほんの僅か希望が見えたが、厳しい現実を再度見つめる。無能な自分がひとりきりで放り出された時、社会で通用するとはとても思えなかった。唇を噛みしめてぎゅっと目を閉じた。
それよりも、このアプリはどうして自分が以前勤めていた職場まで知っているのだろう。留守番電話機能があることは。ホテル関係者しか知らないことなのに。