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パフィがツインテイラーと名付けられた巨大なパスタの肩に飛び移った。ラスィーテ人は、至近距離であれば食材に触れずとも大雑把に操る事は出来るが、長時間の操作や繊細な操作は、触れていないと出来ないのだ。
「それじゃ、行ってくるのよ、アリエッタ」
「! いてらしゃい!」
行ってくるという単語に反応し、アリエッタが手を振って見送った。
「おおー、順調に言葉覚えてるねー」
ムームーが感心するが、半分現実逃避である。すっかり凹んでいるネフテリアを見て、少しだけ冷静になれているだけなのだ。
そして3人の目の前で、パフィの操るツインテイラーは、ミューゼのウッドゴーレムの方へと跳んだ。
ドゴォッ
『ぎゃああああ壊すなあああああ!!』
何やら大きな音がして、ソルジャーギアのグラウンドから多数の隊員の悲鳴が聞こえた。
胸部より下を固定されて動けないスタークは、何が起こったか見えていないが、なんとなく嫌な予感がしてパフィに問いかける。
「を、おい。今ぶつか──」
「気のせいなのよ」
パフィはしれっと誤魔化した。
ツインテイラーはその大きさに見合わず、1回のジャンプでコロニーの外に着地。その振動でちょっぴり近くにあった建物が壊れ、近くのおじさんが膝から崩れ落ちるが、そんな些細な事は気にしない。
「街を壊すとはー、なーんて強力な、アーマメントなのよー」
「いやお前のせいじゃろーがっ! 棒読みで何言っとるんだ!」
「ふっ、どこからどう見ても貴方が本体に見えるから大丈夫なのよ」
「なんで儂に罪を擦り付けようとするんだっ」
「……ツインテール派は昨日から面倒臭いのよ。害悪だし教育に悪いのよ。だからついでにやっつけるのよ」
「うわぁ……なんで儂、こんなのに関わろうと思ったんじゃあ……」
「強く生きるのよ」
「お前が言うなっ」
スタークは後悔した。まさか様子見でレジスタンスを一時的に放置していたせいで、それ以上に危険な存在を動かしてしまうとは……と。
元々リージョン間の交流に対しては何とも思っていなかったスタークは、余計な血を流さない程度にはレジスタンスの動向に注意していた。もちろんツインテール派内にレジスタンスがいる事は把握していたが、全容を掴むまで泳がせるつもりだったのだ。
しかし、その中に理想の『ツインテール魔法少女』が現れるとは思わなかった。思わずスカウトに動いてしまったが、その過程でレジスタンスごと叩きのめされている。さらに今度は、巨大なわけの分からない物を作られ、自分達が守るコロニーがちょっとだけ破壊されてしまった。
(いやどーしろっちゅーんじゃい、コレ!)
心の中で叫んだところで、前を見た。
腰から下は固められ、腕もアーマメントも使えない。そんな初老の男が出来る事は……
「うおっ、なんちゅーエロい美女! あれはツーサイドアップ派のリーダーじゃな! 有難い!」
目の前で同じ様に磔にされた、ツーサイドアップ派のリーダーを嘗め回すように凝視する事だけだった。
その視線を受けて、エンディアはちょっと興奮気味。上に乗っているフーリエは、憤慨している。
「あンのジジイ、リーダーをあんな目で見やがって」
「ま、全くです。ハァハァ。なんですかあの粘り気抜群の視線はぁ……んはぁ♡」
興奮気味どころではなかった。それどころか視線に反応してモジモジしている。その行動が、さらに目の前のジジイを駆り立てる。
そんな2人を無視して、ウッドゴーレムの肩に飛び移ったミューゼと、ツインテイラーの肩に乗っているパフィは、静かに睨み合っていた。
「それが歩いた振動でアリエッタが泣いたのよ」
「えっ……ごめん」
「素直に謝った!?」
ミューゼにとってもアリエッタは最も大切な存在。自分のせいで泣かせてしまったのであれば、迷わず謝罪する。この場に本人がいないので、今はとりあえずパフィに軽く謝るだけだが。
「謝っても無駄なのよ。今こそこの前のデザートの恨みを晴らさせてもらうのよ」
「そんな50日以上経った事をいまさら出さないでよ! あたしだって3年前に隠してたお菓子を食べられた事、忘れてないんだからね!」
「ちょっとマテい! おまえらいきなりカイワのレベルをおとすなっ!」
本来はツインテール派の壊滅とアリエッタを泣かした仕返し(※スタークがやりたいのはツーサイドアップ派からのコロニー防衛)の筈なのに、いきなりおやつの恨みまで動機のレベルを落とされ、エンディアとスタークも思わず真顔になって顔を向けた。
「ちょっと! ツーサイドアップとお菓子、どっちが大事なんですか!」
「おい! ツインテールとデザート、どっちが大事なんだ!」
「お菓子に決まってるじゃん!」
「デザートに決まってるのよ!」
当然の即答である。そもそも2人ともツーサイドアップにもツインテールにも関係ない。ピアーニャが完全に呆れている。
「って、あのおじいさんは?」
「あのジジイはツインテール派のリーダーで、ブロントのソルジャーギア総司令のスタークだ」
「そうなんだ……」
まだ新人であるクォンにとっても初対面の相手。他のコロニーについては知らない事も多いようだ。
「で、ケッキョクどーするんだ? オカシもらえば、おさまるのか?」
『………………』
ミューゼとパフィは真顔で考え、そして同時に動き出した。
どごおおおおん!
「おわーっ!?」
「なんでーっ!」
いきなりウッドゴーレムとツインテイラーが、同時に拳を突き出し、互いが互いの胸部を殴りつけた。
『こうなったら、あっちで見てるアリエッタに、カッコイイとこ見せるしかないのよ!』
「どアホーーーーっ! なにが『こうなったら』だ!」
目的を忘れかけた事を誤魔化すべく、いつもの私欲を全開にして勝負する事にしたようだ。真っ向勝負の殴り合いは初めてだが、殴り合うのは自分自身ではないので、操者2人は怖くもなんともない。安全面も問題無い。そう、この2人は。
「きゃああああいやあああああ!!」
ばこぉぉんずどぉぉん
「ひいいい潰れるうううああああ! せめて解放してくれえええ!!」
ガァァン
「もうやめてっ、やめてくれよおおおおお!!」
どごぉっ
両派閥のリーダーは、頭部に完全無防備状態で埋め込まれているので、逃げる事も対抗する事も出来ないのだ。ただ巨大な拳が間近でぶつかり合うのを、絶叫しながら全身で感じるのみ。エンディアの真上に掴まっているフーリエも巻き込まれ、一緒になって叫んでいた。
そんな3人の求める物は部下による救出。その想いが通じたのか、間近で様子を見ていたツーサイドアップ派のレジスタンス達が動き出した。
「異世界人の思い通りになるのは不服だが、ツインテール派を潰すチャンス! 征くぞ!」
『おうっ!』
「あああああ!」(ちがうそうじゃない助けてー!!)
バキィッ
同じ様に、コロニーの中から沢山の人影が飛び出し、ツインテイラーの後ろに整列した。そして隊長格らしき男が、指揮をとる。
「ツーサイドアップ派からブロント・エンドを守れ! 総司令と共に戦うのだ!」
『うおおおお!!』
「ぬああああ!?」(お前らまで一緒になって暴れんなああああ!!)
ズガアアン
こうして誰も意図していない小規模な戦争が始まった。中心にいるのはミューゼとパフィなのだが、誰もその事に気付かない。ツインテール派とツーサイドアップ派にとって、中心人物はあくまで巨大化して戦っている両リーダーなのだ。
その中心人物は、必死になって両軍を止めようとするが、振り回される事態と潰されるかもしれない恐怖によって上手く喋れず、叫んだとしても殴り合う轟音によって声がかき消されていた。
「あーあ……」
「ど、どうしましょう、総長さん」
「どうするったって……うーむ」
ミューゼがウッドゴーレムに乗り移ってから、嫌な予感がして『雲塊』をジリジリと下がらせていたピアーニャ。いっそ全部潰してしまいたいと思いながら、この不毛な戦いを止める術を考える。
そうこうしている間に、両軍による空中での撃ちあいが始まった。お互い犯罪をしたわけではなく、趣味の範疇で動いているせいか殺意自体も無い。その為、当たっても怪我をする程度のエーテルガンや、アームのような捕獲アーマメントを中心とした戦いになっている。
そんな戦闘の当事者からは、絶対に掴まらないという意志が、離れて見ているピアーニャにもはっきりと見て取れた。疑問に思った時、それを解明する会話が近くで聞こえてきた。
「てめぇ、ツインテールに洗脳されやがって……」
「ふっ、僕はもうツーサイドアップを卒業したのさ。キミも来ると良い。ツインテールの良さを語ってやろう。5日程徹夜でな」
「それはこっちのセリフだ! そこの女とまとめて書き換えてやっからよ!」
(……コイツらいっそのコト、まとめてケシとばしたほうがイイかもしれん)
聞こえた会話の中から危険なモノを感じる。それはむしろミューゼ達の行動の方が正しいのではないかと思う程だった。
迷っている間にも、ウッドゴーレムとツインテイラーの殴り合いも激化する。
「ひやあああああ!! 怖い怖い怖い怖い!」
「そんなに近づくなああああ! ぶつかるじゃろうがああああ!」
殴り合っていた腕が絡まり、肩先がぶつかってお互いを弾く。間を置かずに今度は肘でのどつき合い。そんな風に接近すれば、頭部も当然接近する。組み合った拍子に、頭の額部分が接触した。となると、当然頭部に埋め込まれているエンディアとスタークも接近する。
もう駄目だと思って目を閉じていた両者。動きが止まった事を感じたスタークが、恐る恐る目を開けた。そして視界いっぱいに広がるのは、振動でブルンブルン揺れ動く2つの大きな塊だった。
「ええい! もっとしっかり近づかんか! ぶつかっておらんじゃろおがあああ!」
「おいこらジジイ!」
先程と言っている事が真逆なスタークに、頭部の上に掴まっているフーリエがツッコんだ。
その後ウッドゴーレムとツインテイラーは離れ、再び殴り合うのだった。
そうこうしている内に、撃墜(下に落ちただけで死んでいない)または捕獲によって、両軍の5分の1は脱落していた。
ソルジャーギアの場所から見ていたネフテリアとムームーはというと、巨大ロボ対決によってテンションが上がったアリエッタを抑えるのに必死になっていた。
「おお、おおお!!」(そこだパンチ! いけー!)
「ちょっ落ちる!」
「落ち着いてーお願いだからー!」
何しろ見学している場所が、【空跳躍】の上である。空中で落下を防ぐ物も無い。ミューゼとパフィの所業、何故か発生した戦争、アリエッタの興奮という要素が重なり、困り果てるネフテリア。
そんな空中に、1人の男が現れた。
「どうやらお困りの様子。俺様の出番のようだな」
「へ? ひっキャアアアアアアアアア!!」
振り向いたネフテリアが、金切り声で絶叫。下で待機していたハーガリアンは、その男を見て目を見開いた。
「あの男はっ……!」