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「いくのよおおおお!!」
「ぶっこわせえええ!!」
ガズンッ
「うおおおお!! もう少しっ、もう少しでえええっ!」
エーテルの光線が飛び交う中心で、全力で殴り合うウッドゴーレムとツインテイラー。そしてそれをハイテンションで操るミューゼとパフィ。
頭に埋め込まれているスタークも、せめてもの加勢にと必死で首を伸ばし、目の前で気絶しているエンディアの豊かな胸に頭突きをしようと頑張っていた。
「いい加減にしろよクソキモエロジジイ!」
ウッドゴーレムがあまりに激しい動きをするせいで、しがみつくのが精一杯なフーリエが、目の前で行われている間抜けな行為をするツインテールジジイに怒鳴り散らかしている。が、ジジイは真剣に取り組んでいる為、全く聞こえていない。
そんな事をしている間にも、巨大な殴り合いは続く。腕が弾かれ、両者が後ろに下がり、また腕を振りかぶって殴りかかる。振りかぶった腕に不幸にもぶつかって撃墜されてしまう者達もいたが、2人にとっては些事ですらない。ぶつかった事にも気付かれないまま控えていた仲間に運ばれていった。
「さすがに強いのよ、そのウッドゴーレム」
「パフィこそ、いつの間にかそんな物用意していたなんてね。凄く硬いけど、それでも未完成なの?」
「中に捏ね途中の生地が詰まってるのよ」
「なるほどっ」
ガンッガガンッ
殴り合いながらお互いの技術を確認する2人。
ウッドゴーレムは魔法だからという説明だけでどんな不思議な現象でも許されるのだが、料理でゴーレムと同じ事が出来ているというのは、ミューゼも、後ろに控えているピアーニャも納得出来ていない。
「生地が増えたのは、やっぱりアリエッタの?」
「その通りなのよっ。前にシャービットがやった事の応用なのよ!」
どごごんっ
「コイツら、ほんとナカいいな……。しかしナルホドな」
「なるほどー、さっぱり分かりません……」
以前にファナリアで、シャービットが作ったメレンゲゴーレムを知っているミューゼとピアーニャは納得。クォンはその時いなかったのと、ラスィーテの事をまだ知らないので、理解しようがない。
ラスィーテ人の能力の1つである調理は、食材から料理として完成するまでの工程を自由に操るというものである。ツインテイラーの外郭となっている部分は、小麦粉生地をシート状のパスタに成形し、硬く乾かしたものである。それだけでも木の板くらいの硬度があったのだが、さらにアリエッタの木(仮)から収穫した橙色の葉を練り込んだのだ。橙色には硬さを調整できるという特性があり、それによって鉄以上の硬さとなった。さらに所々に重さを調整できる青色も混ぜた事で、その腕は重さと硬さを備えた武器となったのだ。
もちろんそれだけでは操るなんて事は不可能である。そこでパフィは白色を関節部分に混ぜた。白色の特性は弾力の調整。どんなに変形しても元の形に戻るという、ゴムのような性質を関節に込めたのだ。これで関節は動くようになった。
後は柔らかいままの未完成生地で体内を満たし、肩から生地を操るだけ。それがウッドゴーレムと互角に戦うパスタロボ、ツインテイラーの仕組みである。
勿論、額から出したスタークの意味は、紛れもなく装飾だった。
「どうせパフィはセツメイしてないだろ。ヒマなトキにおしえてやるよ」
「はーい」
ピアーニャが納得している間も、ひたすら殴り合う2つの巨体。そろそろ決め手が欲しいと思ったパフィが後ろに飛びのいた。その拍子に、戦闘中だったツインテール派とツーサイドアップ派が3人、急に飛んできたツインテイラーに巻き込まれ、撃沈。
「ここからが本番なのよ。ぶちかませなのよ!【グルテンパンチ】!」
距離をとったツインテイラーが腕を振りかぶり、その場でパンチを繰り出した。
ウッドゴーレムのパンチが届かない距離に移動したので、当然ツインテイラーのパンチも届かない……筈だったが、繰り出した腕の関節部分がいきなり伸びた。
「ふおえっ!?」
どごんっ
不意を突かれたミューゼ。ウッドゴーレムの防御が間に合わず、まともに胸部にパンチを食らった。
よろけたウッドゴーレムが体勢を立て直すのを黙ってみている程、パフィは甘くない。グラウレスタの比較的安全な場所とはいえ、猛獣達を相手にしてきた経験は、決して隙を見逃さないのだ。
「もういっちょなのよ!【グルテンパンチ】!」
容赦なく、ウッドゴーレムの腹部に向かってパンチを繰り出した。これが当たれば、確実に転倒させる事が出来る。そうなればあとは飛び乗り、拘束する。そしてアリエッタに「すごいすごい」と言ってもらえる。そう確信したその時だった。
ガンッ!
ウッドゴーレムに届く前に、拳が弾かれた。
「!?」
「んなっ!?」
ミューゼとパフィ、そしてクォンが驚愕で目を見開いた。
「うそだろ? まさか……アイツ……」
チラリとその姿が見えたピアーニャは、愕然としていた。
「どうしたって言うの?」
「ここからじゃよく見えませんね……」
「はわー♡」(みゅーぜとぱひーのロボット対決とか、めっちゃ保存したい! なんでこの世界に映像技術ないの! くぁーもう作ってみるしかないのか!?)
離れた場所、しかもツインテイラーの後方から見ていたネフテリア達は、一応戦況が見えてはいたが、ツインテイラーの体に隠れている部分も多いので、細かい部分は見えていない。
「ついに動いたか」
「?」
ネフテリアが嫌そうな顔で、隣にいる男を見上げた。
「まさか仲間もいるの?」
「その通りだ」
「うぇぇ……」
その事を想像したネフテリアは泣きそうになっていた。そして再び戦場を見る。
「大丈夫かなぁ、特にミューゼとクォン……」(こいつら基本は頼りになるんだけど、存在自体が精神的にキツイのよね)
それは心の底からの心配だった。
自分達を守ってくれたその人物の背中を見てミューゼが最初に発したのは、恐怖による小さな悲鳴だった。
「ひっ!?」
「はっはっは、無事かいお嬢ちゃん」
ツインテイラーの腕を弾いたその男は、何事も無かったかのように華麗に着地しミューゼを見上げた。そしてごつい上腕二頭筋を掲げ、白い歯をキラリ。
「うわぁ、ごっつ……」
「なんでオマエがいるんだ、ケイン!」
ミューゼを守ったのは、ヨークスフィルンの警備隊長ケイン。露出の高い女装を好む、筋肉隆々の変態である。
「なんつーカッコしてるんだ……」
「ははは、ワグナージュの踊り子の衣装だ。似合っているだろう?」
「にあうかっ!」
アリエッタが見たら、砂漠の街のセクシーな踊り子みたいな服だなと称したであろうその服を見せびらかし、ケインは悦に浸り始めた。上空とのやり取りなので全身は見せられていないが、反り返って足を開き、割れた腹筋とガチガチの生足を見せびらかしている。
そんな変態を見て、ミューゼがふるふると震えだすが、そんな事には気づかず、平然と話を続ける。
「ところでチビッコ、何で俺様の──」
「いやああああああへんたああああああい!!」
ぼっゴゴゴゴオォォン!
「なバあああああああ!?」
限界を超えたミューゼのウッドゴーレムが、思いっきりケインを蹴り飛ばした。
「いまナニかいおうとしてなかったか?」
「ぜーっ、はへぇーっ……し、知りませんっ!!」
今のゴーレムの蹴りに全力を注いだのか、一発で疲労困憊である。
「なな、なんでアイツがっ」
「おちつけミューゼオラ、どうせすぐにもどってくるぞ」
「えっ、今メチャクチャ遠くに飛ばしてましたけど。っていうか生きてるんですか?」
普通に考えたら、巨大な木の質量で十分な速度の蹴りを食らってしまえば、人の原型が残っているかすら怪しい。しかし相手はあのケインである。無事かどうか考える事すらおこがましい程の頑丈さなのだ。その証拠に、
「……くるぞ」
「えっ」
ひゅぅぅぅぅぅどっごーーーーん
『うわあああああ!!』
ケインが飛んで行った方向から光る物体が飛来し、近くの地面に衝突。何事かと周囲に見られる中で、その原因であるケインがゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「なんでっ!?」
「アイツ、エテナ=ネプトじんだからなぁ……」
ケインが纏っているオーラ。纏っている間はいかなる衝撃にも耐えるのだが、同時に空中での自由移動を可能にする。自力で飛んでいる訳ではないので、通常通り落下はするのだが、滞空時間中は方向を自由に変えられるというものなのだ。
エテナ=ネプトでは星々の間を飛び回るという日常生活がある為、人々はその能力を当たり前に宿していたという。それを知った研究者によってオーラは名付けられ、『流星煌』と呼ばれるようになった。
そんな強力な防御と空中移動を持っている変態の出現に、ミューゼとパフィの緊張は自然と高まる。
「おいおい、人が話してる時に蹴るのはよくない。ホントよくないぞ?」
「あれでなんでケロッとしてるの? 不死身なの?」
「フジミではないな……たぶん。アイツはのうりょくつかわなくても、バカみたいにつよくてタフだからなぁ……」
ケインの強さを知っているピアーニャは呆れるばかり。
(ん? なんかイワカン? なんだ?)
遠くから見ているせいでハッキリとは分からないが、明らかに何かが違って見えている。しかしそれが分からない。
考えている間にケインは跳び、ツインテイラーの頭に乗った。
「ぅえっ!? なんなのよ! なんか股が光ってるのよ!」
変態の接近に怯えるパフィ。ケインの足元には可愛らしいツインテールのジジイの上半身もあるので、余計にリアクションに困っている。
パフィから見て太陽を背にしたケイン。後光によって光って見えるのだが、何故か股間の場所が特に光っている。踊り子風の服を着ていて隠れているにも関わらず。
「ほう? その恰好は他では見ないな。身軽な服装に見えて、手足の重厚なパーツ。すばらしい」
「なにジロジロ見てるのよっ! このっ……!」
パフィはツインテイラーに力を込める。操ったのは、左右のツインテール。ロングパスタで出来たそれでケインを包囲した。
「むっ?」
すぐにケインは回避行動をとる。とっさの包囲なので、上ががら空きだったのだ。
しかしそれを分かっていたパフィは、余っているツインテールの束で空中のケインを叩き、ミューゼのいるウッドゴーレムの方に飛ばした。
「ミューゼ!」
「!」
パフィの声が聞こえたミューゼは、迷わずウッドゴーレムを動かした。ウッドゴーレムはその腕を振りかぶり、ケインに向かってパンチを繰り出す。
同時にパフィもツインテイラーを動かし、ケインに向かってパンチを繰り出した。
ドゴオオオオオォォッ
息の合った2人の攻撃は、ケインを両側から確実に捉えていた。