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けれど
その瞳の奥には、手に入れた獲物を二度と離さないと誓った猛獣のような
昏く深い独占欲が渦巻いているように見えた。
彼は私の震える肩を抱き寄せると、耳元に顔を近づけ、周囲には聞こえない低い声で囁く。
「夜会では、俺の側を片時も離れないでくれ…どんな毒虫たちが、隙を突いて君を狙っているか分からないから。いいな?」
「は、はい…!」
その不穏な言葉の真意を、私は会場に足を踏み入れた瞬間に、痛いほど思い知ることになる。
◆◇◆◇
会場にて
大広間の重厚な扉が開かれ、アイン様のエスコートによって入場したその瞬間
それまで響いていたオーケストラの調べや貴族たちの談笑を突き破るような
刺すような沈黙が会場全体を支配した。
数百という上流階級の人々の視線。
それは決して新しい妃への祝福などではなく、品定め、侮蔑、そして剥き出しの敵意に満ちていた。
「あら、あれが噂の『灰かぶり』……」
「信じられない。本当に、ただの侍女だった下賤な女を連れてくるなんて。アイン様もどうかされているわ」
「ドレスで着飾ったところで、所詮は泥にまみれた中身。いつボロが出るかしらね」
色鮮やかな扇の影から漏れ聞こえる、毒液を含んだ囁き声。
私はアイン様の腕に回した手に、思わず指先が白くなるほど力がこもった。
震えそうになる膝を必死に支え、地面を見つめてしまいそうになる私を
アイン様は自分の大きな掌で力強く包み込み、握り返してくれた。
「気にするな。前を向け、シンデレラ。君の隣にいるのは、この国の第一王子だ。堂としていればいい」
「アイン様…っ」
「君の美しさに嫉妬しているだけの連中の声に、耳を貸す価値はない」
アイン様は冷徹なほどに凛とした表情を崩さず、周囲の野次馬たちを視線一つで黙らせるような
圧倒的な王者の威圧感を放ちながら堂々と歩を進める。
けれど、アイン様が公務の挨拶のためにわずかに私を一人にし
喉を潤す飲み物を取りに行ったその一瞬の隙を、彼女たちは見逃さなかった。
「……シンデレラ、やっと見つけたわ。こんなところで何をしているのかしら?」
背後からかけられた、ねっとりと粘りつくような
聞き覚えのある不快な声。
心臓が凍りつくのを感じながら振り返ると、そこには豪華なドレスで身を包み
高慢な笑みを顔に貼り付けた、かつての飼い主──
叔母が立っていた。
彼女の背後には、同じように私をゴミを見るような目で見つめる令嬢たちが
獲物を囲い込む猟犬のように立ち並んでいる。
「王子をたぶらかした、卑しい泥棒猫への報い。ここでたっぷりと教えてあげるわ」
叔母の目が、どす黒い憎悪に燃えて細められた。
華やかな社交界という名の残酷な戦場で、私はついに、剥き出しの牙を突きつけられたのだ。
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