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◻︎タイミングが悪い再会
チン!
会議室のあるフロアに着いた。エレベーターの中の鏡で、シャツの襟を直し、背筋を伸ばす。
_____よし、戦闘開始の準備万端!
この会社は、表向きは男女平等を謳いながら、実際は役員のほとんどが男で占められている。女は出産や育児で仕事に支障をきたすとかなんとかいう理由で、大事な仕事はほとんど任されない。そうなれば出世もままならずただの事務職で終わってしまう。総合職で入社してもなにもできずに、資料作りとお茶汲みだけが上手くなるのだ。
精気も鋭気も干からびつつあるくせにプライドだけは高い男たちを相手に、立ち上げようとしているプロジェクトのプレゼンをするには、相当な気合が必要になる。負けるもんかという気が湧き起こる。
会議室の前には、同じプロジェクトチームの部下が二人、待機していた。
「森下チーフ、待ってました」
「ごめんなさい、少し遅くなったわね。さぁ、行きましょう」
私を先頭に後ろに結城宏哉と、日下千尋がスタンバッた。
会議室のドアをノックする。
「入りなさい」
「失礼します」
会議室には、社長や常務、部長がズラッと20人ほどが並んでいた。
「待っていたよ、森下君。今日はどんなプロジェクトのアイディアを出してくれるのかな?」
このビルの土地を、会社に売ったというだけの七光で部長にまでなった通称、古狸こと古里人事部長。
私にはさっと目を合わせただけで、私の後ろで資料を配ろうとしていた日下千尋に視線を飛ばしている。
_____この古狸も、若い子がいいのか…
ちっ!と、舌打ちしたいところを堪えて、笑みを湛える。おそらく、ひどくぎこちない笑顔のはずだ。
「あ、そうだその前に紹介しておくよ、おい、ちょっとこっちへ」
古狸が手招きで呼んだのは、見覚えのある男だった。つい最近も見た気がするが、あれは今朝方の夢の中のことだと思い出した。
「こちらは、本日付けで社長付きになった新田健介君だ。先週までオーストラリアの支社に行ってもらってたんだがね、現地での手腕が買われて本社に戻ってもらった。確か…君たちは年も近かったと思うが…」
「あ、久しぶ…」
「はじめまして!新田さん。森下といいます。よろしくお願いします」
「えっと、はい、新田です。よろしくお願いします」
「あれ?そうか、二人、初対面だったか。まぁ、同年代だと思うからやりやすいだろう。よろしく頼むよ」
「はぁ、わかりました」
さっきまでよりさらにぎこちなく、無理矢理笑顔を作った。
_____なんで、このタイミングで!!
夢だけならまだしも、なんで本人がここにいるのよ!
「ごめん、結城君、パワーポイントは、私がやるからプレゼンしてちょうだい。少し気分が悪いから」
「わかりました。やってみます。森下さんのようにうまくやれるかわからないけど、見ててくださいね」
トントンと資料を揃えて、前へ行く。
「きゃっ!結城さん、カッコいい!頑張ってくださいっ!」
日下千尋の声が、いつも以上に甘ったるくまとわりついた。
_____なんだ?発情期か?