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◻︎プレゼン
『このプロジェクトで、我が社にもたらされる利益はいくらほどになる?何年で投資した資金を回収できる予定だ?』
「えっと…あの、それは…」
しどろもどろになってしまった結城に代わり、私が答えるために立ち上がる。
「私がお答えします。今のところ、必要な経費は試算しておりますが、利益についてはまったくの未知数であります」
ざわざわと色めき立つ出席者たち。
「そんな、利益が出るかわからないプロジェクトに予算なんか出せないだろ!ふざけているのか?」
「いいえ、このプロジェクトは我が社のイメージアップのためのものです。我が社は産業機械の開発や販売ばかりで消費することばかりを進めてきました。これからは、リサイクルやリユースを前面に出すことで、地球や環境に優しい、そして女性や子供にも優しい企業だとアピールできます。そうすることで、新しい分野への参入も期待できますし、全く違う業種からの引き合いも来ると思います。そういう観点からの“未知数”ということです」
「まぁ、わからなくもないが。それだけでイメージアップになるのか?」
「そうですね、このプロジェクトに合わせて公式のSNSサイトを作り、女性目線からのアピールもしたいと思います」
さらに、ざわざわとする。
SNSという言葉にアレルギーがあるのが、この年代のおじさま方だ。
「そんなことして、炎上とかしたらどうするんだ?取り返しのつかないことになるんじゃないのか?」
「ですから、公式に立ち上げるんです」
その後もいくつかの疑問点に答えたが、とにもかくにもスマホどころかパソコンも苦手な年代には説明が難しかった。
それでも、なんとかプレゼンは終わった。
「では、この案件については上層部で検討の上、追って連絡します」
「ありがとうございました」
パソコンを立ち下げながら、散らばった資料をまとめる。アイツ(健介)の登場で心にさざなみが立ったけど、そこは仕事優先のために頭をプレゼン一色に切り替えて乗り切った自分を、褒めたい。
「これ、手応えアリ!ですよね?チーフ」
少し顔を上気させて、結城が問いかける。
「そうね、いきなりバトンタッチしたわりに、よく出来てたと思う。ありがとう」
「いえ、森下チーフみたいに質疑応答もキチンと出来たらよかったんですが…」
少し悔しそうなのは、利益率などについての古狸からの質問に答えられなかったからのようだ。
「大丈夫ですよぉ、結城先輩、カッコよかったですからぁ!」
両手を胸で合わせて、何かのお祈りのように結城を見つめる日下。
そもそも、セリフの語尾にいちいち小さい母音が付くのが気に入らない。
_____気に入らないけどそれを指摘すると、パワハラとか言われそうだから我慢するけど
「茜!」
会議室から出ようとした時、不意に呼び止められた、あの声に。
が、聞こえなかったフリで歩き出す。
「茜!」
「チーフ、呼ばれてるみたいですけど?」
「さぁ、気のせいでしょ」
訝しがる二人を連れて、そのまま自分の部署へ歩き出した。