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それから20分程度で家に着くと、リビングにもキッチンにもマナの姿はなかった。もしやと思い寝室に行ってみると、俺のベッドの上でスヤスヤと眠りに就いていた。
「マナ――」
俺はベッドに腰掛けると、マナの髪を優しく撫でた。そして寝相の悪いマナが蹴飛ばした布団を直して部屋を出ようとした。
「圭ちゃん――」
「マナ――ゴメン、起こしちゃったか?」
「うぅん、違うよ。どこ行くの?」
「どこにも行かないよ。ちょっと戸締まりをしてくるだけだ」
「そんなのいいよ。こんなボロい家じゃ誰も泥棒に入らないよ。いいから一緒に寝て」
「わかった。3分で戻るから待ってろって」
それから部屋を出ると、急いで戸締りをして、約束通り3分でマナのいる寝室に戻った。マナは壁側に体を向けて眠ってしまっていた。俺はマナを起こさないように、静かに布団の中に入った。
「圭ちゃん――」
「起きてたのか?」
「待ってろって言ったから、待ってたの」
「そうだったな。ワリい」
「圭ちゃん、ギュッてして」
「――――」
「ギュッてしてくれたら、おとなしく寝るから、お願い!」
「わかった」
そして俺はマナを抱きしめた。マナが一番好きなベストポジションで抱きしめてあげた。
「圭ちゃん、今のギュッと最高に好き。どうしてわかるの?」
「それは――」
俺とマナが一緒に過ごしてきた、何ものにも変え難いかけがえのない時間が2人にはあったからだとは、とても言えなかった。
「ねぇ、どうして?」
「何て言って欲しいんだよ」
「マナが喜びそうなこと」
「実は――マナ、お前は階段から転落したことが原因で記憶の一部を失ってしまっているんだ」
「そうなの? でも失った記憶って何?」
「その記憶というのは、俺とマナが付き合っていたことや、婚約して結婚式場もウェディングドレスも決まっていたというものだ。だから俺は、マナのことで知らないことは殆んどない」
「何それ? じゃあ私、圭ちゃんと結婚しなきゃいけないよね?」
「するか?」
「うん」
マナは俺の胸の中で小さく頷いていた。
「今の俺の言葉を信じるのか?」
「信じるよ。圭ちゃんが言うことは私にとって絶対だもん」
「それを聞いて嬉しかったか?」
「ビックリしたけど嬉しかった。だから圭ちゃん、私をしあわっ――」
「そっ、そんな訳ないだろ! もし本当にそうなら、病院で直ぐに打ち明けてるよ」
「―――――。そうだよね。言わない理由なんてないもんね。それじゃあ、やっぱり私と圭ちゃんは何でもなかったってこと?」
「あぁ――」
するとマナは俺の胸に顔をより強く押し当ててきた。それがどういう意味を持っているのかは俺にはわからなかった。