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それから半年が経ったけど、俺はマナのプライベートに立ち入ったりは一切しなかった。マナが今どんな日常を送り、誰と遊びに行き、誰と食事に行き、誰と付き合っているかなど、俺は知らないし、関係なかった。見えない部分は大きかったけど、夜になれば2人の家に帰って来るし、家にいれば俺から片時も離れないマナがいた。でもいつしかマナは、俺と同じ布団で眠ることはなくなっていた。その行動が何を物語っているのかは検討もつかないし、もしかしたら俺にとって都合のいいことではないかもしれない。それでも、こんな不思議で特別な関係でいられるのは、やはりマナの意識の中には、忘れてしまった2人の時間が存在しているに他ならない。
「圭ちゃん、明日って家にいる?」
布団に入り眼を閉じていると、マナはいつものように馬乗りになって話しかけてきた。
「重いって」
「明日家にいるよね?」
「何でだよ?」
「あのさ――」
「もしかして俺に会わせたい奴でもいるのか?」
「そっ、そうなんだけど――どうしてわかったの?」
荻野さんを俺に紹介する時の状況に似ていた。考えないようにしてたけど、いつかはこうなることがわかっていたような気がした。
「荻野さんの時と同じだったからな」
「そうだったっけ? 全然覚えてないや」
「一日中家にいるから、いつ連れて来てもいいぞ」
「いいの?」
「会わせたいんだろ? 俺に気を遣うなよな。マナが好きになった人なら俺は祝福するよ」
「圭ちゃん――ゴメンね」
「何謝ってんだよ。もしかして俺が前にマナを好きだって言ったことを気にしてるのか?」
「そりゃ気にするでしょ。それなのに私は圭ちゃん以外の人を好きになって――」
「気にすんな。別に俺たちは付き合う約束をしていた訳じゃない。それにいつまでも同じ女を好きでいる程、俺はロマンチストじゃないんだ」
「そうなの――」
「何ガッカリしてるんだよ!」
「だって――」
「寂しい時は一緒にいてやるし、悲しい時は抱きしめてやる。ずっと守ってやるから心配するな!」
「圭ちゃん!」
「んんっ」
これは何のキスなのだろうか? 数ヵ月前までは普通にしていたキスも、今はただ悲しく切ないものだった。
「圭ちゃん大好きだよ」
「俺もだ――」
「うん――」
マナは俺の胸に顔をうずめると、声をあげて泣き出した。マナの涙を見て、自然と俺の目からも涙が溢れてきた。
翌日、マナが男を連れて家に来ると言うので、マナが散らかした部屋を片付けながら掃除をした。
《午後の1時くらいに行くから》
掃除を終えて、ソファーでくつろいでいるとメールが入ってきた。スマホで今現在の時刻を確認すると、まだ午前10時ちょい過ぎだった。