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残された仲間達の優しさで泣くのを止めたコユキは、あたらな問題に直面し、またぞろ、悪くは無い頭ではっちゃけ~はっちゃけ~とその腐りきって溶け出しそうで強烈なBL臭を放ち捲っている脳漿(のうしょう)をひねる事となったのである。
悩みの元は、目の前でチョコンと腰を下ろしている、馬鹿みたいにデカイ巨大な月の輪熊達三頭の事であった。
「う~ん…… タクシーは勿論、電車にだって乗れる訳無いわよねぇ~、ロシアじゃあるまいし、ハーネスつけた位じゃパニックよね? 下手すれば富士駐屯地からやつ等がやってくるわね…… こんな不意に訪れる実弾演習なんて彼ら自身も望む所では無いだろうしぃ…… 困っちまったわねぇ?」
「「「グルルゥゥ……」」」
ム~ン、悩んでも悩んでも答えが見つからずに知恵熱で寝こんでしまう直前のコユキを見かねたカイムが助け舟を出すのであった。
「ねぇ、コユキ様? 坊ちゃん、善悪様に連絡してウーバーって貰えば良いんじゃないですかね? ダメなの? キョロロン?」
コユキは即答する。
「え? だって、善悪のウーバー○ーツってクールタイム結構長いじゃないの! さっきカイムちゃんを送って来たばっかりなんだから、土台無理な話でしょぉ? 『今直ぐ持って来い!』とか言っちゃう馬鹿すぎる配達先の頭の悪いオッサン達と同じこと言ったって物理的に無理なものは無理じゃない? モンスタークレーマーじゃあるまいしぃ、でしょ! 善悪の唯一の欠点って聖魔力が少ないことだからさぁ、んねぇ?」
カイムが素っ頓狂な声で返した。
「あれぇ? 一昨日(おととい)昨日(きのう)で坊ちゃんの魔力は数十倍、ってか無限に近くなった筈ですよぉ? 一緒に術行するオルクス卿にも魔力譲渡出来る筈ですけどねぇ? 聞いてませんのん? キョロロン」
「なっ! ……マジで?」
「うん、マジ、キョロ」
いつものヤツだった……
あいつ等って実際に生き馬の目を抜くような生きたビジネスシーンで働いた事が無いから『ホウレンソウ』の重要さを一ミリも理解していないんだった。
これだから、タチが悪いんだよな~、ああ、全く…… あいつら(特に善悪)、実社会の厳しさを全く分かっていない! 嘆かわしい事この上ないねぇ! と、一度たりとも表、堅気の社会で働いたことも無いコユキは思ったのである。
報告も連絡も相談でさえ碌(ろく)にしてこない馬鹿とは言え、困った時の相談相手としては、数少ない人間の仲間である善悪にコユキは不承不承(ふしょうぶしょう)連絡を入れるのであった。
疲れたので座って電話する事にしたコユキは、今回は大分汚れてしまったツナギが、これ以上汚くならないように、先程手に入れた『無限饅頭』のゴザをしっかりと敷いてその上にドッカリと腰を下ろすのであった。
「あ、もしもし、善悪? アタシコユキ、今、アナタの、いやヤッパ良いわ、相談があるんだけどね~、へ? ああ、大丈夫よ、飢えてはいないってば! それよりもね~、あ、ちょっと待っててね! 巨大葬式饅頭が恐いわ~! おほっ♪ ああ、お待たせ~、モグモグ、チット頼みたいんだけどねぇ~、モグモグモグ、善悪ってウーバー何度も連続で出来る様になったって、モグモグ、カイムちゃんに聞いたんだけど、モグモグ、本当なの? うん、モグモグ、うん、あ、ちょっと待って、えーとっ、そうだ! 桜餅が百個もあったらもの凄く恐いわ~、うひゃっ♪ モグモグモグ、あーお待たせ! んじゃ、出来る訳ね? モグモグモグモグ、じゃ、準備ができたらそっちに呼んで頂戴ね、モグモグモグモグモグモグモグ、じゃっ、又ね!へ? 何を送るって? こっちで出会った新たな仲間よ、三匹いるんだけどさ、抱き合わせて一回でいけると思うから、うん、うん! モグモグモグモグモグモグ! はいはい、又後でね~、はーいはいはい ピッ!」
モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ……
「ふぅ~、漸く(ようやく)小腹が膨れたわね、さてと……」
立ち上がり素早くゴザをクルクルと巻いてから背中のリュックに差し込んだが、サイズが大きかった為半分以上飛び出してしまった。
少し恥ずかしいと判断したコユキはリュックに入れるのを諦めて両手で抱えて持ち運ぶ事にしたのであった。
横では回復しきったカイムが、コユキから渡されたピンクの付箋紙に『聖女と愉快な仲間たち』のパーティーマークである冥王星、プルートの天体サインと同じPとLの合成文字を書き込んでいる。
カイムから付箋紙を受け取ったコユキは、新たな仲間のリーダー、タマちゃんの眉間にペタっと貼り付けて、残り二頭の熊にも指示を出して、三頭しっかり抱きあって決して離れないように強い口調で命じた。
そうしておいてラインで善悪に合図を送ると、数秒後光に包まれたタマちゃんと二頭の熊は姿を消すのであった、恐らく幸福寺に転移したのであろう。