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「んじゃ、カイムちゃん行こっか! 」
「うん、キョロロン」
肩に飛び乗った金色の悪魔、カイムと共に、山中を戻るコユキの姿は、戦いの激しさを表すように、土埃と返り血によって薄汚れてしまっていたし、顔や手足等、露出した部分もまた、蜂に刺され蝙蝠(コウモリ)に噛みつかれて今迄に無く痛々しい物であった。
『自然回復UP(極小)』を常に発動し続けてはいるものの、完全に治すにはかなりの時間を要することだろう。
肝心のコユキは自身の姿には一切頓着(とんちゃく)する事無く、カイムに話し掛けながら時々笑い声を響かせテクテク歩いて行くのであった。
木立の中を小一時間程進んで朝タクシーを降りた道路に辿り着いた二人はすぐそばにあったバス停の名前を告げてタクシーを呼ぶと、程無くして到着した車で最寄の駅まで移動したのである。
色々あったがまだ日は高く、スマホで時間を確認すると昼を少し過ぎた所であった。
「たまにはゆっくり景色でも見ながら帰ろうかな」
不意に呟いたコユキの声にカイムも嬉しそうにしている。
普段幸福寺の周辺から離れた事が無かったのだから、ワクワクしちゃうのは当然と言えるだろう。
のんびりと各駅停車の在来線で静岡県を東から中部地域へと電車に揺られる道すがら、車窓の向うに見える様々な景色に一々大仰に騒ぐカイム。
同じ車両に乗り合わせた人々のうち、幾人かが驚いて何度も振り返っていた。
「ほらあれ見てコユキ様! でっかい山だね~、山頂なんて真っ白で綺麗だなあ、キョロロ~」
「ちょ、ちょっとカイムちゃんあんまり大きな声で話しちゃダメよ! 皆見てんじゃないの! ましてやこのご時勢、自粛警察に目を付けられたらどうすんの?」
まだ少しだけ人間としての常識が残っていたコユキは声を潜めてカイムに注意したのだが、時既に遅し、一組のカップルが近づき話し掛けて来るのであった。
「ねえおばさん、その金色のが話してるじゃんか? それって何なん?」
「ごめんなさい、この人口が悪くって…… でも? それって? コミュニケーションロボット、とかですか?」
「む……」
咄嗟(とっさ)に何と答えた物か、言葉を失うコユキに代わり、当事者であるカイムが棒読みで答える。
「こんにちは、ぼくはかいむだよ、きみはだれ?」
「お、話したぞ! なあ、お前ってロボットなの? どうだ?」
「すみません、ききとれませんでした、いんたーねっとでおんがくをさがしますか?」
「なんだよ、ポテンシャル低いな、ポンコツかよ? あー、つまんね、行こうぜ」
「ごめんなさい、でもやっぱりAIロボットだったんですね、失礼しました」
カップルは離れて行った。
コユキの出る幕は無く交わされた会話は他の乗客にも聞こえていた様で、彼らもカイムを変な生き物ではなくAI搭載のロボットかペットの類だと判断したらしく、急激に興味を失いスマホや文庫本、イヤホンから流れる音楽へと意識を戻していった。
コユキも安堵の息を吐いてカイムに話しかけた。
「ふぅ、バレルかと思ったけど結果オーライだったわね、偶然話し掛けて貰ったお蔭で周囲の注目から解放された、良かった……」
「偶然じゃないですよ」
「へ?」
カイムはニヤリと嘴(くちばし)を歪めて答えた。
「このカイムが動物と話したり制御出来る事はご存知では? さっきはこの車両で最も知性の低い個体、あの男をコントロールして話し掛けさせたのです♪ 良かったチンパンジー並の馬鹿がいて、キョロロン♪」
「ああー、そーいう~、なるほどね♪」