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イージス艦での映画撮影企画は、テロリストがイージス艦きりしまを乗っ取るという過激な脚本にもかかわらず、防衛省海上自衛隊全面協力と銘打たれ、かえって特捜専隊に不信感を抱かせた。
そこへの潜入捜査の準備を整える特捜専隊。
拠点となる警察病院には君塚警視と部下の運転で着いた。途中、階級が下の桜警部が運転を代わることを申し出たものの、あしらわれてしまった。
……警察病院の地下に案内される桜祐警部と千代田春警部。
「ここは?」
「いいから、着いてきてくれ」
君塚がドアを開けると、手術室のような部屋があった。
手術室のようなライトに、椅子がある。
パーマをかけた眼鏡の女性医師と助手の小太りの男性がいる。
「あなたたちには今から特殊メイクで別人になってもらうわ、さあ、服を脱いで」
別室に通された桜祐警部と千代田春警部は、互いにカーテンで区切られた区画にて着替えを促される。
腕時計などが、さらには婚約指輪まで預かられ、スーツを脱ぎ、ワイシャツだけになり、祐も春も下着姿になる。
「下着もね! 全裸になって」
下着を看護師が預かる。
そうして四方向から写真撮影し、身体のサイズを測る。春は羞恥で顔を真っ赤にしている。
そうして検査着のようなものを渡され、着替えさせられる。
「どんな顔にしたい? 好みは?」
千代田が眼鏡を外し、戸惑う。
「お任せします」
桜警部はそう答えるしかなかった。
椅子に腰掛けた桜祐、千代田春の顔に施術するスタッフ。
「髪型も変えておくわね。祐君はイケメンだし、春さんは美人だから、垢抜けたらもっとよくなるわよ」
桜祐が短髪で野性的に、千代田春が垢抜けた印象の美女となる。
特殊メイクの手術を受けて別人となる桜祐と千代田春。
「撮るわね」
別人になった二人が写真に撮られる。
タイミングを見計らって君塚警視が入室した。
「新しい身分証だ」
身分証には、塚崎陽斗と吉積ひなたと書かれていた。
君塚は説明する……
「公安が過去の違法作業で得た戸籍を乗っ取る形にした」
君塚がUSBメモリを渡す。
「イージス艦での映画撮影は二週間後、それまで二人のキャラクターについて徹底的に学び、乗り移れ」
* *
警察病院では桜祐と千代田春に部屋が割り当てられた。いや、塚崎陽斗と吉積ひなただ。
ベッドに寝そべる塚崎は考え込む。
「(僕らの新しい戸籍。警備企画課の中村理事官が用意したのか。さすが違法作業を取り仕切るゼロの手腕だ)」
ゼロとは、公安警察の中でも違法任務(作業)を担う警察庁警備局警備企画課の直轄部隊だ。
と、ベッドから身体を起こす塚崎。
「(この戸籍は公安違法作業での殉職者のもの。父さんが警備局長時代の極秘任務だ)」
塚崎は目を見開き、元警察庁警備局長たる内閣総理大臣の父が公安の闇に触れる立場であったと再認識する。
ドアのノックの音が鳴る。
千代田春あらため吉積ひなただった。
「どうかな? 似合う?」
ひなたがワンピースを着て身体を可憐に揺らす。
塚崎が吉積の腰を抱き寄せた。
「もっとこの目で確かめたいな」
その甘いセリフに吉積は痺れた。
「イケメンしか許されないセリフだよ」
塚崎が吉積を強引に押し倒した。
* *
机に突っ伏して寝る塚崎の寝顔を先に起きた吉積が恍惚とした表情で見つめる。
露わな胸元をシーツで隠して起き上がると、塚崎は映画撮影の予習をしていながら寝落ちしたようだった。
イージス艦きりしま。
それは海上自衛隊が横須賀に配備した、最強の戦闘艦艇の名だった。
二週間後、塚崎陽斗と吉積ひなたは警察OBの実技指導トレーナーとして、映画シーマンシップの撮影現場に潜入捜査する……