テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
部屋にはかわいいぬいぐるみ。服にも気を使って、髪も毎朝早起きして巻いて…
休みの日には、世の女子が羨むようなティータイム。
俺はこの生活が気に入っていた。
それに、”好き”には正直でいたい。
ut「あ、おはよぉマンちゃん」
食堂に向かうと、厨房の方から声がかけられる。今日の調理担当は大先生らしい。
もしかしてこの匂いは_____
os「え、パンケーキ?!」
ut「おぉ、よぉわかったな!」
os「やっためう〜!!」
ut「マンちゃんほんまにパンケーキ好きやね…あ、紅茶淹れてくれへん?」
os「まかせるめう!!」
朝から大先生のパンケーキが食べられるとは、なんて思いながらお気に入りの紅茶を淹れて…
ほんまに幸せな毎日や。
それもこれも、あの時彼がいなければ____________
俺の父は陸軍の最高指揮者だった。
幼い頃から軍隊の基礎を教え込まれ、厳しく育てられた。
母親はおらず、父は俺を一人で育ててくれた。
男として、軍人として、完璧であるようにと何度も言われた。
本当は陸軍じゃなくて、外交官になりたかったけど…
俺は父親の期待に応えたくて、必死に頑張った。
軍学校での成績はトップで、毎日欠かさず訓練をして……
__________でも父にとってはそんなこと当たり前で。
もっと成果を残さないと、と焦っても父は俺のことを見てくれない。
そんな生活に滅入ってしまって、気分転換になればと思い街へと出かけた。
そこで目についたのは、店頭に並ぶぬいぐるみや、かわいいブローチなど、女の子の好むようなものばかり。
結局その日は自分の気持ちに蓋をして、参考書だけ買って帰ったが………
その日からかわいいものを見る度に、買えば良かったと後悔していた。
そんなある日、軍学校の廊下でひよこのキーホルダーを拾った。
可愛らしいデザインだったから、きっと女性のものだろう。
軍学校に所属する女性は少ない。すぐに持ち主が見つかるだろう。
翌日、俺のもとに背の低いマスクをした男がやってきた。
どうやら、昨日のキーホルダーの持ち主らしい。
os『これは貴方のものですか?』
??『はい。お拾いいただき、ありがとうございます』
どことなく柔軟で、落ち着いた雰囲気だ。それに佇まいも独特で……もしかして____
os『…日本人の方、ですか?』
??『!!』
??『よくお分かりになりましたね』
os『日本人は特徴的ですから』
日本に興味があった俺は、彼とよく話すようになった。
初めは日本の文化について。
そのうち話題は他愛のないことになっていき、彼…ひとらんとは友人と呼べる仲になった。
os『次の休み?空いとるけど…』
ht『街でお祭りがあるんだって、一緒に行かない?』
os『ああ、収穫祭のこと?食べ物の屋台が出るやつやんな』
ht『そうそう』
os『ええよ、行こ』
収穫祭当日、思っていたより人が多くて中々集合場所にたどり着けず、予定より遅れてしまった。
os『ごめん遅なって』
ようやく集合場所に着き、待たせていたひとらんに謝ると、今来たところだから気にしないで、と言われた。
ht『わあ、見てかわいい』
彼が指を向ける先には、子供が喜びそうな小さなお菓子屋さん。
可愛らしいうさぎの形のクッキーや、くまみたいなケーキが並んでいた。
思わず、かわいい、と言いかけて口をつむぐ。
……かわいいと言ってしまうと、欲しくなるから。
何も言わない俺を不思議に思ったのか、ひとらんが声を掛ける。
ht『…かわいいね?』
どうやら聞こえていないと思われたらしい。
os『……うん、せやね』
ht『うさぎのクッキー買おっかな…マンちゃんもいる?』
os『えっ?』
思いがけない誘いに、思考が停止する。
うさぎのクッキー。たしかに欲しいけど…
(俺は男で…軍人で……)
(でもそれはひとらんも同じやし)
(期待に応えなきゃ)
(…また我慢するんか?)
ht『えっと…かわいいの嫌いだった?』
os『あ、ちが…好きやけど…』
そこでようやく気がついた。
____________かわいいもの好きなんや、俺…
かわいいものが好き。
男なのに…
ht『じゃあなんで迷ってるの?あ、クッキー嫌い?』
os『…俺、男やし』
それを聞いたひとらんがきょとんとした顔でひとらんが言う。
ht『男だったらかわいいもの食べちゃいけないの?』
ht『男だから駄目なんて誰に言われたのさ』
あれ…?
たしかに俺……そんな事言われたことあったっけ
ht『別に好きにすればいいじゃんか』
ああ、俺が勝手に思っとっただけなんか…
os『…そうやね』
os『食べる、俺のも買って』
それから短かった髪を伸ばした。
部屋はかわいいものでいっぱいになったし、メイク道具も買った。
………父親には、外交をしたいと伝えた。
流石に怒られるだろうと思ったが、父は優しく頭を撫でて
『まったくワガママを言わないから、信用されてないのかと思ったぞ』
と笑った。
全部、あの時ひとらんがああ言ってくれたのおかげだった。
もっとも本人は気づいてないみたいだけど。
ht「おはよ、マンちゃん」
os「おはようめう!」
ht「ん…?あれ、香水変えた?」
os「お、さすが……モテる男や」
ht「まあ毎日あってるからね」
os「……ひとらん」
ht「ん?」
os「ありがとう」
ht「え?なにが?」
os「いろいろ」
ht「…??」
スクロールお疲れ様でした!
マンちゃんのかわいさにはこういう裏話があってもいいですよね…
もちろん大先生にも同じことが言えますが。うさまるかわいいですよね。
次回作は私的に神作なんじゃないかと思います(個人の意見です)
乞うご期待
next→紫の役割
追記:話の順番入れ替えました。