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100 - 青春は、まだ始まったばかり14

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2025年05月30日

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月曜日の放課後。

教室に残っていたのは、元貴と滉斗だけだった。


誰もいない静かな時間。

ふたりの間に流れる空気が、先週までとは明らかに違っていた。





「なぁ、今日も音楽室、行かない?」


「行く。むしろ、元貴とじゃないと意味ない」


「……なにそれ、うれしいけど照れる」





滉斗は平然と、少しだけ赤くなった頬を指でかいた。






音楽室。

静かな夕暮れの光が差し込むなか、 ふたりで椅子を並べて座り、ギターを取り出す。

何も言わなくても、コードとメロディが自然と重なりはじめる。




「……実は今日さ、家で作ってきた新曲があるんだ」


「え、マジ?」


「うん。タイトルは……“恋と吟(うた)”」




滉斗が、驚いたようにまばたきする。





「……滉斗のことを想って、作った曲」


「っ……やばい、それ……普通に照れる……」


「ふふ、でも聴いてね。今日、初披露だから」




そう言って、元貴はギターを膝に乗せた。


そのとき——音楽室のドアが静かに開いた。





「お邪魔してもいいかな?」





振り返ると、そこには藤澤先生が立っていた。





「先生!」


「たまたま通ったら、ギターの音が聴こえてきてね。ちょっとだけ寄ってみたくなったんだ」


「ちょうど今から、新曲を弾くところだったんです」


「それはナイスタイミングだ。ぜひ聴かせて」








静かな空気の中、元貴は弦に指をかける。


そして、ふたりの前で、初めて“この気持ち”を音にした。





不意に寂しくなった時

隣に君が居ればなあ

独りの時間なんてもの

無くて済むのに——






——また君を思い詞を綴れど

恋の歌の様に綺麗じゃないな

この思いが君に届いてればな

この声で唄わずに済むのにな





滉斗の表情は、どこか恥ずかしそうで、それでも真剣に聴いてくれていた。


藤澤先生も腕を組み、じっとこちらを見つめている。








歌い終えた瞬間、音楽室に拍手が響いた。





「すごい……本当に、すごいよ元貴」


「うん……鳥肌たったね。なんか、歌詞もやばいし……」





ふたりとも、素直に褒めてくれるのが、すごく嬉しかった。


その時、藤澤先生がふっと微笑んだ。





「その曲……ピアノのメロディを入れたら、もっと良くなりそうだね」


「え?」


「……ボーカルは元貴くん、ギターは滉斗くん。

で、ピアノが僕で、3人でセッションしてみたら? 面白いと思うな」





滉斗が目をまん丸にする。





「……え、なんかすごい。バンドじゃん、それ」


「元貴くん、コード譜とか、デモ音源とかある?」


「はい、あります!」


「じゃあ明日、譜面もらえる? 家で練習してくるよ」


「……本当ですか?ありがとうございます!明日、絶対持ってきます!」





元貴が深く頭を下げると、藤澤先生は笑いながら肩を叩いてくれた。





「楽しみにしてるよ」









先生が音楽室を出ていくと、ふたりだけの空気が戻ってくる。





「……なんか、すごいことになってきたな」


「うん。まさか先生がピアノ入れてくれるなんて」


「3人でセッション……ちょっと想像つかないけど、ワクワクする」


「ね。……きっと、良い曲になるよ」





“好き”から生まれた音楽が、少しずつ世界を広げていく。


その始まりに、今、立ち会えたことが、すごく嬉しかった。








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