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「死になさい。命のために」
白い大きな瞳に白髪の綺麗な髪。髪色に合わせるように白を基調とした衣装は少しの装飾が施されており、背中から生えている翼と常にその身から放たれる光が神聖さを増していた。
「死になさい。命のために」
天空からその美しい翼を羽ばたかせ、地上へ降り立つ。彼の___天使の目的はただ一つ。人類を、滅ぼす事だ。
「死になさい。命のために」
そよそよと肌を撫でるかのような優しい風が吹き、枝葉が擦れ音を奏でる。暑くも寒くもない、心地よい気温の中、綺麗に敷かれたシートの上に座り、読書を楽しんでいる一人の女を見付けた。
その人間を見た時、言葉では言い表せないようなナニカが体中を駆け巡るような感覚に陥った。その感覚を認識すると同時に、何故だか書物に落とされた目線を、こちらに向けて欲しいと思った。そこら中に咲いている花をひとつブチ、と手折る。
視界を上にあげると、読み終わったのか、人間は読んでいた本をパタリと閉じ、手馴れた手つきでカップに口を付け喉の乾きを潤していた。こちらの存在に気付きもしない間抜けな人間に近付くと、漸くこちらの存在を認識したように警戒を露わにする。
「ッ天使!?」
その人間は今までの人間と概ね似たような反応をした。数十秒の沈黙の後、いつまで経っても襲ってこない様子に人間は怪訝そうな目でこちらを見やる。少しの思考の中、ハッとした様に目を見開いた。
「……もしかして、そのお花、くれる、の?」
その問いに答えるように、人間の足元に花を落とす。
「……………ありがとう。とても綺麗ね。」
その花を手ですくうようにして拾い上げた人間は、嬉しそうに頬を赤く染め、ふわりと花が咲く様な笑顔でそう言った。
「大切にするね。」
微笑んだ姿がとても眩しく見えて、意図しない内に口から言葉が零れた。今まで自分の言葉で会話するなんて事してこなかったからか、零れた言葉はか細く、人間には聞こえ無かっただろう。そもそも発音すら出来ていなかったかもしれない。
「ねぇ、あなたは___」
「ッ主様!!!!!!!」
遮るように発せられた怒号とも言える声と共にザシュ、と鉄の塊が体の表面を傷付けるのがわかった。裂けた箇所から血は流れず、否が応にも自分は生物からかけ離れた存在だと言うことを思いしらせられた。
グラリ、と視界が揺れ、浮いていたはずの体は重力に従い地面に落ちた。霞んでゆく視界の中で、悲しそうな表情の人間が酷く目に付いた。小さく震える人間を庇う様に後ろに下がらせ、こちらを睨み付けてくる男は、悪魔執事と呼ばれる人間だ。そうか、この人間は悪魔執事の主なのか。
言うことを聞かない体に、このままこれまで消してきた人間と同じように己も淡い光となって消えていくのだと悟った。この世界に存在したと言う証拠は残さずに。これが報いと言うものなのだろう。
けれど。
もし、許されるのなら。
あの人間の名前を知りたかった。