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翌日、私はずっと憧れていたピンクのドレスを身に纏い、ブルーのドレスを着たレティと馬車に乗る。
同行しているレティの女官たちは、彼女から秘密厳守で今回の計画を打ち明けられていたらしく、渋々ながらも私を聖女として扱い、着替えなどの面倒を見てくれた。
ジョゼは当然レティと行動を共にしているけれど、彼女が傍にいないと心細い。
レティ用にあつらえたドレスは、刺繍が細やかに施されてとても美しい。
私が普段着ている物も王女が着るに相応しいドレスだけれど、心なしかレティのドレスのほうが質がいいように思える。
私は窓の外を見ながら無意識にドレスの生地に触れ、そんな事を考えていた。
(こんな状況でドレスの差なんて、どうでもいいのに……)
つくづく、自分はこういう小さな事の積み重ねに、煩わされてきたのだと感じる。
(念願のピンクのドレスを着られたのだから、『ラッキー』ぐらいに思っておかないと。きっと帝都で生活するようになったら、ドレスの色なんて気にせず過ごせるようになるわ。だってこれからはいつも側にアルフォンス様がいるんだもの。ドレスの色になんて構っていられないほど、毎日幸せに暮らせるに決まっている)
私は自分に言い聞かせ、帝都の周囲に広がる農村地帯を見る。
窓際に体を寄せると、前方に広い帝都を囲む城壁が見えた。
その上空は、相変わらず曇天に包まれている。
(もう少しだわ)
緊張して唇を引き結んだ私は、隣に座っているレティを見る。
(変なの。レティがブルーのドレスを着ているなんて)
彼女は馬車に揺られながら本を読んでいる。
もう少しで入れ替わった状態で帝国の人々の前に出なければならないのに、とても落ち着いている。
(聖女だから、肝が据わっているのかしら)
やはり同じ顔をしていても、私たちは中身が違う。
それこそが私が特別ではない証拠のような気がして、思わず溜め息が漏れた。
帝都内に入ると、聖女が輿入れするという事で、民が手に帝国旗とシャレット聖王国の旗を持ち、紙吹雪を舞わせて歓迎していた。
先頭を行く騎馬兵は正装に身を包み、城門の外で楽器を出した鼓笛隊が行進曲を奏でる。
そんな中、私は引きつった笑みを浮かべて民に手を振っていた。
(ううう……っ、聖女の名声に憧れていたはずなのに、これは……、つらい!)
民は私を見て「聖女様だ!」と指をさし、目をキラキラさせて猛烈な勢いで手を振ってくる。
ずっとひっそり生きてきた私は、大勢の人に注目され、期待された事がない。
国規模で騙しているのだと思うと胸が痛み、緊張のあまり頭の中が真っ白になる。
何も考えられなくなった私は、焦点の合っていないうつろな表情で笑顔を作り、ひたすら手を振り続けていた。
中央宮殿の前には広大な庭があり、出入り口までまっすぐに舗装された道路が続いている。
その途中には三箇所、円形の広場があり、そこには朝、昼、夜の女神像を中心にした噴水があった。
聖女が乗った馬車が中央宮殿の前に着く頃には、帝国貴族たちが左右に列を作って歓迎の準備をしていた。
「シャレット聖王国第一王女、レティシア様がお越しになられました」
侍従が朗々とした声で言い、私は緊張で卒倒しそうになりながら、供の者の手を借りて馬車から降りた。
その途端、ワッと歓声が聞こえ、魔術師によってキラキラと輝く粒子と、幻術の花びらが周囲を舞う。
そのあとに「シャレット聖王国第二王女、フェリシテ様がお越しです」と声がし、レティが優雅に馬車から降りた。
けれど歓声は私の時ほどではなく、「いまレティはなんと思っているのだろう」と気にしてしまう。
人々の中央には濃紺のジュストコールに身を包んだアルフォンス様が立っていて、いつもと変わらない微笑を浮かべている。
(……分かっていて……、の笑みかしら)
確かに彼と作戦を確認したはずだけれど、こうやって自然に対応されると自信がなくなってしまう。
「レティシア王女、長旅ご苦労だった。フェリシテ王女も歓迎する」
皇帝陛下からねぎらいの言葉をもらった私たちは、片手を胸に手を当て、もう片方の手でドレスのスカートをつまんでカーテシーする。
「今宵は歓迎の宴を用意しているから、存分に楽しんでくれ」
「はい」
そのあと私たちは応接室に通され、使用人が貴賓室まで荷物を運び込んだ。
宮殿に入ったあとは、誰がどこに聞き耳を立てているか分からないから、私は完全にレティシアとして振る舞う事になっていた。
輿入れした聖女を迎える祝宴は盛大に行われ、テーブルの上にはぎっしりとご馳走が並んでいる。
部屋の隅では、楽師たちが会話の邪魔にならない程度の音量で曲を奏でていた。
私は事前にレティから、みんな聖女に話しかけたくて堪らず、加護を求めてくると聞いていた。
だから外交を通じてお会いした方々を絵姿で教えてもらい、名前や顔、経歴を頭に叩き込んだ。
幸いな事に、『聖なる力が使えないなら、他の事で褒めてもらえるようにしよう』と努力した中で、暗記が得意になった経験が役立った。
だから誰に挨拶されても間違える事なく接する事ができた。
おかしな事は言わなかったと思うけれど、たまに「聖女様」「レティシア王女」と呼ばれてすぐに反応できない時があり、ヒヤッとする。
でもなんとか誤魔化して、みんなにいい印象を与えて祝宴を終わらせられた……と思う。
式は一週間後に行われる予定で、それまでに大陸中の王侯貴族が続々と帝都を訪れた。
アクトゥル大陸で最も権力を持つ皇帝の結婚式という事で、帝都内は活気づいている。
私はアルフォンス様と結婚式の予行練習を行い、ドレスに袖を通して宝飾品も身につけ、結婚指輪のサイズも確認する。
レティはあとから帝国を訪れた家族と共に過ごしているようだけれど、まだ入れ替えがバレたという報告は聞いていない。
万が一を考え、私は帝都に着いてからなるべくインビジブルハンドでレティに触れ、何かあったら魔力を高めて合図を送ってもらう事にしていた。
その連絡がきていないという事は、困った事態には陥っていないのだろう。
緊張しながらも忙しい日々を送ってあっという間に一週間が経ち、とうとう私は聖女レティシアとしてアルフォンス様と式を挙げる事になった。
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