TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

食事嫌悪

一覧ページ

「食事嫌悪」のメインビジュアル

食事嫌悪

1 - 第一話

♥

58

2024年05月06日

シェアするシェアする
報告する

白をメインとした滑らかな壁紙に、暖かい照明の色。

ナイフとフォークの擦れた金属音に、幸せそうに笑い合う者たち。

皆美味しそうに我楽多《ガラクタ》を食べている。

私の前椅子には上品な格好をした女性が座っていた。

女性は私の視線を感じたのか、にこりと笑う。

「美味しい?」

彼女は私の義母だった。

生まれたときから父親に暴力を振られていた私と母。

母が病で死んでから、母の親友であった彼女に引き取られた。

「あ、はい。美味しいです」

少し警戒しながら私は彼女に笑いかける。

「まだ食べていないじゃない」

不可思議そうに彼女は私を見る。

私が父に暴力を振られていたのは理由があった。勿論、これだけが理由という訳ではないが、主にはこれがその理由だろう。

私は物心ついたときから、食べ物が食べられない物に見えたのだ。

美味しそうに我楽多を食べる義母は、私に遠慮しないように促す。

勿論、義母なりの気遣いでこの店を選んでくれたのだろうが、食べ物が我楽多に見える私にとっては、高級料理だろうが手作りだろうが、生ごみでも同じなのだ。

「食欲がないんです…」

見え透いた嘘をついて、義母の言葉をかわす。

そう、と少し残念そうに彼女は笑った。

それでもやっぱり少しくらいは食べないといけないかと思い、皿の上に乗っている懐中電灯をナイフで細かくした。フォークでそれを差したら、口元に運んでくる。

ガリッ、ガキン、バキィ、と音をさせながら私はそれを咀嚼する。

義母は少し顔を明るくして私を見ていた。

「美味しい?」

「…はい」

ははは、と私は乾いた声を漏らす。

唯一良かったことは、私の歯が尋常じゃないくらいに固かったことだ。

続いてスマホをナイフで切り、フォークで差して食べる。

液晶画面が粉々になって口の中が傷まみれになった。

「とても美味しいです」

「本当っ?私、ここのお店気に入ってるの!」

食べてくれて良かった、と彼女は安堵するように笑う。

「そうなんですね」

彼女の言葉を軽く受け流し、私は愛想笑いを浮かべた。

我楽多に見えるのは種類によって変わらず、完全なランダムだが、この店は固くて咀嚼しにくいものが出てくる傾向にあるため、私はもう二度と訪れたくはない。

「母の友達さんは美味しいですか?」

「あ…えっと、私はーー」

言いかけた義母に被せるように私は言う。

「名前、知ってますよ」

「じゃ、どうしてかな…?」

彼女は静かに私に問う。

「呼びたくないからです」

「あ…」

ショックを受けたように彼女は口を開けたままフリーズした。

「そ、そうだよね、いきなり連れてこられてびっくりだよね、」

動揺を隠すように義母は笑った。

「あ、私は美味しいよ。特にお肉が好きなんだ、」

あはは、と彼女は苦笑する。

「…そうですか」

やっぱり美味しいんだ、と私は心の中で言葉を発する。

私は生まれたときからこうだから、味を感じたことがない。

皆が辛いと言って食べるものも、これが食べたいという欲望も、私は感じたことがないのだ。

私が義母に冷たく接するのもそうだ。

私の気持ちをろくに知らないくせに、こんな店に連れてきた腹いせだ。

彼女に悪意はない。だからこそ私は彼女に嫌悪を抱いていた。

「こ、これからの食事が楽しみだね」

と、彼女は笑う。

「………そうですね」

愛想笑いさえ浮かべずに、私は冷たく彼女を見つめた。

今までの食事も、これからも、私は決して食事に期待することはない。

皆が言う不味いでさえも、私は感じないのだから。

この作品はいかがでしたか?

58

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚