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レン
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鮎
88
ピノコニーの夢境は、今日も多くの人で賑わっていた。
「今日は随分と混んでいますね。」
「ええ。催しがあるそうです。」
サンデーは穏やかに答えながら、あなたの歩幅に合わせて歩いていた。
人混みはあまり得意ではない。
それを知っているからだろう。
彼は自然とあなたの少し前を歩き、人の流れを受けるように位置を変えてくれている。
「疲れてはいませんか。」
「はい、大丈夫です。」
そう答えた矢先だった。
後ろから慌てた様子の男性が人混みをかき分けて走ってくる。
「どいてください!」
ぶつかる――。
そう思った瞬間。
「こちらへ。」
サンデーがあなたの腕を優しく引いた。
ふわり、と体が彼のほうへ寄せられる。
男性はすぐ横を駆け抜け、そのまま人混みへ消えていった。
「……お怪我はありませんか。」
あなたは彼の腕の中にいることに気づき、慌てて一歩下がる。
「は、はい……ありがとうございます。」
「それならよかった。」
サンデーは安心したように微笑んだ。
けれど、その視線だけは人混みへ向けられたまま。
周囲に危険がないことを確認してから、ようやく肩の力を抜く。
「驚かせてしまいましたね。」
「いえ……助けていただき、本当にありがとうございました。」
「当然のことをしたまでです。」
彼はそう言って笑うが、その手はまだあなたの手首をそっと支えたままだった。
「あ……。」
視線が重なる。
「あ……申し訳ありません。」
気づいたサンデーはすぐに手を離した。
「失礼いたしました。」
「いいえ。」
あなたは少し勇気を出して微笑む。
「……あのままのほうが、安心できました。」
その一言に、サンデーは珍しく言葉を失う。
「そう、ですか。」
耳が少しだけ赤くなっている。
それを見てしまい、あなたまで照れてしまった。
「では。」
彼は少し考えてから、静かに右手を差し出した。
「人が多いので。」
理由はそれだけ。
けれど、お互い本当の理由は分かっている。
あなたはゆっくりと、その手に自分の手を重ねた。
「よろしくお願いいたします。」
「ええ。」
彼の指先が優しく包み込む。
決して強くはない。
それでも、絶対に離さないという意思が伝わる握り方だった。
そのまま二人で歩き続ける。
「サンデー様は、昔からこのように人を守ってこられたのですか。」
あなたが尋ねると、彼は少しだけ考え込んだ。
「守る……というより、守らなければならないと思っていました。」
「思っていた?」
「ええ。」
彼は苦笑する。
「以前の私は、誰かのためというより、自分がそうあるべきだと信じていたのです。」
静かな声だった。
「ですが、今は少し違います。」
あなたを見る。
その眼差しは、どこまでも優しい。
「あなたが困っている姿は、見たくありません。」
胸が高鳴る。
「ですから。」
彼は照れたように目を細めた。
「守らせていただけませんか。」
その言葉に、思わず立ち止まる。
「……そんなふうに言っていただけるなんて、思ってもいませんでした。」
「迷惑、でしたか。」
少しだけ不安そうな声。
あなたは首を横に振る。
「いいえ。」
少し照れながら、手を握り返した。
「むしろ、とても心強いです。」
その感触に、サンデーは一瞬だけ目を見開く。
そして、いつもの穏やかな笑顔よりも少しだけ柔らかく笑った。
「ありがとうございます。」
夕暮れの風が二人の間を通り抜ける。
歩幅は自然と揃っていた。
もう、人混みは怖くなかった。
隣には、何があっても自分を気遣い、守ろうとしてくれる人がいる。
その安心感が、握られた手から静かに伝わってくる。
そしてサンデーは心の中で、小さく誓う。
――この温もりだけは、何があっても手放さない。
まだ恋人ではない。
それでも、その想いだけは誰よりも本物だった。
コメント
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第3話、読み終わりました。人混みの中でぶつかりそうになる場面から、サンデーが自然と手を差し出してくれる流れ、すごく丁寧に描かれていて心が温かくなりました。特に「守る」という言葉の意味が、かつての義務感から今は「あなたが困っている姿は見たくない」という想いに変わったくだり、彼の成長と本心が伝わってきて胸がぎゅっとなりました。手を繋ぐときの力加減や、耳が赤くなる細かい仕草も含めて、距離感が本当に美しい。この先もずっと応援したくなる、そんなエピソードでした。