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はいはい、今日のところはメイクのチェックの為にしといてあげるよ♡ウホホ╰(´ˆิﻉˆิ`♥)
あらら〜美亜ちゃん😍 チェックのためじゃなくて、したくなった、ううんきっと私のポチ嶽丸!というお印みたいなのを嶽丸に付けて嶽丸にその気持ちをわかって欲しかった、じゃないのぉ〜🤭
「Ladies and Gentlemen…!」
ショーが始まった…!
司会の男性のよく通る声が会場に響き渡り、全員が一斉にステージに注目する。
刺すようなライトが縦横無尽に流れ、司会の男性が、ノリのいい音楽に乗るようにリズミカルにしゃべりだす。
「ファッションとヘアメイクの自由な融合…このテーマに挑む、5人のアーティストを紹介させてください…!come on!」
舞台袖で見ていた私は、ちょっと緊張…派手な雰囲気は大の苦手…
「康介…谷村っ!」
私のモデルを横取りした他店舗のスタイリスト。
今日はスーツを着崩した感じに着ていて、とてもカッコいい…
次々に出場者の名前が呼ばれ、皆ノリノリでステージに出ていく。
そして思い思いのポーズを取って会場を沸かせているけど…
どうしよう…私ムリ。
だからこんな派手な演出はしたくなかったのに…ケンゾーの言いなりになってたらこんなステージになってしまった。
…今まではもっと落ち着いた雰囲気で、私たちスタイリストの技術がよくわかるステージだった…。
和臣がいなくなった途端この有り様…ダメだな。本当、私は。
「なに落ち込んでんの?」
私の後ろから、覆いかぶさるように顔を出す嶽丸。
モヘアが頬にあたってこそばゆい…
「…ちょっと、こんなとこに来ちゃダメじゃん!ステージで出来上がりを見せないと…」
「もう誰もいないぜ?」
そうだった。
皆紹介されてステージに出てる…
あとは…わ、私だけ?
途端に目が泳ぐ。指先が…冷たくなる。
「美亜」
頭の上から優しい声に呼ばれた。
見上げれば、そこに美しい人が微笑をくれる。
「美亜は世界イチの美容師だ。誰よりも働いて頑張ってる…だから、自信持って行け!」
もしかして、それを言いに来てくれたの…
ふわり笑う嶽丸と視線が絡んだ瞬間、私の名前がステージで響いた。
「みぃぃぃぃあっ!きぃりしまぁっ!」
「…ためすぎだろ?あの司会者…もっと普通に呼べよ」
文句を言う嶽丸に笑っちゃって…私は緊張を忘れて、ステージの光の中に出て行った。
………
「これから5人のアーティストが、それぞれのモデルに異なるイメージを2パターン作ります。まず初めは完成した姿を…そしてこのステージで、別のイメージに変身させます…まさに…
ファッションとヘアメイクの自由な融合…!!」
…慣れてくると大げさな司会者の話し方が面白い。
順番に自分で決めたテーマ曲と共に、モデルとスタイリストが揃って
ステージに出ていく。
私は最後なので、もう一度舞台袖で嶽丸をチェックする。
「…もう完璧ぃ…!どこも直すとこなぁい…」
じっと見つめられて、テレくさいみたいに言う嶽丸。
「…自分で言わないでくれる?」
でもホントに。その通りなんだけどね…!
そして、この美しい嶽丸を、ついに披露する時が来た。
「モデル…黒崎嶽丸、アーティスト…霧島美亜」
司会者の紹介のあと、私は嶽丸を先にステージに出し、少し遅れて後につく。
ライトが当たる嶽丸…
瞬間、どよめきが起きた。
少し長めのショートの髪をアイロンでウェーブにして…衣装は片方の肩を出した、オーバーサイズの黒のモヘアセーター。異素材のロングスカートをはいている。
メイクは…ダークな赤い口紅と、赤いマスカラ。ファンデーションなんてほとんど塗らなくても綺麗な肌で、十分メイクを際立たせていた。
186センチという長身の嶽丸が、まさに威風堂々と、見せつけるようにステージの先まで歩いていく。
その足取りはちゃんとしたモデルウォークで、歩くたび揺れるモヘアとサラサラした生地のスカートが本当に綺麗…。
会場に集まった人たちも見惚れる視線でじっと嶽丸を見る。
私も、ステージにいることを忘れて、嶽丸の姿をまばたきもしないで見つめていた。
焚かれるフラッシュの音が凄まじい…いろんな角度から、皆が嶽丸の瞬間を切り取ろうとしていて。
なんだか、感動して涙が出た。
私の頭の中にあったイメージを嶽丸にのせて、それを見事に体現してくれた。そして今、それが私の手を離れて一人歩きしている…
やがて、くるりとターンして、まっすぐ私のところに戻ってくる嶽丸。
それがまるでスローモーションみたいに見えて…まっすぐ見つめられた視線が熱い。
「…つかみは上々〜♪」
耳元でコソッと言われて、現実離れして見えても、ここにいるのは確実に嶽丸だと感じられて嬉しかった。
そして…舞台上で各自モデルを変身させる第2ラウンドが始まった。
皆すごく真剣な表情で、モデルを別のイメージに作り込む中、スタイリストの1人がメイクブラシを床に派手に落としてしまった。
こういう場合、落としたものをそのまま使うことは許されない。
別のもので代用するか、予備のものを使うか…
だいたい皆、アクシデントを予想して替えのものを準備している。
でも…確かあのスタイリストは今回初めての出場だったはず…
「…ヤバい…どうしよ…」
小さい声が聞こえてきたけど、両隣のスタイリストは自分のことで忙しいみたいだ。
「…ちょっと、行ってくる」
私は自分のメイクブラシを手に、そのスタイリストのところまで行って、道具を手渡した。
「まだ使ってないから、全部使える」
「え…でも、霧島ディレクターが…」
「私は大丈夫。…何回も出場してるんだから、よゆーだよっ!」
…嘘だ。
本当はノミ並みの心臓。
でも…今年は違う。
「さすがディレクターじゃん!カッコよっ!」
戻ってきた私の手を優しく握ってくれる、でっかいハートの嶽丸がいてくれるから、大丈夫。
やがて…続々と変身したモデルたちが、ステージを沸かせ始めた。
…さっきのスタイリストも、はじめの可愛らしいイメージのモデルから、恐ろしいほどの妖艶さを纏う女性に作り変えていた。
そして谷村康介も…
本当だったら私が担当するはずだった顧客の女性をモデルに、はじめとは真逆の、妖精みたいなナチュラルな雰囲気に作り変えてる。
どのスタイリストも、毎日の営業の中で勉強して努力して、悩んだり苦しんだりしながら今日のヘアショーを迎えたんだろうな…
「…完成?じゃあまた歩いてくるぞ」
感動する私とは反対に、あくまでも平常運転の嶽丸。
着替えのカーテンから出てきただけで歓声が上がる。
「…ちょっと待って!まだ最終チェック!」
もう一度カーテンを引くと、軽いブーイング…皆嶽丸を見たいだけなんじゃない?
「…あぁん…!もぅ…っ踏み台用意しとけば良かった…」
背の高い嶽丸の髪を整えるのが大変で、つい愚痴ってしまっただけなのに、ふと嶽丸の表情が変わる。
「…今のもう1回!」
「…ん?なにが?」
つま先立ちで忙しくチェックする私のウエストに、嶽丸の手が遠慮なく触れた。
「…あぁん…もぅ…ってやつ。今までで一番エロ可愛い!」
「なに言ってんだバカっ!」
だいたいここをどこだと思ってるんだか…!
カーテンが引いてあるとはいえ、ステージ上だぞ?
叱られた嶽丸は、それでも懲りずに言う。
「…じゃあ、帰ったらな?」
「…っ」
さっきとは打って変わって、男の魅力を纏う嶽丸の唇に触れたのは、あくまでも…メイクのチェックのためなんだから…。