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赤桐
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「新山、起きろ」
肩を揺すられて目を開けると、見慣れた顔が真上にあった。
「……うわ、近」
「お前が床で寝てるからやろ」
石井が呆れた顔で見下ろしてる。
楽屋のソファにもたれたまま寝落ちしてたらしい。
「また飲みすぎたん?」
「……覚えてへん」
「毎回それ言うな」
差し出された水を受け取って、喉流し込む。 昨日は確か石井と先輩に誘われて飲みに行って…。頭が痛いし記憶もない。最悪だ。
「昨日、なんか変なこと言ってへん?」
何気なく聞くと、石井の肩がピクっと動いた。
「別に」
「絶対なんかあったやん」
「ないって」
石井は視線そらして荷物まとめ始める。
耳だけ赤い。
……なんや。
「石井」
「なに」
「俺、なんて言うたん」
「知らん」
「覚えてるやろ」
「覚えてへん言うてるやん」
「それ俺のセリフや」
言い合いしながら立ち上がる。
ふらついた瞬間、腕掴まれた。
「……まだ酔ってんちゃうん」
「ちゃうわ」
掴んだまま離さん手が、やたら熱い。
「石井」
「なんやねん」
「手」
「あ?」
「握ったまま」
一瞬で離された。
「支えただけや!」
「顔赤いで」
「うっさいわボケ!」
楽屋に響く怒鳴り声。
そのあと、小さく聞こえた。
「……お前が昨日、変なこと言うからやろ」
「え?」
「なんでもないわ!」
先に出ていく背中を見ながら、首をかしげる。
——昨日、俺なに言うたんやろ。
その頃石井は廊下で一人、顔を押さえていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
石井が避けるようになったのは、あの日からだった。
楽屋で俺が入ってくるとすぐ外に出る。
移動車でも俺から一番遠い席に座る。
俺が話しかけても、返事はするがすぐ会話切る。
「……なんやねん」
思わず一人でこぼれる。
喧嘩した覚えはない。
けど、たぶん原因は自分だ。
問題は何をしたか、まったく思い出せないことだ。
「新山さん、次出番です」
スタッフに呼ばれて立ち上がる。
袖に行くと、石井が台本見ながら立っていた。
「なあ」
「……なに」
「まだ怒ってんの」
「怒ってへん」
即答。
だが目を合わせない。
「じゃあなんで避けんねん」
「避けてへん」
「避けてるやろ」
石井は黙ったまま、台本を置いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
出番が終わり楽屋に戻ると石井がいた。
「……新山が悪い」
いきなり石井が言った。
「せやから何したん」
「知らん」
「知らない訳ないやろ」
「知らん!」
石井は声荒げて、そのあと気まずそうに俯く。
その時、ふっと頭の奥に映像がよぎった。
飲んだ店。
ぐらぐらする視界。
笑ってる石井。
自分の声。
ーー石井、顔ええよな。
「……は?」
思わず声出た。
「なにが」
「いや……」
断片的すぎる。
「俺、石井のことなんか褒めた?」
「知らん」
石井の顔が赤くなっていく。
「今の反応、当たりやん」
「うるさい」
でも、それだけでここまで避けるか?
さらに思い出そうとすると、脳によぎる。
机に突っ伏しながら、自分が石井の袖掴んでる。
『帰るで、新山』
『帰らんといて』
子供のように駄々をこねる自分がいた。
心臓が早鐘を打つ。
「……俺、めっちゃだるいやつやん」
「今さら気づいたん」
石井がぼそっと言う。
「俺、他にもなんか言うた?」
「知らんて」
「石井」
「知らん!」
石井は荷物を持って楽屋を出ていった。
その背中見ながら確信した。
まだある。
絶対、もっとやばいこと言うてる。
そしてたぶん——
俺が思ってる以上に、本音を。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽屋を出て、タクシーに乗り、家に帰る途中だった。
俺あの日のことをずっと考えていた。
笑ってる石井。自分の掠れた声。
机に突っ伏しながら、袖を掴む手。
——石井のこと、誰にも取られたない。
……は?
なんやそれ。
酔った勢いとはいえ、相手は石井やぞ。相方やぞ。
俺……言うたん?
自分で自分に引く。
自分の熱い顔を覆う。
冗談ではない。
酔って盛った言葉でもない。
うわ……最悪や
素面で認めた瞬間、もう戻られない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽屋に入るともう石井がいた。
「……新山」
「ん」
呼ばれても、目を合わせるのに少し時間かかる。
あの日のことを思い出して恥ずかしくなる。
酔ってたとはいえ、あれは全部本音だ。
もう逃げられない。
「今日な、先輩に新山誘って飲みに行こうやって誘われてん」
石井が何気なく聞く。
「行く」
「また記憶飛ばすなよ」
「飛ばさへん」
「ほんとかー」
少し笑うその顔見て、胸がぎゅっとなる。
このまま曖昧にしてたら、ダメだ。
俺はゆっくり息吐いた。
「石井」
「なに」
「ちょっとええ?」
「……なに、改まって」
「ええから」
人気のない通路まで連れていく。
「俺、この前……酔ってた時のやつ」
「…思い出したん」
「全部やないけど、大体」
「どこまで思い出したん?」
俺は答えた。ええ顔してると言ったこと。机に突っ伏して言ったこと。誰にも取られたくないと言ったこと。
「全然思い出してないやん」
「やけど言ったこと全部、嘘ちゃうねん」
空気が止まる。
「酔ってたから言えたとかちゃう」
「今も同じこと思ってる」
「岩井のこと、好きや」
石井がゆっくり息吐く。
「……やっとか」
「え?」
「遅いねん」
相方は泣きそうな声で言った。
「こっちはとっくに知ってたわ。ずっと待っててん」
石井は続ける。
「俺もや」
「俺も好きやで、新山のこと」
「付き合ってくれへん?」
顔が熱くなっていく。
「顔真っ赤やで」
俺は何も言えない。
なぜもっと早く伝えられなかったのだろうか。
「よろしくな」
「遅いねん。酔った時の方が素直やったやで」
「うるさいわ」
相方から恋人に変わった日だった。
完
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