テラーノベル
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私の故郷である神聖ライセ王国には、最も人々に忌み嫌われ憎悪され続ける存在がいる。
名を呪物聖女カルミア。そう、私のことだ。
17年前、私はとある高貴な家に生まれるもその直後に実の親に殺されそうになった、らしい。
全ては大聖女アネモネこと、後に私を引き取って育ててくれた御義母様から聞いたお話。
普通、自分の子供を、それも生まれたばかりの赤ん坊を殺してしまうなんて酷い話だと思うでしょう。それが誰だって普通の反応だと思う。
しかし、全ての事情をアネモネ御義母様から聞かされた私は、仕方のないことだと実の両親を恨むことは出来なかった。
何故なら私は蛭子の状態で産まれて来たからだ。
聞いた話では、私は頭らしき部分とわずかな胴体だけの状態で生まれてきたらしい。ちゃんとあったのは白銀の髪だけだった。
どの道、私は実の両親に殺されるまでもなくほんの数分放置されただけで確実に絶命していたことだろう。何せ口も鼻もなくまともに呼吸すら出来ない状態だったからだ。ある意味、苦しまずに逝かせてくれるのは、慈悲と捉えることもできるだろう。
でも、死ぬしか無かった運命を救ってくれたのがアネモネ御義母様だった。
実の父は携えていた短剣を抜き、殺気を込めて私に振り下ろそうとしたが、その瞬間、アネモネ御義母様が寸前で止めてくれたのだという。
「殺してはなりません!」
「何故ですか、大聖女アネモネ様⁉」
「御覧なさい! この白銀の髪は聖女の証。聖女は国宝であり、もし万が一にも死なせるようなことをすれば、その罪は貴方ばかりではなく一族全員にまで累が及ぶことは御存知のはずでしょう⁉ 殺すなんてもってのほかです!」
「大聖女アネモネ様⁉ と申されましても満足な肉体も無ければ呼吸をする口も鼻も無い。いや、この状態ではまともな臓器すらないでしょう。それでどうやって救えとおっしゃるのですか⁉」
この時、既に実母は私を見たショックで意識を失い、実父が錯乱気味にアネモネ御義母様に詰め寄ったという。
「呪物を移植し、この娘の身体の代用品にします」
「そのようなことを、正気ですか⁉ 例えそれで助かったとして、そんな呪われたおぞましいものを育てることは私には出来ません!」
「この娘は私が引き取り、責任をもって立派な聖女として育てましょう」
こうして、私はいろいろな呪物を体に埋め込まれ、なんとか命をつなぐことに成功し、現在に至っている。
でも、それが本当に自分にとって幸運だったのかは、正直かなり怪しいと思う。
全身の九割を呪物が占める存在を人間と呼べるのなら、という話だけれども。
それから、私は17歳になっていた。
白銀の髪は聖女の証。生まれながらに聖女になることを義務付けられた私は、大聖女であるアネモネ御義母様に過酷ともいえる厳しい聖女教育を受けながら育った。生まれ持った類まれなる強大な魔力も相まって、私は一人前の聖女として日々、王国に尽くし続けて来た。
今日も近隣の村に魔物が現れたと聞き、誰よりも早く駆けつける。
魔物とは瘴気によって穢れたモンスターのこと。
通常の攻撃では一時的に無力化することは出来ても完全に倒すことは出来ない。一定時間が過ぎれば必ず復活してしまう。
魔物を完全に消滅させるには聖女による浄化魔法で穢れを完全に消し去るより術は無い。ただの神聖魔法では封印するのが精一杯でしょう。
聖女の素質を持つ者は少なく、数多くの聖女を輩出し聖女大国と呼ばれた神聖ライセ王国ですら、大聖女であるアネモネ御義母様を除き私を含めて10人しかいない。その為、ライセ王国では聖女は国宝として特別な待遇を受け、丁寧に扱われている。
そう、私を除いて。
222
#追放
ぬいぬい
4
目の前には、かつてはただの野生動物だった山熊が、瘴気をまとい獰猛な唸り声を響かせながら仁王立ちしていた。
瘴気とは一言で呪いのこと。この世界にはかつて存在した魔王の残り香が各地に点在し、それを人は瘴気と呼ぶ。瘴気に汚染された生物は魔物と化し、見境なく襲い掛かり呪いをばら撒くのだ。
魔物から傷を負わされた場合、魔物化する前に浄化魔法で穢れを清めなければならない。このまま魔物化した山熊を放置しておいてはどんな犠牲が出るとも知れない。
「あなたに恨みはないけれども、ごめんね」
私は全身から柑子色のマナを立ち昇らせると、直ちに詠唱に入る。
「光輝く聖なる乙女よ、女神の加護に守られし者よ、闇を照らし、光を纏え。
聖なる光の煌めきが盃に満たされし時、不浄を祓う清らかな風が大地をそよぐ。
闇の奈落に囚われし不浄なる者よ、我が魂に宿る浄化の力を解き放ち、光の世界へと導かん。
漆黒の闇の糸を断ち切り、深淵に漂う魔の影を祓いたまえ。
浄化の息吹!」
次の瞬間、女神の幻影が現れ、魔を打ち払う浄化の息吹が山熊に吹き付ける。
浄化の息吹は光の粒子となって一瞬で山熊を覆っていた瘴気を消滅させた。同時に山熊の巨躯も風に吹き飛ばされるように灰となって消滅する。
「ごめんね」
私はもう一度呟く。きっとあなたにも家族がいたでしょうに。せめて安らかに眠ってください。
背後から複数の人の気配がし、私は振り返る。
恐らく村の人達ね。
脅威が去ったことを報告しなくちゃ。
そう報告しようとした瞬間、私は頭部に衝撃を受けた。
ポトリ。足元に石が落ちるのが見えた。額からドロリ、と生暖かいものが垂れてくるのが分かった。
「魔物を倒したなら、とっとと失せろ!」
私はとっさに額から流れ落ちるものを右手で押さえた。
いけない。あれを彼等に見られるわけにはいかない……!
村を魔物から救った返礼が投石と罵声。
これがいつもの光景。
「す、すみません」
私は彼らに向かって一礼した後、村の前から足早に駆け出した。
追い立てられるように背後から何語とも分からぬ罵声が複数上がり、幾つもの石が足早に立ち去る私を追い越して勢いよく転がるのが見えた。
「呪物聖女めが、二度と村に近寄るんじゃねえ!」
最後に、何者かの怒声が私の背中に突き刺さった。
〈私の記憶が正しければ、この村に魔物を浄化しに来たのは五回目。可能なら、次は別の聖女に頼もう〉
浄化はただの時間稼ぎに過ぎず、かなりの間を置くことにはなるでしょうけれども、魔物は一度出現した場所には何度も現れる。きっと六度目の訪問を余儀なくされるだろうと思い、私は憂鬱な気分に苛まれた。
その時、ポロポロと額から白い粉のようなものが落ちてくるのが見えた。
魔力を消費し過ぎたのも要因の一つだが、一番の原因は村人から受けた投石の傷。
「いけない。このままでは顔が崩れ落ちてしまうわ」
傷を負った額から頬にかけ、顔の半分が崩れるのが分かった。それはきっと壊れた蝋人形のような状態だっただろう。
私の肉体の九割は呪物で出来ている。だからこの顔も紛い物に過ぎない。先程、傷を負った際に額から流れ落ちたものも実は血液ではなかった。
こんな醜い姿を村の人達に見せずに済んで良かった。もし見られていたら、きっと彼らを怖がらせてしまっていただろうから。
そう思うだけで、胸がほっとした気持ちでいっぱいになった。
しばらくの間、何処か人目につかない場所で身体を休ませ、魔力を回復しないと。
少しだけ休んで、軽くヒールをかければ元の状態戻せることが、私の唯一の幸せだった。
コメント
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理不尽にあう不遇ヒロイン、ダークファンタジーらしい出生と身体……応募要項で求められた要素をこんなふうに入れられたんだなあと感動してます 溺愛要素が楽しみです!