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◻︎即離婚します
「家事をしなきゃ離婚?そうなったら奥さん一人で生きていけるの?まさか羽田君の退職金を半分もらってとか?」
___なんでお金の話が先に出るんだろ?この人は
「私も働いてますから、いざとなればなんとかなりますよ」
「あはは、それならうちはそんな心配はないよ、なぁ?ずっと専業主婦で生活力ゼロなんだから。離婚なんてできるわけがない。さぁ、帰って昼飯の支度をしてもらおうか」
奥さんの方を見もせず、横柄な物言いだった。このわずかな時間で、石﨑家の日常が見えた気がした。私だったらこんな旦那は、とっとと捨ててやるのに。
石﨑は歩き出したが、奥さんは動かない。
「ほら、早く行くぞ。帰ったら庭の手入れもしてもらわないとな。雑草がいっぱいだ」
___この人、奥さん一人に草むしりもやらせるつもりだ
「……」
黙ったまま動かない奥さん。
「ほら、早くしろ、俺はもう腹が減ってるんだ」
「……てください」
何か言ってる。
「あ?なんだ?」
「それくらい、ご自分でやってください。出かける時に準備してきたでしょ?冷蔵庫から出して温めるだけにしてあるからって」
「温め直したものなんて、不味いじゃないか。今から作ってくれ」
「イヤです。まだここでの仕事も残ってます」
「こんなボランティアなんて、もうやらなくていいだろ?俺の飯の方が先だ」
「あなたが手伝ってやれって言ったんでしょ?自分は何もしないで家でゴロゴロしてるくせに。私だって家事の定年制したいです」
石﨑は、ちっ!と舌打ちして頭を振る。
「羽田君とこみたいに、お前ができるわけがない。俺の金がないと生きていけないだろうが!」
石﨑はよっぽど苛ついているのだろう、周りに人がいるのに声が荒くなる。
「ずっとこのままなら、離婚します」
「だから!お前が1人で生きていけるわけがないだろ?」
「蓄えならあります。自分一人くらいならなんとでもなります」
「俺が稼いだ金をネコババしてたのか?なんてやつだ!それは俺の金だ」
「違います、あなたが仕事してる時間に私もアルバイトをしてました。私のお金です。だから、離婚してください。もう、こんな生活はたくさん!私は私の人生を生きたいの」
閑散としていたこの部屋に、石﨑の奥さんの悲鳴にも似た叫びが響いた。
「えっと、ここでいきなり結論を急がなくても、ね?」
言い出しっぺは私だったことを忘れて、私は石﨑夫婦の間に入る。
「そうだよ、とりあえずはさ、うまい昼飯でも食ってそれから考えた方がいいよ」
光太郎も、間を取り持とうとしている。
「私は歩いて帰るから、あなたは先に帰って自分でお昼ご飯を食べてください。そしたら考えます。それもできないなら即離婚です」
それだけ言うと、奥さんはスタスタと歩いて行った。突然のことに面食らった様子の石﨑は、あたふたしながら帰って行った。
「よけいなことしちゃったかな?」
「いい機会だったと思うよ。気にすることないよ」
「つい、でしゃばっちゃったな」
それでも、言わずにはいられなかった。
コメント
2件
ありましたね…今もそんなふうに決めつけてる人いますね、高齢の方になると特に。
昔は家事は女性みたいな風潮あったもんね