私の世界は白黒だった
何も見えない、感じない
つまらない味気ない日々
でもそんな日々に少しだけ希望が生まれた
私を愛してくれる
貴方が居てくれたから
これはそんな私と彼が
出逢い別れるまでの1ヶ月間
「失礼します」
「どうぞ」
「旦那様から伝言がございます」
「なんでしょうか」
「お見合いに向けてきちんと準備するように、と」
「…承知しました、 下がっていいですよ」
「失礼しました」
私は要件を伝えると、そっと襖を閉じた。
毎度の事ながら、お嬢様と話すのは緊張しかしない。相当息を詰めていたのか、汗が吹き出て不快な気分になった。
何故こんなことをしなくてはならないのか、それは私がこの四条家に仕える使用人だからだ。
この辺りでは有数の名家で商業を中心に栄えた。先程まで会話していたのはその長女、小夜小夜様だ。
齢17にして大人顔負けの頭脳。武道を嗜み、容姿端麗。
そんな秀才としか呼べない彼女が、家の者から異常なまでに疎まれているのには、理由がある。
【色盲】視界はほとんど見えず、色の区別がつかない。彼女はそんなものを、ものともせず強く、美しく、凛と育った。
だが、両親は許さなかった。自分たちの娘が普通、むしろ生活に支障をきたす程の弱者、そう認識したのだ。長女への関心はなくなり、次女である香夜香夜様を産み育て上げた。
「〇〇さん、洗濯物取り込んでおいてくださいな」
「分かりました!」
「失礼しました」
そう言って使用人が去った。少し力を抜くと無意識のうちにため息が出た。お見合いなんてもの乗り気になれるはずがない。
なぜなら私の幸せを望んだものなどでは無いから。長女である私を良いように捨て、あわよくば利益まで得ようとする浅はかなもの。良い厄介払い程度だろう。
「疲れましたね…」
少しでも自分の力で生きていけるように、最近は部屋で勉強をしたり、料理などをしてみたりしている。
父や母は余程私を周りに見られたくないのか、昼間には外出を禁じられている。部屋から出ることでさえ、眉を顰めるのだ。
「そういえば」
突然祖母のことを思い出した。妹が産まれてからできるだけ、家に居たくなくて祖母の所へ逃げ込んでいた。久し振りに行ってみようか。そんな想いが溢れ近くにあった羽織を手にした。
「着いた…」
自分が思っているよりも体は覚えているものだと感じた。視覚には頼れない、その分聴覚や空間認識が発達した。だから、道さえ覚えておけば迷うことは無い。
理屈では分かる。しかし、改めて自分の記憶力、体が怖くなった。
ふわっと様々な花の香りが私の鼻孔をくすぐった。木々の揺れる音が、そよそよと流れる風の音が、久し振りの来客に喜んでいるようだった。
「来るだけでも落ち着くわね」
祖母との優しい思い出が、音や香りと共に私を包み込んでくれた。
そのまま数刻の間花畑に横になり、睡魔に身を任せた。
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