2人は帰路を辿っていた。
「食った食った〜!!」
紅釈は満足そうにお腹をさすった。
「素敵なお店でしたね…!」
「だろ!?あそこ、ここで働き始めた
ばかりの時に見つけたんだよ!」
「へぇ…!仕事をする上で癒しって
必要ですもんね…」
「そうなんだよ!!!しかも嫌いな職員と
ひとつ屋根の下だぜ!?!?!?
やになっちまうっての…」
「怖い人と一緒にいるの大変ですもんね…」
「怖いっつーか、腹の立つやつって
感じだけど大変だよな〜!」
紅釈はため息をついたあと、
折西より前へ進み、目の前に来た。
「けど、お前みたいな良い奴に
出会えてすげぇ嬉しかった!…だから…その…」
やたらモジモジしている。
「…?」
「…あのさ、友達になってくんねぇ…?」
…友達?気がついたらなってる
ものな気がするけど…
「い、いいですよ…!」
…めちゃくちゃ良くしてもらってるし。
仲間がいるのは安心するだろうなと
思った折西は快く了承した。
「…本当か!?よっしゃ!!!!!!」
紅釈は折西の両手を強く握り締める。
「改めてよろしくな、折西(ともだち)!」
いつもの少年のようなニコニコした顔をしてまた2人は歩き始めた。
ーーー
帰路につき、自室に入る。
午前10時を過ぎていたらしい。
結局紅釈から得られた情報としては
レディに優しい所と甘いものが好きな事、
親と仲が良くなさそうなところ、
意外とシャイなところ…
だろうか?
折西は疲れた足を休ませるために
ベッドに腰かけた。
「(…けれど、紅釈さんは何を代償に…?)」
代償も、トラウマも予想がつかない。
鍵穴が見えたのが幻覚だと
思ってしまうくらいには明るい人だった。
「…本当にみんなトラウマを
持ってるのでしょうか…?」
「持ってるよ!!!!!」
「オアッ!?!?!?」
いきなり目の前に現れたお姉さんに
驚きベッドに倒れ込んでしまった。
「いきなり現れないでください!!!」
折西はすくっと起き上がる。
「えへへ〜ごめんね!」
「もう…」
「けど、紅釈くん少し違和感感じなかった?」
「えっ?」
「だって、あんなに明るくて友好的な人が
一々友達になってくれないか?
…なんて聞かなくない?」
「…確かにそうですね。
…職員はさておきネットにも
リアルにも友達多そうなのに…」
「考えられるのは友達になった後に
紅釈くんが全部関係を切っちゃうか
向こうが切っちゃうかだと思うんだよね…」
「紅釈さん、感情の起伏が激しめなので
衝動で切っちゃうことはありそうですね…」
「そんな感じはするね…」
そんな話をしていると、
ふとスマートフォンのバイブが鳴った。
「?誰からだろう…?」
画面を起動すると
ROYN(ロインという通話メールアプリ)に
友達追加の通知が1件来ていた。
紅釈からだ。
それを承認するとすぐに
『組長に聞いた電話番号から登録した!
よろしく!!!』
というメッセージが届いた。
『よろしくお願いします!』
と折西は紅釈に返信した。
するとすぐに既読が付き、画像が送られてくる。
「あっ!先程のスイーツの写真と
鯨さんの写真…!」
少し斜めな撮り方やオシャレな加工が
施されている。
言うなれば映え特化の写真だ。
折西は
『写真可愛いです!ありがとうございます…!』
と送信した。
「スイーツもペイちゃんも可愛い〜!!!」
食い入るようにお姉さんも写真を見た。
「ペイちゃん?」
「ほら、鯨さんのお名前!!」
「アッアッ!そうでした…!
忘れちゃいそうです…」
すると紅釈から返信が来た。
『1枚目…森の中の甘味処の
あんみつ(俺のオススメ!)』
『2枚目…森の中の甘味処の
みたらし団子(折西が好きなやつ!
俺初めて食べた!美味しいな!)』
『3枚目…クジラ型のファージ、
『ペイ』。(乙女な相棒!)』
「すごく丁寧に説明まで…!」
『ありがとうございます!
思い出振り返るのにいいですね…!』
と返信すると紅釈は
『折西、今日の帰り道にあれほど
寄るなつった八百屋に入り込もうとしたろ?
もしかしたら忘れやすいんじゃねぇかなって!』
「ヴッ…」
全て見透かされている…
帰り道、自炊のために野菜を買おうと
八百屋に入りそうになったのを
紅釈が止めたことを思い出した。
『そうなんです…前の職場でも忘れっぽくて…』
『まあ気にすんなよ!!!この職場に
頭硬いやつしかいないから丁度いいだろ!』
その均衡を傾かせる位にはミスをするの
だけれど…と折西は思ったが
卑屈になるのは良くないと思い、
『ありがとうございます…!』
とだけ返信した。
ーーー
あれから数時間が経った。
「僕、本当に何もしなくて良いんでしょうか?」
「確かに、何かしなくて良いのかな?」
お姉さんはうーんと腕組みをして俯く。
「組長さんは難しいとして…誰かから
仕事を貰いに行く?雑務くらいなら
ありそうだけど…」
「雑務をくれそうなの…書類とかが
ありそうな昴さんなんですけど…
余計な事して怒られそうで…」
「データもついでにちゃっかり
持っていけそう!!!
…なんだけどあの頑固さがね…」
流石に2度も催眠ガスを昴さんに
かけるわけにもいかない。
「…向こうから何か言われるまでは
何もしない方が良さそうですね…」
ーーー
翌日、ドアがドンドン叩かれている音で
目が覚めた。
「ん…誰です…?」
寝ぼけ眼の折西はドアの鍵を開けると
青ざめた紅釈が息を切らして
ドアを勢いよく開けた。
「折西!!!俺なんか悪いことしたか!?
ごめん本当に心当たりがないんだ
ごめんなさいごめんなさい!!!!!」
「えっ、僕何も怒ってませんよ…?」
「え?だって、ROYN…」
ROYN?がどうしたのだろうか?
素っ気ない態度をとった覚えはないけど。
折西はROYNを開く。
血の気が引いた。
昨日はいつもより早めに寝たから、の
レベルでは無い。
200通くらい来てたのだ。
そしてその通知の全てが、
紅釈からのメッセージだった。
…本人が原因で周りが離れていった
タイプかもしれない。
そう察した折西は角を立てないように話す。
「すみません…昨日結局何もすることが
なくて寝ちゃったんです…」
「…寝てた?」
「僕、他の方と違ってお仕事がなくて…
もし翌日から仕事を任せられても
いいように早めに寝てたんです…!
すみません…」
「…なんだよ〜!!!」
紅釈はホッとして全身の力が抜けたのか
膝から崩れ落ちた。
「確かにいつ仕事始めになるか
わかんねぇよな〜!
また仕事始まったら連絡くれよな!!!」
そう言うと紅釈はじゃあな!
と言い部屋から出ていった。
「…紅釈さん、何か伝えたいことが
あったんですかね?」
紅釈のトーク画面を開く。
特に当たり障りのないトークから
徐々に返信を催促するトークに
変わっているようだ。
さらに驚いたことに、
スタンプがひとつも無い。
「全部言葉で帰ってきてますね…」
「すごい熱量だね…」
天然なお姉さんも流石に
紅釈のトーク画面を見て顔が引き攣っていた。
先程部屋から出た紅釈の目は笑っていなかった。
目元に皺がよるくらい笑ういつもの
紅釈の笑顔ではなかった。
「…嫌な予感がします。」
折西は寒気から身を守るように
ベッドに潜り込んだ。
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