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「「 乾杯 」」
2人の声が重なった。今日は薪と鈴木、2人で飲もうと約束していたのだ。特に何かある訳ではないが、大学時代からの2人の唯一の楽しみなのだ。
「薪、最近よく眠れてるか?」
鈴木が心配そうに薪を見る。薪は昔から無理をする部分があり、定期的に鈴木は薪に聞くのだ。
「あぁ、最近はよく眠れてるよ。 鈴木は?」
アルコール3%の酒を飲みながら横目で鈴木を見る。薪はあまり酒が強くないのだ。
「んー、俺はいつも通りぐっすりだな! いびきがやばいくらいw」
鈴木はアルコール9%のお酒を飲みながら笑って言った。鈴木は酒が弱い、という訳ではないが強い訳でもない。9%を飲むのは久しぶりだ。そして鈴木は薪が俺にそう聞いてくるのは珍しい、と思っていた。
「お前のいびき聞きながら寝たくない 俺は1人で寝るからな」
甘酸っぱい、レモンのお酒。薪はちびちびと飲みながらそう言った。
「えー、いいじゃん薪 一緒に寝よーぜ!」
乗り気では無い薪とは裏腹に鈴木はノリノリで提案していた。いつのまにか鈴木の顔がほんのりと赤く染まっていた。
「やだ。お前 前もそう言って仕方なく一緒に寝たけど寝相も本当にやばいし」
「⋯え?!そうなの?!」
初めて知った、というように鈴木が驚く。薪は少し頬を緩めた。
「⋯ま、俺の事蹴らないならいーけど?」
薪は挑発するように片口角を上げて鈴木を見た。その表情を見た鈴木は こんな表情も出来るようになったのか、とふと思う。
「けらないから、寝よ」
いつのまにか鈴木はぼんやりとした顔で酒を飲んでいた。まるで何か他のものを無理やり飲み込むように。
「⋯鈴木、もう酒飲むのやめろ。もうお前飲みすぎだ。」
薪は呆れたように鈴木を見た。
「のみすぎじゃないよ?べつにー。」
おつまみであるピーナッツがカリッと音を立てた。鈴木の部屋はそこまで広くないが、その音はやけに部屋中に響き渡った。
「鈴木、もうお前寝ろよ⋯」
薪は呆れるように鈴木を一瞥し、少し残っていた酒を飲み干した。 余っていた酒はやけに甘ったるく、少し苦かった。
「⋯薪、くちびる、ついてる」
そう言うと鈴木は酔った様子で薪に近づき、薪のくちびるに触れた。酒が少しついていたらしい。鈴木のその指の触れ方は優しく、そしてどこか力強い気がした。
「い、いい。子供扱いするな」
薪は鈴木の手を振り払い、焦ったように自分の手で乱暴に口を拭った。鈴木の温もりが、やけに感じられた。
「⋯薪はまだ子供でしょ」
「黙れ」
薪が素早くいった。
「あはは 冗談だよ 」
鈴木が赤ら顔でヘラヘラしながら言った。薪ははぁ、とため息をつき2本目の酒を開けた。その瞬間、
ブシュッ
「っ!?」
薪は驚いた顔をした。鈴木も同様に目を丸くさせていた。勢いよく飛び出した酒は薪の上半身に飛び散りびしょびしょになっていた。
「あ、いーけないんだー」
と鈴木は挑発するように言うと、
「⋯うるさいこれは事故だ」
と薪が苛立ったように言った。
「風邪ひくから、早く服ぬげ」
鈴木が言う。酔っていても案外判断くらいは出来るんだな、と薪は思った。
「いい、着替え持ってきてないから。もう寝る」
薪はびしょびしょになったにも関わらず不貞腐れたように立ち上がろうとした。鈴木はぼんやりしながらも なんなんだこの人は、と思いながら薪の服に手をかけた。
「ダメでしょ、薪。 着替えなら俺の貸すから さ 脱がすからね」
鈴木は駄々をこねる子供の相手をするように、薪の洋服を脱がそうとした。
「お、おい鈴木、これはセクハラだやめろ」
「かなしーなー大学からのお友達なのに。こんなのも許されないのー?」
鈴木は半ば強引に薪の服をぬがした。薪の白く、滑らかな肌が露になる。鈴木はその姿をみて先程よりは酔いが覚める。思えば薪の裸を見るのはこれが初めてだった。女の子みたいな華奢な体。
「⋯薪、え、えr」
「うるさい黙れそれ以上言ったらコロす」
と鈴木の腕を力限り掴み、鈴木を睨んだ。その顔を見るとほんのり赤くなっていた。滅多に見ることの無い、親友の姿。鈴木は思わず見とれる。
「⋯あのまき室長がこーんな表情するなんて、誰も思わないだろうなー⋯」
親友である薪はいつも冷静で、何を考えてるのか分からなかった。そんな薪が今、鈴木の行動によりこんなにも動揺し、恥ずかしそうにしている。そんな姿に鈴木は思わず言葉を詰まらせた。そして薪の滑らかで白く、自分よりもずっと小さい体を抱きしめた。
「す、ずき」
薪は鈴木の温もりを心地よく感じると共に、違和感と、不安と、好奇心と、そしてなにより、親友に対して抱いてはいけないだろう感情が渦巻いていた。 鈴木の身長は薪より10cm以上も高い。薪は苦しそうにしていた。
「⋯苦しい 鈴木」
「ごめん、薪」
俺、まだ酔ってるみたいだ、と苦笑いし、その小さい体から温もりが離れた。
「⋯」
薪はまだ胸がザワザワしていた。
「⋯着替え、持ってくるから」
鈴木はどこかおぼついた足取りで着替えを取りに行った。薪は返事もできず、ただ、ただ先程の安心さと違和感を思い出していた。