コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日、最愛の妹であるレイミがオータムリゾートへ戻る事となり、シャーリィは寂しくも感じながらも妹を送り出した。
「また連絡をします。次に会うまでお元気で、お姉さま」
「レイミにはたくさん助けられました。お義姉様にも宜しく伝えてください」
「はい、必ず。昨日の件、リースさんにお伝えしましょうか?抗議して貰うことも出来ますが」
シャーリィは昨日の夜幹部達を集めてカイザーバンクの要求を周知した。
まるで火事場泥棒のような真似をするカイザーバンクに対して怒りを見せたが、今現在暁に彼らと揉め事を起こす余裕など無いことも正しく理解しているため、シャーリィの条件に賛意を示した。
「お義姉様にご迷惑をお掛けするわけにはいきません。それよりも、隣にカイザーバンクの縄張りが出来たのです。くれぐれも無理をしないようにとも伝えてください」
「お姉さまもお気を付けて。聖奈はお姉さまに関心を寄せないでしょうが、スネーク・アイが居ますから」
「当分は黄昏から出ないつもりですよ」
最後に姉妹は包容を交わして別れた。
公私共に最も頼れる妹が側から離れたが、シャーリィの歩みは止まらない。
二日後、カイザーバンクから東方の商人の紹介状が届けられた。生憎今現在商人たちは帰国しているが、次に来訪した際に紹介状を提示すれば取引が行える。
「何を買い何を売るか、今から楽しみですね」
紹介状が届いたのを確認したシャーリィは、十五番街へと派遣していた者達を呼び戻した。
歩兵団指揮官であるダン指揮の下、整然と十五番街を後にした。
装備類は持ち帰ることが出来たものの、大量の資材や食糧を奪われる形となった。
だが。
「不満が溜まってるな。自分達の食い扶持を根こそぎ奪ったんだ。当たり前ではあるがな」
配給のために運び込まれた食糧は全てカイザーバンクが回収したため、現地住民に不満が蓄積しつつある。
ラメルから報告を受けたシャーリィは、笑みを深める。
「抗争で疲弊した住民達を労らずに、支援のための物資も奪い去り配給も行わない。不満が溜まるのは当たり前ですね」
その様な情報を流すように指示していたこともあり、十五番街には大きな火種が燻ることとなる。
一方暁が血塗られた戦旗に勝利するのを待っていたかのように動き始めた組織が二つ存在した。
一つは六番街、十六番街を支配する“ギャンブルの女王”率いるオータムリゾートである。
彼らは突如として七番街へと侵攻を開始した。
「トライス・ファミリーから使者が来たぞ。今まで上手くやってたのに、何の真似だとな」
「なぁにが上手くやってただ!今まで散々金を巻き上げてきたくせに!」
これまで本格的な武力を持たなかったオータムリゾートは、七番街を支配するマフィアであるトライス・ファミリーから用心棒代金として多額の資金を奪われていた。
だがこの一年、十六番街の統治と平行してレイミが中心となって本格的な武装化を実施。
暁経由でライデン社から近代兵器を購入して、レイミ主導の下徹底的な近代戦の訓練が施された。
一年間の訓練で単なるゴロツキ達は立派な兵士に生まれ変わり、満を持して七番街征服を開始したのである。
「どんなに遅くても一か月でケリを付けろ!私らを舐めてきた事、たっぷり後悔させてやれ!」
突如として始まった『会合』に属する大勢力同士の抗争。
だが、トライス・ファミリーはオータムリゾートから巻き上げる莫大な資金を背景に組織が腐敗化。
上層部は責任転嫁を繰り広げて満足な反撃も出来ずに組織は崩壊。僅か一か月で七番街は完全に制圧。トライス・ファミリーの主要メンバーは残らず抹殺された。
「ジーベック、これで邪魔者は消えたな」
「ああ、毎月金をせびる奴が居なくなって清々するな。だが、旨味はあんまり無い。再開発はするか?」
「やらねぇ。ピンと来ねぇし、アレだったら放置する」
「分かった、ボス」
七番街は産業もなくあまり収益が見込めないため現状維持となった。更に言えば七番街はそこまで広さもないので、縄張りが増えても面積は一番街から五番街までの各都市に比べれば小さなものである。
そしてもう一つは港湾エリアで起きた。
「……そろそろ動きましょうか。そうね、強引でも構わないから占有率を七割にまで増やしなさい」
「了解だ、ボス!みんな張り切るぞ!」
これまで沈黙を保っていた海狼の牙が動き始めた。
港湾エリアの四割を支配していたが、七割まで増やすため武力と資金にものを言わせて抗争を開始。
港湾エリアに存在する小さな勢力を片っ端から潰す或いは吸収して勢力を拡大。一か月ほどで全体の七割を支配下に置き、名実共に“海運王”の名に相応しい規模となった。
「……これでシャーリィ相手でも大物ぶれるわね」
「はははっ!名実共にボスは港湾エリアの支配者となったんだ。来月の収支が怖いな!」
「……まだまだ儲けるわよ」
まるで暁と連動するように勢力を拡大させた二つの組織に、裏社会の注目が集まった。
五番街。オフィス街とも呼ばれるこの都市を支配するボルガンズ・レポート本社。
「どういうつもりかしら?二つが同時に動くなんて。今世間は大騒ぎですよ」
「泣けるねぇ、美談じゃねぇか」
情報を受けたステファニーは、ボルガンズの言葉に疑問を抱いた。そんな彼女を見て愉快そうに笑い、メディア王は両者の狙いを正確に分析して見せた。
「要は暁を守るためさ。カイザーバンクの陰湿メガネがちょっかいをかけたからな、他の連中も同じように動いたら暁はじり貧だ。だが」
「オータムリゾート、海狼の牙が動けば其方が注目されると?」
「そうさ、ステフ。実際他の奴らは二つの組織の話題で持ちきりさ。暁の話をする奴は居ない」
「そのために均衡が崩れましたよ?」
「言っただろう?シャーリィは嵐を巻き起こすってな。これまで遠慮してた奴らも派手に動き始めるだろうさ。下手をすれば町中を巻き込んだ大戦争になるぜ」
「楽しそうですね、社長」
「ああ、楽しいぜ?これからシャーリィがどんな風を起こすのか楽しみで仕方がない。ステフ、アンテナを広げてくれ。それと、物騒な手段も忘れないようにな」
「あら、社長も動くのですか?」
ステファニーの問い掛けに、ボルガンズは凄味のある笑みを浮かべる。
「乗り遅れちゃ勿体無いだろう?それに、シェルドハーフェン制覇は誰もが夢見て誰も成し遂げられず長いこと均衡を保ってたんだ。そしてそれが崩れた」
「裏社会の制覇、ですね?」
「俺も男だからな、この嵐がどんな結末を迎えるか見てみたい。高みの見物じゃなくて、最前列でな」
崩れつつある裏社会の均衡は、シェルドハーフェン全体に大きなうねりとなって波及していく。
暁の台頭は、シャーリィの意図とは関係無く停滞していたシェルドハーフェンに新たな風を吹き込む。
だがそれは、血で血を洗う凄惨なものとなるのである。