もちろんいる訳なかった。
「そうですか」
「あの…まだ、いるともいないとも言ってませんけど…」
「えっ!? だっ‥だいじょうぶです」
「はぁ…‥」
何だか会話が成り立ってるんだか、成り立っていないんだか不安になる。
そして、この時…‥一目惚れというのが本当に実在するものだというのを思い知らされた瞬間だった。
「わっ‥私、どうしよう…‥」
「えっ!? 何か言いました?」
「いえ…‥」
これが佐藤葵と亜季との不思議な出逢いだった。
次の日、学校に行き教室に入ると、いつも以上にざわついている感じがした。
僕は、窓際から2列目の後ろから3番目の自分の席に座った。
「ねぇ紺野くん、転校生の話聞いた?」
そう話しかけてきたのは、右斜め前の席の仲村有紀だった。
「転入生? このクラスに?」
「そうらしいよ。学級委員の森田くんが、担任の松下先生と転校生が話をしているのを見たんだって」
「へぇ…‥」
転校生か…‥別にどうでもいい。
「何そのリアクション? もっと興味持ちなよ」
どうやら顔に出てしまったようだ。
「だって、興味ないんだから仕方ないだろ」
「女の子だってよ。それも超がつくほどカワイイんだって」
女の人が言う“カワイイ”は男にとっては、あまりあてにならない物だ。
「別に僕には関係ない」
「相変わらず、素っ気ないよね。私は、中学の時から一緒で紺野くんがどんな人か、わかってるからいいようなものよ。でも、紺野くんを知らない人は、その態度は絶対に誤解を招くから気を付けなよ」
確かに僕は、あまり感情を面に出さないから愛想がないとか、素っ気なく冷たい感じがするとか、よく言われていた。
昨日も佐藤亜季さんの目には、そんな風に写っていたのだろうか?
でも彼女は、積極的に話しかけてくれた。
連絡先も教えてくれた。
「おいっ!? みんな席に着け!」
そう言いながら教室の前のドアを開けて入って来たのは、担任の松下だった。
僕は、松下が苦手だった。
男っぽいし、口は悪いし、直ぐに手が出る。
熱血女教師だった。
年齢は聞いた事はないが、40歳前後だと思う。
「それじゃあ、中に入れ」
松下が廊下に向かって声をかけると、仲村が言ってたように女子生徒が入って来たようだ。
すると教室内が一瞬静まり返った。
でも直ぐに、その沈黙は歓声へと変わっていった。
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