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 魔法大学にルディが来た。
特別生の入学試験。そんな理由でボクは彼と対峙する。
 ルディはカッコいい。大きな杖を持つ所も、少し困惑しながらボクを見つめる所も。
 「初めまして!ルーデウス・グレイラットです!」
 「あ、うん。ボクはフィッツ。よろしく…」
 ボクたちの周りに人が集まってくる。
それでも、ボクの視界には大好きな彼しか居なくて。
 そんな中で、戦いは始まった。
 「始め!」
 ボクは本気で戦った。
でも、勝てなかった。
 ボクの魔術が乱れて、彼のストーンキャノンが頬を掠る。
 負けた、負けちゃった。でも嬉しい。
ルディが生きててくれて、サングラス越しでも輝いて見える君が居てくれて。
 『ありがとう』ボクは、そんな感謝を伝えようとした。
その時だった。ボクの中で何かが崩れる音がした。
 「ふふん!ルーデウスは、すっごいんだから!本気を出したらこんなもんじゃないわよ!」
 「……」
 赤い髪が揺れる。それと同時、ルディの隣に立った美人で可憐な人。
ルディは笑って、隣に立つ美人な人を見つめた。
 「乱魔があったから勝てただけですよ」
 「ん?要するに、ルーデウスは凄いってことよね!私も特別生になるわ!」
 「エリス、『要するに』で何も要約出来てないんですが……とりあえず、教頭に特別生について相談しに行きましょうか」
 別れ際。彼がボクの耳元でお礼を言う。
 「フィッツ先輩、僕に花を持たせてくださってありがとうございます」
 そして、ボクから離れていく。
要件がなくなれば、ボクは要らない。
 
 ルディと美人な人は肩を寄せ合った。
理由もなく、当たり前のように。
ずっと離れずに、幸せそうな顔をする。
 そして、彼はこの言葉を放ったんだ。
 「エリス、愛してます」
 ボクは、涙が止まらなかった。
 
 ─────────────────────────
 
 ─ルーデウス視点─
 フィッツ先輩との模擬戦を終え、俺とエリスはジーナス教頭と話していた。
少し長い話だったため、エリスが首を傾げながら頭に「?」マークを浮かべていたので、俺から要約して話すことにした。
 端的に言うと、入学自体は難しくないらしい。
しかし、それは一般生として入学する場合の話だ。
特別生になるのは簡単ではない。
 「ルーデウスと一緒じゃなきゃ駄目よ! 一緒に強くなるの!」
 「そりゃあ、僕もエリスと一緒が良いですけど」
 特別生になるには相応の格が必要になる。
強さ、魔術、経験。何か特別なものがなければ特別生にはなれないらしい。
 ということで、それを見極めるため後日エリスの試験を行うことになった。
エリスの肩書きはS級冒険者。それだけでも十分すごいのだが、それだけでは物足りないと判断される可能性がある。
試験があるだけでも及第点といえるだろう。
 「頑張るわ!」と張り切る彼女。その姿が愛らしい。
縦に揺れる胸は魅力的だし、ぷるんと揺れる唇は見ているだけで興奮してくる。
 あぁ、エリスと早く寮でいちゃいちゃしたいぜ。
よし、エリスには絶対合格してもらって、ベッドの上で俺の名前をたっぷり呼んでもらおう!
 グヘヘと笑うルーデウス。
その姿を見て、再度首を傾げるエリス。
 仲の良い二人に「離婚」という言葉は存在しなかった。
 ─────────────────────────
 エリスの試験の日は、あっという間にやってきた。
場所は学園の校庭。どうやら模擬戦を行うらしい。
エリスが校庭の真ん中に立つ。俺は少し離れた場所にあるベンチに腰掛けた。
 「ルーデウス! ちゃんと見てなさいよ!」
 「はいはい、ちゃんと見てるから大丈夫ですよ〜」
 エリスが俺に手を振る。
俺も呼応するように手を振り返した。
 それを見て安心してくれたのか、彼女が無邪気に笑う。
どうやら、緊張はしていないようだ。エリスの肝っ玉にはびっくりしちゃうね。
 相手は誰だろう。エリスの素早い素振りを見ながら考える。
そんな時だった。俺の隣に誰かが座った。
 「こんばんは。ルーデウス殿、で間違いありませんか?」
 「あ、はい。ルーデウス・グレイラットです」
 俺の隣に居たのは綺麗な金髪が特徴の女性。
初めて会ったが、この人のことは知っている。話に聞いていた、この学園の生徒会長――アリエルさんだ。
 「隣、よろしいですか?」
 「あ、はい。大丈夫です」
 確認を取り、俺の隣に腰掛ける王女様。
なんだ、俺何かしたか? 入学前から面倒ごとは勘弁だぞ。
 俺の疑問。それを見透かすように彼女が口を開く。
 「先日、私の護衛であるフィッツがお世話になったようで。確認に参った次第です」
 この言葉を聞いた俺は黙ってしまった。
入学試験の件か? 王女様、怒ってるよな?
乱魔を使ったのが駄目だったのか? いや、そもそもフィッツ先輩に勝つこと自体がマナー違反だったのか?
 分からない。報復とかあるのかな? だとしたら俺だけにして欲しい。エリスは巻き込まないでくれ。
 とりあえず、謝ろう。
 「あの、すみません。僕の行動が気に障りましたか?」
 「ふふっ、いえいえ。少し怒ってはいますが、あなたの考えている怒りではありませんよ?」
 結局怒っているのか。
俺の知らない怒り? 入学試験以外でフィッツ先輩関連…うーん、心当たりがない。本当にない。接点もなかったしな。
 分からないものは仕方ない。今はエリスの試験を見届けよう。
 そう思ってエリスを見た時だった。
俺の目に飛び込んできた、衝撃の光景。
 「あなたは天使だ。私が勝ったら、デートをしていただきたい」
 「何よ、あんた。デート?」
 俺の目に入ってきた光景――
それは男が膝をつき、エリスの手を握っている光景。
 「自己紹介が遅れました。私の名前はルーク・ノトス・グレイラット。ぜひ、覚えていてください」
 「ふーん。強くなれるなら、その『デート』とかいうのしてもいいわよ」
 俺のお嫁さんにデートの誘い。
エリスが取られる…嫌だ。俺は声を張り上げた。
 「エリスは俺の物だああああああ!」
 「んなっ!?/// ルーデウス! なんで、いきなり恥ずかしいこと言うのよ!」
 エリスが真っ赤な顔で声を出す。
俺の大好きな、既婚者のエリスが口説かれたのだ。アピールしておかねば。
 皆の前で愛を叫んだ。うん。俺は後で恥ずかしがり屋の彼女から殴られるだろう。
しかし、後悔はない。
 エリスは誰にも渡さん。
俺とエリスは永遠に一緒なのだ。誰にも邪魔はさせん。
そんなことを考え、俺は「ふん」と鼻息を荒くした。
 ルーデウスとは対照的に、呆れ顔で溜息をこぼすアリエル。
結婚、愛情、嫉妬。試験は始まった。
 
 ─────────────────────────
 ─シルフィ視点─
 「ルディ、ルディ……」
 ボクは泣いた。涙が止まらなかった。
ルディと結婚すること、ボクの一生の夢が終わってしまった。
 目が真っ赤になる。目尻から雫が落ちる。
『ルディ』という言葉だけが、静かな部屋に響き渡る。
 そんなボクを、アリエル様が見つめていた。
 「シルフィ?どうしました?」
 「アリエル様。ルディが、ルディが…」
 アリエル様に説明する。
ルディが結婚していて、幸せそうだった。
ルディが幸せなのは嬉しいことのはずなのに、苦しかった。
ボクは嫌な奴だ。
 アリエル様は静かに聞いていた。
そして、ボクを優しく抱きしめてくれる。
 「シルフィ、安心なさい」
 「安心、出来ないよ」
 「大丈夫。まだ遅くないですから」
 遅くないという言葉。ルディは結婚してるのに? 結婚してて、幸せそうなのに?
ボクの頭に浮かぶ絶望と疑問。
アリエル様は、そんなボクに言葉を続けた。
 「お嫁さんは、一人とは限らないのですから」
 「あ、アリエル様、それって…」
 「シルフィ、共に頑張りましょう!」
 駄目だよ。この言葉を、ボクは出すことが出来なかった。
ルディと一生添い遂げたい。
ボクは、夢を諦められなかった。
 ─────────────────────────
 ボクは校庭に立っていた。
ルークの後ろで、エリスと対峙する。
 ボクとルークでエリスに挑む。
 それが、アリエル様の作戦だ。
 エリスがルディと一緒に特別生になったら、接点も増えて仲良くなっちゃう。
だけど、ここでボクたちが勝てば彼女は一般生。
そうしたら、ボクもルディと話せるかもしれない。
 ダメなことなのは分かってる。でも、諦められなかった。
 「エリスは、俺の物だぁぁぁぁ!」
 ルディの宣言に、エリスが頬を染める。
ルディが好きなんだろうな。ボクは目を細めて考えた。
 一瞬の静寂。
その瞬間、目の前の女性が練り上げる。
 練り上げた物、それは殺気。
腰を落として、赤い髪が揺れる。
刹那、猛獣のような気配と共に、アリエル様の声が響き渡る。
 「始め!」
 ダン!
 鳴る爆音。
その音の正体は、地面を抉り取るような踏み込み。
一瞬の出来事。赤い髪が飛び込んでくる。
 「早く、ルーデウスに追いつきたいの。退きなさい」
 彼女の小さな声が、ボクの耳に届く。
速い。とてつもなく速い。でも、ボクだって遊んでいたわけじゃない。
 ボクは右手で風魔術を作り、彼女から距離を取る。
そんなボクを追撃するように、追い詰めるように踏み込むエリス。
しかし、その勢いは止まることになる。
 ガン!
 木刀と木刀がぶつかる音。
ルークが、ボクと彼女の間に割って入る。
 「絶対に、デートをさせていただくっ!」
 (ルークがエリスの勢いを止めてくれた。撃ち合いが始まる。その間に、ボクが風魔術でルークの援護を……)
 回す思考。
ルディに教えてもらった無詠唱魔術。
ボクは右手を向ける。そして、赤い髪を捕捉する。
ボクもルディの隣に立ちたい。そんな想いを込めて。
ボクもルディを愛してるのに。そんな嫉妬を込めて。
 回り続ける想い。
しかし、そんな想いは裏切られることになる。
 「ふんっ!!!」
 「ぐふっ!」
 エリスの横薙ぎが、ルークの脇腹に当たる。
ルークは木刀で受けていた。
しかし、彼女はそのまま振り抜いたのだ。
 防御なんてお構いなし。
スピードもパワーも、全てが想像を遥かに超える。
 ルークが横に大きく吹っ飛ぶ。
脇腹を抑えて、小鹿のようにプルプルと震えている。
 ルークは一発でやられた。
 赤い瞳がボクの姿を映す。
瞬間、ボクの身体が縮こまる。猛獣に睨まれた小動物のように。
殺気を受けて、手が震える。
 ダン。
 再度、彼女が踏み込んでくる。
狙いはボク、彼女がボクに近づいて来る。
先ほどよりも速い踏み込み。
しかし、分かったことがある。
 分かったこと、それは彼女の動きは直線的だということ。
 「ボクも、ルディの隣に立ちたい」
 愛する人に今までの成長を見せる。
ボクは、今度は下がらない。
ギリギリまで、彼女を引き付ける。
 そして、一番スピードが乗る所。
彼女の顔がボクの目の前に来た時、ボクは掌を向けた。
 「エアバースト!」
 掌に突風を作り、彼女にぶつける。
スピードに乗った所を、カウンターでぶつける。
 この事実。エリスの首が跳ね上がる。
ボクの魔術。ルディに教わった無詠唱魔術。
そのおかげで勝てた。ルディ、ルディ。
 確かに風魔術は命中した。
勝ったと、ボクは思った。
 だけど、ボクの耳に届いたのは聞こえる筈のない声だった。
 「やっぱり、ルーデウスの魔術は違うわね。」
 突風を受け、後ろに仰け反った彼女。
しかし、変化した物はそれだけ。
ダメージはほとんどない。仰け反ったまま、ボクを睨む姿がそれを物語っていた。
 エリスは姿勢を戻し、剣を振るう。
ボクに向かって、最速で。
 絶望的。でも、まだ負けていない。ルディなら、絶対に諦めない。
 ボクは、掌に再度突風を作る。
そして、捕捉する。
でも、狙う所は顔じゃない。きっと警戒してる。
それなら、ボクが狙う所は右手だ。
 剣を持っている右手を狙って、武器を落とす。
 それが、ボクの狙いだった。
バン!!!
鈍い音と同時、ボクのお腹に激痛が走る。
 「ぶえっ、なんで、ボクが殴られて…」
 「ルーデウスの隣で戦うなら、これぐらい当たり前よ」
 ボクの身体が、くの字に曲がる。お腹に、激痛。鈍器で殴られたような激痛が走る。
 激痛の正体。それは、エリスの左拳。
彼女は、ボクの視線が右手に落ちた時、攻撃を変えていたんだ。
剣を握っていない左手。それを、ボクのお腹に突き刺したんだ。
 狂犬、S級冒険者、そしてルディのお嫁さん。
この肩書きは想像以上の物だった。
ボクの狙いは、見透かされていた。
 脇腹が無くなったと錯覚する程の威力。
ボクの身体は、一発で破壊された。
 「ルディ……」
 愛しの名前を呼ぶ。
誰にも、ボクの呟きは届かない。
 「少しだけ、ルーデウスに追いつけたわね」
 バン!
 エリスの横薙ぎがボクの頬を飛ばす。
ボクの視界が闇に落ちていく。
 暗い、痛い……
 ボクは、ルディの隣には…
 …相応しくなかったんだ。