桜の花弁が風に吹かれて舞っている。
春風が皆の髪を優しく揺らしている。
新学期…。高校生達が続々と桜ヶ丘高校の校舎へと入っていく。
その中に、地味な男子高校生がいる。
この男子高校生の名前は八尾(やび)。
歌と勉強に関しては右に出るものはいない。
が、絶望的なまでに運動音痴だ。
よく何も無いところでコケたりする。
そんなドジなところが一部の女子からは可愛いと感じられているらしい。
「……今年は彼女とかできるといいなぁ。」
そんなことを考えていたら、いきなり後ろから肩を組まれた。
「よっ!八尾!」
「なんだ津雲(つくも)か。」
津雲は八尾が小学校の頃色々とお世話になった親友だ。津雲が唯一の友達と言っても過言ではないくらい仲がいい。ちなみに一度も喧嘩したことはない。
「なんだとはなんだ。ところで、どうしたんだ?そんなにポヤ〜として。もしかして、今年こそ彼女できるかな〜?とか考えてたのか?」
「ッ!う、うるせぇ!」
八尾は心を見透かされたようで顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
「お?赤くなった!さては図星だな?」
「勝手に人の心読むなぁ!もー!」
津雲は大笑いする。
そのまま2人で校舎へ入った。
『えー、新学期も皆さんの元気な……』
相変わらず校長の話は長い。
八尾はこの時間が最大の無駄な時間だと思っていた。
八尾は先生の目を盗んで後ろを見た。
すると、津雲が眠っていた。
腕を組み、俯きがちだった。それを見て周りの人がクスクス笑っている。
もっぱら夜遅くまでRPGゲームでもやっていたのだろう。
あと5分。それが津雲がゲームをしている時の口癖だった。
担任が微笑を浮かべながら津雲に近づいていく。肩をポンッと叩かれると、津雲は目を擦り担任に会釈した。
担任は八尾にも気づくと前を向くよう促してきた。
八尾はゆっくり前を向く。すると、校長の話が終わるところだった。
最後くらい聞くか。と思い、八尾は集中して聞いた。
教室へ戻ると、皆ザワザワしていた。
皆春休みのことなどを話しているのだろう。
よく二、三週間の間に思い出を作れるものだ。
「八尾はなんか思い出ある?」
津雲が聞いてくる。
「あるように見えるか?」
「見えないな。」
「相変わらずストレートだな津雲は……」
と、教室の扉がガラガラと音を立てて開く。
担任が入ってきた。名簿を教卓の上に置き、話し出した。
「え〜、今日は転校生を紹介する。」
すると教室中がざわめき出した。
転校生?男かな?女じゃね?可愛いかな?イケメンかなぁ?などと口々に話している。
「はい、静かに。さぁ、入ってきなさい。」
転校生は、教室に入ってきた。
皆は声を殺して「わぁ!」と驚いた。
それは、芸能界だったら絶対売れるだろレベルの顔立ちの整った女子だったからだ。
ショートカットで、目はキラキラしており、
鼻のパーツは全体的に違和感のないところにある。まさに絶世の美女と言わざるを得ない。
担任はコソコソ話してる人を注意すると、
「皆に自己紹介をお願いします!」
と言った。
すると転校生は口を開いた。
白い歯が見える。八尾は少し赤くなっている。
「星野美華(ほしのみか)です。好きなことは歌うことです。歌が好きな方がいたら仲良くなりたいです!これからよろしくお願いします!」
教室中から拍手が起こる。
よろしくー!という陽キャの声。
担任は「それじゃあ、美華さんは…八尾の隣な。仲良くするんだぞ。皆〜!」
美華は八尾の席に着くと、太陽のような眩しい笑顔で「よろしくね!」と一言。
八尾はたどたどしく「よ、よ、よろしく…」と言った。
すると津雲が、「何緊張してんだよw落ち着けよw。あ、俺は津雲。よろしくな!」
「はい!よろしくお願いします!」
「そんな堅苦しくなくていいって。普通に喋ろうぜ?この八尾って奴、歌めちゃ上手いんだぜ!」
確かに歌の上手さはクラスの皆認めている。
1年の頃、文化祭で陽キャたちと歌を歌った時体育館中の生徒がどよめいたのは八尾も覚えている。
「え?!そうなの?じゃあ後で聴かせてね!八尾君!」
八尾は心臓がドキリとした。
ここまで異性にドキッとしたことはいまだかつてなかった。
津雲は頬杖を付きながらニタニタして八尾を見ていた。
授業中……
『そして、みんなExcelの使い方はわかるな?』
八尾はコンピュータ科を津雲といっしょに志願し、受けていた。
偶然そこに美華がいた。
八尾の視線に気づくとニコッと笑い返してくれた。八尾はまた赤くなった。
津雲のせいで俺は毎回ドキッとしないといけないじゃないか!そう八尾は思っていたが、心のどこかでは感謝もしていたのだ。なんせこんな美女と会えるのは一生に一度あるかないかだからだ。
反射的にパソコンのキーボードを打つ。
「おい八尾〜?今はまだキーボード使わんぞ〜?」
周りからクスクス笑い声が聞こえる。
その中には美華もいた。
八尾は新学期初日からドッと疲れたのだった。
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