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新学期が始まってから2週間が経とうとしている。時間の流れはすごく早い。
前に美華が八尾の歌を聴いてみたいと言っていたが、あの件については津雲の勧めでカラオケに行くことにしたのだった。
元々高校生は忙しいため、休息は休日にしかない。勉強が2年に上がってから格段に難しくなった。ただでさえコンピューターを扱うのは難しいのに…と八尾は思った。
カラオケボックスに入ると、
「何飲む?」と、八尾は聞いた。
「じゃあ、烏龍茶で!」
「あ。じゃあ俺もそれで……」
美華は笑顔で会話しているが、八尾は緊張しているのか会話がたどたどしかった。
八尾は烏龍茶を注文すると、美華が早速歌い始める。タブレットで曲を選曲して、マイクを持った。ずっと美華は笑顔だ。前奏が始まると美華はリズムにのりはじめた。
「反射的に僕らは動き出して〜♪
未来のために日々走るんだ〜♪」
この歌は原曲キーだとサビの高音が難しい歌だ。しかし、美華は2つキーを下げていた。
キーが出ないのだろうか。 高い音は吐息まじりの裏声で歌っている。もしくはこれ俺が赤くなるかどうか試そうとわざとやってるのだろうか?
八尾は注文した烏龍茶をチビッと飲みつつ、じっくり美華の歌を聞いていた。
赤くはならなかった。というより、聞き入りかけていた。
すごく中性的な声だった。女性とも男性とも取れる、聞いてる人を魅了する歌声だった。
「はい。次は八尾君の番!何歌うの?」
「あ、ありがとう。俺はこれかな。」
「おっ。いいね〜。」
前奏が流れる。八尾は原曲キーで歌うことにした。この歌は原曲キーが1番
「バラバラになった〜記憶の欠〜片♪」
最初は低音でスタートするが、だんだんと高くなっていく。
「幻の中〜夢の中〜最後のピースは、どこ♪」
サビの部分はHIHIA#は軽く超えていた。
当たり前だ。これは女性が歌っている歌だから高いのは当たり前だ。
美華は目を丸くして拍手していた。
「すごーい!良くそんなキーでるね!」
「そんな…大したことないよ。」
「あるよ!」
美華は八尾に顔を近づけて喋る。
「私…中々高音でないんだ……」
八尾は美華から少し離れる。
「八尾君意外と恥ずかしがり屋さんなんだね!」
そうではない。八尾は美華が近づいてきた時、いい香りが漂ってきてドキッとしてしまい、反射的に後ろに行ってしまったのだ。
その後も2人で交互に歌い続けた。
「で?どうだった?」
「いやぁ、緊張したよ……」
津雲がニヤニヤしながら聞いてくる。
「お前ほんと異性の前だと恥ずかしがり屋だよな…。」
「ほっとけ……。」
そんな感じで会話をしていると、美華が寄ってきた。
「昨日は楽しかったね。また行こうね!」
八尾は頷いた。美華はフフッと笑みをこぼし、去っていった。
男子数名が美華の元に行き、会話をし始めた。
「嫉妬しないの?」
津雲は相変わらずおちょくってくる。
「別に、付き合ってもないんだし。嫉妬なんかしないよ。」
「そっか…相性ピッタリだと思うんだけどなぁ……」
八尾はえ?津雲の顔を見た。
津雲はん?八尾の顔を見た。
そんな二人の姿をチラッと見て、美華も笑顔を浮かべるのだった。
八尾がふと窓の外に目をやると、桜の花びらは無くなりかけていた。
今年の桜は散るのが早い。八尾はもうすぐジメジメした気候がくるなぁと顔をしかめた。
カレンダーがもうすぐめくられるころだろう。
放課後……
八尾は津雲と歩いていた。
「津雲ってさ、好きな人いるの?」
八尾が何の気なしに聞く。
「どうしたんだよ突然。気になるのか?」
八尾は頷く。すると津雲は、ニタッとってみせた。
八尾もつられて口元が緩む。
「そうだなぁ…俺は、いないかな……」
「そうか……」
八尾は静かに返した。そんな八尾を見て津雲はニヤニヤした顔から真面目な顔になって、「そういう八尾はどうなんだ?いるのか?」津雲は八尾に聞き返す。八尾は少し間をあけて、「いない」と一言だけ言った。
「そうか…じゃあ俺の予想は外れたな。」
八尾は上ずった声で「え?」と言った。
「アハハ、何でもねぇよ。気にすんな。」
津雲はそうごまかした。八尾は大きく伸びをして、息を吐く。そして、オレンジのペンキをこぼしたような空を見上げて大きく息を吸った。
こういう引きずらないところが彼の美点だ。
「ところでさ、八尾は将来の夢とかあんの?」
「俺?俺は…プログラマーになりたいかな…」
「へぇ……」
津雲は感心したように返した。
「津雲は?」
「俺?俺は…まだ決めてない。」
高校二年なのに、将来の夢が決まっていないとは、この男はどれだけ呑気なのだろうか。
が、コンピューター科に来ているということはそれに関する仕事をしたいのだろう。
そう八尾は推測した。
「じゃ、俺こっちだからさ、じゃあな八尾。」
「あ、あぁ…また明日。」
津雲は走って帰って行った。
八尾はゆっくりと歩き出した。と、突然後ろから「わっ!」と声が聞こえた。
八尾は驚いて反射的に後ろを見た。美華だった。イタズラな笑顔を浮かべながら立っている。
「ここからは一緒に帰ろ?」
八尾は落ち着いてこう言った。
「いいけど、俺なんかで大丈夫?」
すると美華は、「自分に自信を持ちなよ。だって八尾君、歌上手いし勉強も私よりできるし……」
「勉強の方はともかく、歌なんかで自信なんて持てないよ……」
すると美華はほっぺをぷくっと膨らませて、こう言った。
「ポジティブ、ポジティブ!ポジティブに考えてれば人生損することなんてないよ。勉強があるならそれを自信にすればいいじゃん!」
八尾は美華の方を見た。すると、美華はニッと笑って見せた。
なぜ自分と話してる時にこんなに笑顔を浮かべるのか本当に八尾は疑問に思っていた。
が、八尾は【良く笑う子】というふうに結論づけた。が、こんなにも笑うものだろうか。
この時八尾は、心に揺れ動くものを感じた。