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ここに来るのも久しぶりね。相変わらず薄気味悪いけれど……。
まあ、それでもこの辺りに何者かが潜んでいるかもしれないから用心するに越したことはないわね。
さて、そろそろ行きましょうか。
先生が森の中に入ると、イノシシたちがこちらを見ていた。
だが、彼女がギロリと一睨みすると猛スピードで逃げていった。
「ふん、腰抜けが」
そんな可愛い見た目に似合わないことを言いながら彼女は奥へと進んだ。
白いリュックを背負って、スタスタと歩いていると『バイオレットウガラシ』を見つけた。
しかし、興味がなかったのか、そのまま進んでいった。
この辺りに、人が入ることはめったにないけど、もし仮に私の高校時代の教え子たちが迷い込んでいたとしたら……。
いや、今はもう少し先に進むことにしましょう。それに、すぐに悪い方に考えるのはよくないわ。
しっかりしなさい! 私!
両頬を両手でパチン! と叩くと、彼女は歩く速度を上げた。
____どれくらい時間が経っただろうか……。森をまっすぐ進んできたが、人の気配が全くしない。
やはり、こんなところに人がいるわけがない。そう思った直後、状況は一変した。
勘違い……ではなさそうね。
この力は確かに、大罪の力を上回る力……ということは、この近くに『はじまりのまち』を修復したかもしれない人物がいるという事になるわね。
そのあとは、考えるよりも先に走り出していた。
先生は反応がした方に急いで向かおうとした。
しかし、ここで力を解放すれば、この森自体がなくなってしまうおそれがあったため、彼女は小学四年生並みの速さで走り始めた。
実際、彼女は本気で走ったことがない……いや、走ってはいけない。
なぜなら、彼女は『人であって人ではない存在』だからだ……。
走り始めて数分後……何かを見つけた彼女は急停止した。
彼女がそちらに歩き始めると、何かの声が聞こえた。
彼女が早歩きでそこに向かうと、そこには『ゴブリン』が二匹いた。
片方は蒼髪ショートヘアと蒼い瞳が特徴的な妖精の首から下を掴んで動けなくしており、もう片方は、『バイオレットウガラシ』をその妖精の口の中に入れようとしていた。
ちなみに、この世界の妖精の類は辛い物が大の苦手である……。
それがこの森の妖精なら見捨てていたかもしれなかったが、今回はそうしない。
なぜなら、その妖精は自分が特別に作った十五体の『妖精型モンスターチルドレン』のうちの一体だったからだ。
「ちょっと、そこのザコモンスター。そこで何をしているの?」
『ゴブリン』たちは彼女の方を見ると、こう言った。
「ガギャ(いつからそこにいた)! ガギャギャ(とっとと失せろ)!」
「ガギャ(そうだそうだ)! ガギャー、ギャ(とっとと失せろ、ちびが)!」
その時、彼女のやる気スイッチ……ではなく、怒りスイッチがオンになってしまった。
彼女は小さい……。しかし、その二匹よりかは大きかった。
彼女は自分の背が低いことを気にしている。
だから、彼女の前で『小さい』や『ちび』などの言葉を発してはいけない。さもないと……。
「そう……そんなに死にたいのね。いいわ、望み通り、あの世に送ってあげる!」
不気味な笑みを浮かべながら、二匹を見下す彼女の姿を目の当たりにした『ゴブリン』たちは度肝を抜かした。
「ガ、ガギャー(に、逃げろー)! ガギャギャー(俺たちより化け物だー)!」
「ガ、ガギャーー(し、死にたくなーーい)!」
だが、今さら遅かった。
彼女の機嫌を少しでも損ねた者は一人を除いて確実に死ぬ。
どこまでも追いかけ、どこに隠れても必ず見つけ出し、どんなに謝ってもそれをなかったことにするのは不可能……。
ん? なになに? それなら、逆に彼女を殺してしまえばいい? なんと愚かな考えなのだろう。
なぜならば、彼女はあちらの世界でも、こちらの世界でも負けたことがないし【全ての能力値が測定不能】だからだ。
彼女がその気になれば『こ〇せんせー』よりも速く動けるし、『サ〇タマ』よりも強いパンチを打てるのだ。(本当かどうかは測定不能なので分からない)
だから、彼女の機嫌を損ねないようにするのが一番である。みんなも注意しよう。
「ふんっ! 『ストップ』を使うまでもないわね! 一瞬で終わらせてあげるわ!」
次の瞬間、『ゴブリン』たちの首が宙を舞った。
彼女は何事もなかったかのようにクルリと死体に背を向けると、妖精に「早く自分のマスターのところに行きなさい」と言った。
実はこの妖精、先ほどの戦いの一部始終が全て見えていた。
妖精が目にしたのは、彼女が一瞬とも言えるほどの時間の中で『ゴブリン』たちに追いつき、その首を手刀で切断した……というところまでだった。
その妖精は彼女の両手がゴブリンの血で染まっていないことに対して疑問を抱いたが、『ゴブリン』たちと同じ末路を辿りたくなかったため、その場から急いで離れた。
妖精が飛んでいったのを確認すると、彼女は両手を開いた。
普通は血が付いているのだが、彼女の両手にはそれがなかった。これこそが彼女にかけられた呪いである。
『オールホワイト』。彼女の両手に触れたものは全て白く染まる。
しかも、一度白く染まってしまうと、とある人物が触れない限り決して元には戻らない厄介な呪いである。(最初から白いものは大丈夫)
彼女は最強と引き換えに多彩な色に直接触れることができない。
呪いではないが彼女には『もう一つ秘密』がある。それは全身に目視できない特殊な薄い膜があるということだ。
『オールクリアカバー』。それは、自分に降りかかるあらゆる災いをなかったことにするものである。
分かりやすく言うと、長距離から狙撃しても弾が貫通せず、地面に落ちる。
ナイフで刺そうとしても、なぜか刺さらない。
核ミサイル、地雷、手榴弾、機関銃、日本刀、毒ガス。
人類が作ったどの兵器でも彼女にキズをつけることはできない……。
そんな秘密を持つ彼女だが、それでも生き続ける。最愛の人と再会し、最終的にはその人と結婚するために。
「あら? いつのまにか反応が無くなっているわね。はぁ……なら、もう、ここに用はないわね。今日のところはさっさと帰りましょう。それにしても『バイオレットウガラシ』の実を妖精の口に入れようとするなんてね……。あの『ゴブリン』たち、一体どこでそんなことを覚えたのかしら? まあ、今日はもう帰りましょう」
彼女はそう言うと来た道を引き返し始めた。
育成所での仕事が溜まっているだろうし、なにより今回の件の一部始終を『長老会』に報告しなければならないからだ。
クゥちゃん(グリフォン)、ちゃんと待っててくれてるかしら?
まあ、もし逃げ出していたら、一緒に森に入りたがっていたクゥちゃんを待機させた、私が悪いのだけれどね……。さて、少し急ぎましょうか。
森の中を一人駆け抜ける彼女は風のように速く、その黒い瞳はまっすぐだった。
*
ミノリたちは眠ってしまったが、どうも目が冴えてしまい、俺だけが眠れずにいた。
ふと、みんなの顔を見ると気持ちよさそうに寝ていたため、起こさないように背伸びをした。
ちょっと風にでも当たるか……。
彼はみんなを起こさないように、そっと玄関に行くと、ゆっくりドアを開けて外に出た……。