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「ごめんマンちゃん。
今日の外交の護衛、ローズと代わる事になった。」
優雅に朝の紅茶を飲みながら、今日の午後からの外交に必要な資料の確認をしていた俺の気分は駄々下がり。
「はぁ?なんであの女とやらなあかんの?」
なんとなくひとらんは悪く無いことを察しつつも、突然の悪い知らせに苛立ちを隠せない。
「どうせまたあの女が余計なこと言ったんやろ。」
「…まあ、そんな感じ。」
ほらな?やっぱり。
マジでなんなんアイツ。
でもひとらんが大人しく俺に伝えに来るってことは、何か納得できる理由を出されたんだろう。
大方、女の方が警戒されにくいとかそんなところだろうけど。
「はぁ……分かった。ひとらんも疲れたやろ。なんかお菓子いる?」
「え、いいの?」
「ええよ。だってアイツと話すとイライラするやん。」
「あはは……本当にそう。」
俺の中で、っていうか幹部全員が多分アイツと話してるときが一番ストレス溜まる。
まずあの媚を売るような態度がほんまに無理。まじで無理。
せやのになまじ能力が高いせいで、処罰も出来なければ幹部に昇格せざるを得なかった。
アイツに助けられることが多いのもほんっと腹立つ。
あんな日頃男にデレデレしてばっかの阿呆のくせに、俺より年下で、強くて、仕事も出来る?
なんでそんなことになんねん。
そして何より、アイツの考えは全く読めへん。
外交官として色んな人間と接して来て、大体の考えてることは顔を見れば分かるようになった。
けど、アイツだけはマジで分からへん。
微塵も考えが読めない。
グルさん達から「アイツの日頃の言動からその正体を探れ」なんて命令を出されて4年近く経つけど、一回も有力な情報を報告出来た試しがない。
あー、考えれば考えるほど腹立って来た。
これ以上は今日の外交に影響が出る。
もうアイツの事考えんのは一旦やめにしよ。
____________
「本日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
俺の、今日の仕事が始まった。
今目の前におんのは△△国の外交官。
今日の交渉内容は△△国の特産品の輸入についてなんやけど、
「そちらが提示された関税ですと、我々への利益は殆ど無くなってしまいます。」
「そうですか……しかし、我々もこれ以上下げるわけには。もし厳しいようでしたら今回の話は無かった事に…」
「それは困ります!ですが…」
こいつ、めっちゃ粘って来るやん。
俺そんなキツい値段出してへんのに。
相手からしたらちょーっとは厳しいかもしれんけど、でもそこまで損が強いわけでもない筈。
これ以上の交渉は無駄にしかならん。
さっさと諦めて帰って欲しいねんけど。
「い、一度、この特産品を味わって頂けないでしょうか!きっとこれを口にしたらその素晴らしさが分かって頂けるはず。」
めんどくせー。
でもこの特産品の菓子はちょっと気になってはいた。
まあ特に変えるつもりもないけど、味わうぐらいならええかな、とその菓子を皿に出してもらう。
……うん。見た目、香り、問題なし。銀にも反応してへんし、毒は無さそうやからとりあえず小さく一口目を、
「お待ち下さい。」
スッと俺の口の前に手を出して、食べるのを遮るメイド。
ローズが変装した姿だった。
「なに?俺、今これ食べようとしてたんだけど。」
「そ、そうだぞ!メイドの分際で外交官を止めるなどどういうつもりだ!」
目の前の奴もうるさいが言っていることは正論だ。
今のローズはただのメイド。何の理由も無しに俺の行動を制限していいわけがない。
「何で止めた?理由次第じゃ、」
「それ、毒入ってますよね。」
は?
「何、言ってんの。そんなん、証拠が…」
「お前、失礼だぞ!我が国が外交官殿に毒入りの菓子を渡すとでも言いたいのか!?」
この女が言ったことはとんでもない。
本当なら△△国の敵対とも取れるし、嘘なら我々が△△国に喧嘩をふっかけてると取られかねない。
冗談や言い間違いでは済まされないのだ。
「証拠ならあります。」
その言葉と共にローズは俺の手からその菓子を奪い取り、一口食べる。
唖然と見つめる俺と、顔を青くする外交官。
彼女が飲み込んだ数秒後、彼女の口からは血が吐き出された。
間違いない、これは毒だ。
「ゾム、こいつ捕縛。 」
勢いよく開いたダクトから緑のパーカーが舞い降りる。
その緑は目にも止まらぬ速さで△△国の外交官とその護衛を気絶させ、縛り上げた。
「トントン、聞こえる?こちらオスマン。交渉は決裂。△△国に毒を仕込まれた。相手はゾムが全員捕縛。」
インカムを繋げとりあえずトントンに報告。
けどこれ後で報告書作ってグルッペンにも報告せなあかんわ。
『こちらトントン。マジで言ってる?馬鹿だるいやん。負傷者は無し?』
「いや、ローズが証明の為に毒飲んだ。」
『はぁ!?もう、マジでなんやねん。……早いとこぺ神に連絡して医務室行かせたれ。』
呆れたような声を最後にインカムの音が切れる。
ローズの方を向けば、
「オスマンさぁん…ゲホッ、もうめっちゃ喉痛くてぇ、私のこと連れてってくださぁい♡ゴホッ、ガハッ……」
……こいつこんなんなってまでまだ媚売んの?
なんか血吐いとるけど元気そうに見えてしゃーない。
だって顔色悪いだけでいつもと表情変わらんし。
命の危機のはずなのに考え全く読めへんし。
けど、俺がこいつに命を救われたのも事実で。
「あー、もう!ほら、はよ行くぞ!」
真っ青な顔色のまま媚を売ってくるそいつを、俺は俵みたいに担いでさっさと医務室に運ぶ事にした。
……ほんま、腹立つ!
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