テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『写真に残るだけの恋』
最初に気づいたのは、スマホの中の一枚だった。
放課後の駅前。
逆光で、
少し眩しそうに笑う貴方と、隣に立つ私。
__その写真だけ、色が薄かった。
加工した覚えはない。
他の写真は全部、普通なのに。
空は青く、制服は黒く、
広告の赤はうるさいほど鮮やかで。
なのに、貴方だけが、少し透明だった。
「気のせいだよね」
そう思って、スマホを伏せた。
それから貴方と会うたび、
私は無意識に写真を撮るようになった。
コンビニの前。
雨の日のバス停。
何でもない、どうでもいい瞬間。
貴方はいつもそこにいた。
ちゃんと声もあって、体温もあって、
私の名前を呼んでくれた。
__なのに。
写真の中の貴方は、
日を追うごとに薄くなっていった。
輪郭がぼやけ、 笑顔が背景に溶けて、
最後には
「そこに誰かがいた痕」
だけが残る。
怖くて、でも、
貴方には言えなかった。
「ねえ」
ある日、貴方が言った。
「俺さ、将来の話すると、
ちょっと怖くなるんだ」
駅のホーム。
電車の音にかき消されそうな声。
「なんで?」
「……君の中に、俺がいない気がするから」
その言葉に、心臓が沈んだ。
私は、貴方を見ていた。
確かに見ていた。
でも__
未来の話をする時、
貴方の姿を想像できなかった。
まるで、
最初から“写らない存在”だったみたいに。
最後に撮った写真は、
春の終わりだった。
桜はもう散っていて、
風だけがやけに冷たかった。
画面の中には、 風景と私だけが写っていた。
貴方はいなかった。
確かに、隣に立っていたのに。
確かに、手を繋いでいたのに。
私は、その場で初めて泣いた。
貴方は、いつの間にかいなくなった。
誰に聞いても、
「そんな人、知らないよ」
と言う。
貴方の名前を口にすると、
みんな一瞬だけ困った顔をして、
すぐに話題を変えた。
世界は、 最初から貴方がいなかったみたいに、
完璧に整っていた。
今も、 私のスマホには写真が残っている。
貴方のいた場所だけ、 少しだけ色が薄い写真。
それを見るたび思う。
忘れられなかったのは、
恋じゃなくて__
「確かに誰かを好きだった私」
だけなんだって。
貴方は、 写真にしか残らない恋だった。
コメント
7件
泣きました

才能わけやがれ下さい毎回泣くねん