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坂田銀にゃん
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# 第2章:ゾンビ刑事、捜査一課に帰還する(後編)
「光る階段ん?」
高木刑事が涙を拭いながら、間抜けた声を上げた。目暮警部をはじめ、捜査一課の面々が松田の言葉を食い入るように見つめている。
「そう、光る階段。で、その手前にさ、あの萩原の野郎がポケットに手ぇ突っ込んで立ってたんだわ」
松田はクッキーを一枚口に放り込み、まるで昨日の飲み会の話でもするかのように、お気楽なトーンで語り始めた。
「は、萩原さんって、4年前に殉職された、松田さんの……」
千葉刑事がゴクリと唾を飲み込む。オカルトや霊界の話にしては、語り手のリアリティが違いすぎた。何せ一度心肺停止した男の口から出る言葉だ。
「そう、その萩原。俺はよ、『よぉ、待たせたな』っつって、いつもの調子で近づいたわけ。そしたらあいつ、どんな顔したと思う?」
松田はわざとらしく間を空け、集まった刑事たちの顔を見回した。
「どんな顔って……そりゃあ、親友との再会を喜んだんじゃないですか?」
高木刑事のピュアな問いかけに、松田は鼻で笑った。
「逆だよ、逆。あいつ、これまでの人生で一度も見せたことねぇような、般若みたいなドチャクソ怖い顔してやんの。で、いきなり俺の胸ぐら掴んでさ、『バカ野郎! お前の席なんてここにはねぇ!』って大激怒よ」
「ええっ! 怒られたんですか!?」
「おうよ。4年も待たせといて手土産もなし、おまけに『美和子ちゃんをもう泣かせるんじゃねぇよ!』ってな。で、そのまま天国の階段の外側にあった、底も見えねぇ奈落の底へ向かってさ、ラグビーのタックル並みの力で、俺の背中をドカンと突き落としやがったんだ」
松田は自分の背中を叩くジェスチャーをしてみせた。刑事たちはすっかり松田のペースに巻き込まれ、ぽかんと口を開けている。
「突き落とされた衝撃で目が覚めたら、今度は現世の重力と五感遮断のコンボだ。真っ暗闇で身動きが取れねぇ。ぶっちゃけ、あのままじゃマジでそのまま三途の川に逆戻りだった。けどな……」
松田はここでサングラスをくいと上げ、すぐ隣で腕を組んでいる美和子をチラリと見た。
「そこの佐藤がさ、耳がぶっ壊れるかってくらいの爆音で『起きなさいよ松田ァ!』って叫びやがったんだわ。あの声が暗闇をピシャーンと引き裂いてよ。あ、これ戻らねぇと後で絶対にシバかれる、と思って心臓を無理やり動かしたってわけ。……まぁ、戻った瞬間、全身の骨折と火傷の激痛で、今度は俺が大絶叫する羽目になったんだけどな」
ハハハ、と笑う松田の横で、美和子は顔を真っ赤にして拳を震わせていた。
「ちょっと松田……! 誰が耳のぶっ壊れる爆音よ! 私はただ、あんたが死にそうだったから……!」
「はいはい、感謝してますよ、佐藤先輩。おかげで萩原のケツキックから無事に生還できましたわ」
松田はからかうように笑うが、その瞳の奥には、萩原への深い感謝と、自分を呼び戻してくれた美和子への温かい感情が確かに宿っていた。
「……そうか。萩原くんが、君を追い返してくれたのだな」
目暮警部が深く頷き、熱い涙をまた一粒こぼした。
「あいつはいつだって、他人のために動く男でしたから。……天国でも、相変わらず手荒な真似しやがって」
松田は窓の外の青空を仰ぎ、小さく笑った。
捜査一課に、温かい笑い声と涙が満ちていく。
こうして、奇跡のゾンビ刑事・松田陣平は、完全に戦線へと復帰した。
コメント
1件
ああ、もう、最高でした……! 松田の軽い語り口で綴られる死後の世界、でもその奥に萩原の怒りと愛情がぎっしり詰まっていて、泣きそうになりました。特に「お前の席なんてここにはねぇ」の台詞、胸にグッときました。美和子の叫び声で現世に戻ってくるシーンも、刑事たちの絆がじんわり伝わってきて。このエピソードだけで、松田と萩原の関係性がどれほど深いか分かりますね。素敵な話をありがとうございます🤍