『暁』は厳戒態勢を敷いて全構成員に本拠地である農園から出ないように下命。周囲警戒を厳として許可のない出入りを一切禁じる徹底ぶりを見せた。もちろん『ライデン社』には自動車を用いて直ぐ様連絡。会談は延期となった。
その間必要な物資は集積した保存用のものを使用。また『ターラン商会』に追加の物資購入を打診した。
そして早速農園に『ターラン商会』から追加購入した物資を運ぶ馬車数台と護衛が到着した。だがそれを率いていたのは。
「久しぶりに来ちゃったわ」
「マーサさん?」
『ターラン商会』会長のマーサ自身であった。
敵対者はぶっ殺す。どうも、シャーリィ=アーキハクトです。どこかのふざけた奴等が私の大切なものを奪ったので絶賛警戒中の『暁』です。
必要な物資の集積は十分に行っていましたが、余分にあって困るものではないので『ターラン商会』に追加の購入を打診したら二つ返事で了承してくれて、しかも良心的な価格で提供してくれました。
有り難い限りです。
ただ、輸送隊をマーサさん自身が率いてくるとは思いませんでしたが。
マーサさんを教会の応接室に通して、私とシスターで対応を行っています。いつものスーツ姿ではなくてエルフの民族衣裳姿であることから、商談ではないと思いますが。
そして相変わらず薄い民族衣裳からはみ出る『わがままボディ』。何を食べたらあんなに胸が大きくなるのでしょうか。ジェラシー。
「『ターラン商会』の会長がわざわざ来るなんて、暇なのですか?マーサ」
シスターが口を開きます。
「お陰さまで稼がせてもらっているからね、忙しくて目が回りそうだわ」
おどけたように返すマーサさん。シスターとは長い付き合いみたいなので、気安い感じがしますね。
「それは何よりでしたね。それで?知ってるか分かりませんがうちは今忙しいのですが」
「見れば分かるわよ。だってシャーリィの目がいつもより濁ってるんだもの」
濁ってるとは失礼な。
「察してくれて助かりますよ。で?」
「そんなに急かさないで良いじゃない、カテリナ。新しいお風呂を発明したって聞いたわよ。一緒に入らない?」
……はい?
何故か大浴場で私、シスター、マーサさんの三人が入浴することになりました。
二人とも脱いだらすごーい。雪みたいに真っ白な肌に豊かなお胸様、すらりとした身体。そんな二人に挟まれている私は小柄でチンチクリン。何ですか?新手のイジメですか?泣きますよ?ルイに泣き付きますよ?良いんですか?
「うーーんっっ……!気持ちいいわねー。お湯に入るなんて人間も変なこと考えるって思ってたけど。これ水浴びより気持ちいいじゃない」
伸びをすると豊かなお胸様が更に強調されます。女として色々負けているような気がします。やっぱり世界は意地悪でくそったれですね。ファック。
「シャーリィの思い付きにはいつも驚かされますが、これは素直に嬉しいものでした。たまには良い思い付きをするものです」
失礼な、いつも厄介なことを……してますね、反省します。
「見てて飽きないじゃない。次は何をするかいつも楽しみにしてるわ」
「他所から見ればそうでしょうね。当事者としては胃が痛くなりますが」
「最後には許してくれて背中を押してくれるシスターが大好きです」
感謝しているんですよ?
「突然なんですか?やめなさい、寒気がする」
失礼な。たまには素直に感謝しますよ。
「ふふっ、今の会話で二人の関係を感じられるわ」
マーサさんも楽しそうです。
「それで、マーサ。いい加減本題に入りませんか?まさかお風呂に入りに来た訳ではないでしょう?」
シスターが本題を切り出します。マーサさんならいつでも歓迎なのですが、今はちょっとそんな気分にはなれないのも事実。
私、珍しく苛立ってます。もちろん表に出しませんよ?こんな時は感情表現が下手くそな自分に感謝です。
「そうね……ならハッキリ言うわよ?三日前に起きた襲撃の数々。うちでもある程度は掴んでる。これ、自作自演じゃないわよね?」
……は?
「シャーリィ、落ち着きなさい」
気付けば私は湯船から立ち上がり、マーサさんに手を伸ばそうとしていました。危なっ!
「マーサ、言葉を選びなさい。今のこの娘にそんなことを言ったらどうなるか分からないわけではないでしょう?」
「ええ、軽率だったわ。ごめんなさいね、シャーリィ。悪気があった訳じゃないの」
「此方こそ、驚かせてしまって済みません」
湯船に身を沈めます。
「マーサ、今の質問の意図は何ですか?シャーリィを刺激するようなことは避けてほしいのですが」
「聞き方が悪かったわね。実はあの襲撃でバーが一つ爆破されて『暁』の何人かが吹き飛んだわよね?」
胸のざわめきが増します。落ち着きなさい、私。マーサさんは敵じゃない。
「原型を止めないくらいにね。それがどうかしましたか?」
「あのバーにはうちの構成員も居たのよ」
「それは……お悔やみ申し上げます」
巻き添えにされた形になるのかな。
「ありがとう、シャーリィ。で、最近あなた達の派手な立ち回りを見てうちの幹部の一部が危機感を持ったみたいでね。これは『暁』の自作自演による宣戦布告じゃないかって」
はい?
「理解できませんね、マーサ。何がどうすればそんな結論が出るのですか?」
シスターの言う通りです。
「すっごく情けない話をするわよ?」
「どうぞ?」
「今ね、うちの売り上げの半分以上が『暁』から手に入る品物なのよ。これの意味が分かる?カテリナ」
「ああ、なるほど」
「どう言うことですか?シスター」
「シャーリィ、簡単な話です。うちは、貴女はいつの間にか『ターラン商会』の利益を左右するほどの存在になったと言うことです」
はて?
「そうよ。野菜類はもちろん、最近は砂糖や植物紙まで扱い始めた。その売り上げは、うちの半分以上を占めている。そしてもしこれを止められたら、うちはバカみたいな損失を出すことになるわよね。売れないとなれば貴族連中からの信用すら失う」
ああ、なるほど。つまり。
「つまり、私が影から『ターラン商会』を操っているように見える。或いは乗っ取ろうとしているように見える。ですか?」
「その通りよ。私としてもこんなに利益が出るなんて思わなかったわ。私個人としては稼がせてもらう代わりに色々便宜を図ってるし、シャーリィとは上手くやれてると思ってる。でも」
「シャーリィと面識のはない幹部連中はそうではない」
「その通りよ。そして今回の襲撃でうちの構成員が死んだ。実際にはただ巻き込まれただけと言うのが真相なんだけど、幹部連中からすればこれは『暁』が『ターラン商会』に圧力を掛けてきたって話になるみたい。連中はうちの構成員が死んだこと以外に興味がないみたいだし」
「そうだったんですか。マーサさん、私は『ターラン商会』を乗っ取ろうなんて考えていませんし自作自演で大切なものを壊したりしません」
「そうね、貴女はそういう娘だものね」
「ですが、このまま放置してはマーサさんの立場が危うい」
「私の立場なんか気にしなくて良いけど、幹部連の誰かが暴発する危険はあるわね」
「乗っ取られる前に『暁』を乗っ取ろうとする。ですか?マーサ。舐められたものですね」
「その時は遠慮しなくて良いからね?」
「当然です。その場合は『ターラン商会』相手だろうと容赦はしません。徹底的にやります。そしてその時はマーサさん。貴女は私の大切なものになってくれますか?」
「えっ?」
この時の会話がマーサの運命を決めることとなる。
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