コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
崩壊した都市、吹き抜ける風、しかし、その音を感じられることに安堵を覚え、キルロンド生の全員がその場に崩れ落ちるかのようにドサっと尻を付いた。
「終わった…………のか…………?」
「お、俺たち……勝ったんだよな……!?」
後ろで騒つくキラ達だが、ヒノトは未だ、険しい表情を浮かべさせていた。
「ヒノト…………」
リリムが静かに駆け寄ろうとした瞬間。
「ウォーーーーーーー!!」
「キルロンド万歳ーーーーー!!!」
どこからともなく、歓声の声が響き渡った。
「な、なんだなんだ!?」
その声は、エルの能力で魔族化されていた、田舎村から都市部に住むほぼ全ての倭国民たちだった。
慌てるキルロンド生たちの前に、徳川勝利が赴く。
「君たちの功績、喝采なくばおかしいだろう?」
「俺たちの……功績……?」
「あぁ。君たちは、強くなる為に倭国に来たのかもしれない。ハナから、魔族の掌で動いていたのかもしれない。それでも、この倭国を救ったことは、紛れもない事実だ」
続けて、徳川は深々と頭を下げた。
「倭国を救ってくれて……ありがとう…………!」
荒い呼吸で、恐らくは魔族化し、体力も魔力もほぼ尽き掛けているだろう酒井も追い付き、頭を下げた。
ラスは、静かにヒノトに近寄ると、珍しく父親らしく頭にポンと手を置いた。
「父さん…………」
「セノの言う通り、キルロンドでも様々な考えや目標はあった。だが、倭国を守ったのはお前たちだ。胸を張れ。悔やむ必要はない。勇者になりたいなら、守れた人たちの前で、大きく笑ってみせろ」
その言葉に、ヒノトは強く立ち上がる。
その眼には、一筋の涙が溢れていた。
「何かありゃあ……俺たちが守る!!」
ボロボロの笑顔で、ヒノトは倭国民に声を上げた。
「オォ! その通りだぜ!! これからはどんどん協力しあっていこうぜ!!」
続いて、キラや、他の生徒たちも立ち上がり、満面の笑みを倭国民たちへと向けた。
「でも……レオが…………」
やはり、ヒノトはうまく笑えずに、そっと呟く。
「あぁ、後悔は山程すればいい。だがな……」
その時、陽が登ったせいだったのか、それとも本当に笑ってくれていたのか、父の笑みを見たのは久々だった。
「こんな日があってもいい」
その言葉を聞いた瞬間、ヒノトの視界は晴れ渡るかのように、倭国民たちの大きな歓声が目に飛びついた。
「この人たち……みんな俺たちが救ったのか……」
陽の光に照らされ、見えない向こうまでの人たちが大きな歓声を上げ続けている。
「この人たち……みんな…………」
「そうだ。お前たちの力で救ったんだ」
「ヒノトくん!」
そんなヒノトの元に、よろよろと咲良も駆け寄る。
「咲良……!」
「僕を…………いや、僕たちを、救ってくれてありがとう…………!」
泣きそうになりながらも、ヒノトは咲良に笑い掛け、力強く肩を組んだ。
「何言ってんだ! お前だって倭国の人たちを守ってきて、一緒に救ったんじゃねぇーか!」
その夜、大勢の人たちが参加した倭国民たちによる盛大なパーティに参加し、キルロンド生たちは山程の倭国産の見たこともない料理を口にした。
大きなホテルに、一人一部屋を用意され、全員が早いうちに寝静まってしまった。
倭国とキルロンド生たちは、リムルに勝利した。
それは、刻一刻と、魔族軍 雷の使徒 セノ=リュークの筋道を辿っていることとなる。
「賑わいのパーティの中、呼び出してすまないね」
統領室で、甲冑を綺麗に仕舞い込み、来客用のソファに座っているのは、倭国統領 徳川勝利と酒井杏香。
そして、相対するはラス・グレイマンと、緊急で今回の遠征の隊長に替わったルギア・スティア。
呼び出されたのは、
「どうして……私なんですか…………?」
リリム・サトゥヌシアだった。
「これから、倭国とキルロンド王国は更なる協力関係を築くこととなるだろう。しかし、それすらもまた、セノ=リュークの掌だと思ってね」
「は、はぁ……」
「そろそろ、君には話しておくべきだと思ったんだ。先の魔族戦争で功績を成した私たちだけが知る、『勇者の本当の真実』を…………」
ドキリと、リリムの心臓は鼓動を早くする。
「勇者の真実と……私に何の関係が……?」
「君は、先の魔王、マリア・サトゥヌシアの娘だ」
「はい…………」
「そして同時に、この世界に語り継がれている勇者、シア・ラインハルトの実の娘だ」
「私が……勇者の実の娘……? え、ってことは……」
自分が伝説の勇者の娘であると言う言葉に戸惑いながらも、その上での真実が脳裏を渦巻く。
「あぁ。勇者と魔王は、結婚を考えていた恋仲の関係にある。いきなりの展開に頭が回らないだろうが、これは全て真実で、君がキルロンドで生きている真の理由だ」
リリムは、呆然と言葉が出なくなっていた。
「セノが、我々、倭国とキルロンドが手を結ぶことを計算に入れているならば、我々はそれ以上の戦力を身に付けなければいけない」
「エルフ王国…………」
ラスは目を細めながら徳川を眺める。
「エルフ王国はな……。一筋縄ではいかないだろう。特に今の族長は……。大人のサポートは全くできないと考えていいだろう。ヒノトくんが、どこまでやれるか……」
その言葉に、フッとラスは微笑む。
「我が息子ながら、とんだ使命を背負わせたものだ。もちろん息子としての愛着はある。だが、灰人として鍛えてきたのもまた事実だ。覚悟はできている」
「ちょっと待ってください、ラスさん!! それって、まるでヒノトは…………」
ラスはリリムの言葉を制するように睨み付ける。
「ヒノトは、倭国の技術力とキルロンドの歴史がようやく生み出した……この世界の禁忌の兵器だ」
「そんな……自分の息子に兵器だなんて…………」
歯を強く噛み締め、涙を一筋溢すリリム。
「すみません、疲れているので私はこれで……」
リリムは、静かに統領室を後にした。
「ラス……流石にその言い方は…………」
「事実だろう、勝利。お前だって、師匠の下に案内したんだろ? 狐架の剣術の技が増えていたぞ」
ドゴォ!!
次の瞬間、ルギアは力強くラスを殴り付けた。
ラスは物を破壊して壁へと叩き付けられる。
「覚悟とは……このことだよな? ラスよ……」
睨み付けながら、ルキアはボッと拳に炎を灯した。
「あぁ、その通りだ。この覚悟だよ、ルギア。勝利」
「お前…………そこまで…………」
「当然だ。灰人の……ヒノトの父になると決断したその時から、俺は全てを覚悟している」
そして、ラスは静かに立ち上がり、外の月を眺めた。
「だからこそ早く、この戦争を終わらせ、俺もヒノトと本当の家族になりたいんだ…………」
こうして、倭国での最後の夜は過ぎて行った。
新たな真実を知ったリリムと、何も知らないヒノト、元気いっぱいなキルロンド生たちは、沢山の喝采に手を振られ、倭国の地を後にした。