チャイムが鳴った。
少しうるさくて、
でも嫌じゃない音。
窓際の席。
風が入ってきて、
プリントがめくれた。
ミオが笑っている。
なんで笑ってるのかは分からない。
でも、俺はそれを見て、
「あ、今日も普通だな」と思った。
ミオ「放課後さ、時間ある?」
あるよ、って答えた。
即答だった。
ユウは後ろで椅子を蹴ってきて、
ノートを貸せって合図をしてきた。
いつものやつ。
誰も変じゃない。
誰も欠けてない。
俺はここにいて、
それでいい。
黒板の文字が揺れて、
眠気がきた。
ああ、
寝不足だな。
――そう思った。
「…ッは…」
目を開けた瞬間、
全部が間違いだったと分かった。
天井が低い。
静かすぎる。
自分の部屋。
スマホが鳴っている。
学校のチャイムじゃない。
通知音。
胸の奥が、
嫌な感じで沈んだ。
画面を見る。
【未送信の下書きがあります】
「……なんだよ、それ」
夢の中の教室が、
一気に遠ざかる。
ミオの声。
ユウの顔。
さっきまで、あんなに近かったのに。
今日は、学校がない。
行く場所も、
行く理由も、
もう残ってない。
膝に力が入らなくて、
ベッドの縁に座り込んだ。
楽しかった。
――だから、夢だった。
そう理解した瞬間、
喉が詰まった。
泣いてるのかどうかも、
自分で分からない。
スマホの下書きを開く。
そこには、一文。
ここからやり直せば、間に合う。
間に合うわけがない。
そんなこと、
もう分かってる。
それでも、
それしか残ってなかった。
ここが始まりだ。
俺が、
全部を間違え始めた場所。







