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「――なぁ、白虎。お前、実は暇なのか? 自分の領地はどうしたよ」
あれ以来、すっかり懐いてしまったらしいこの「大型の白猫」は、事あるごとに朱雀の宮殿へ姿を現すようになった。
おかげで、思いきり喧嘩してヤンキー魂を発散できる相手ができたのは悪くない。だが、朱雀の方はどうにも面白くないらしい。
「なんだ? 俺の領地の心配をしてくれてんのか。安心しろ、俺の目が黒いうちは安泰だ。……だが、それより朱雀よ。お前の国はどうなっている?」
白虎はケラケラと笑っていた表情をふっと消し、琥珀色の瞳を細めて重苦しい空を仰いだ。
「日に日に『穢れ』が濃くなっていやがらねぇか。国境を越えたあたりから、胸糞悪い匂いが鼻をつくぜ」
「……そなたには関係のないことだ」
朱雀はふいっとそっぽを向き、あからさまに嫌そうなオーラを放ちながら胡坐をかいた。頬杖を突き、不貞腐れたように唇を尖らせる姿は、とてもじゃないが信仰を集める麗しの神様には見えない。
「関係なくはねぇだろ。四神のバランスが崩れりゃ、俺の西の地まで腐る。……お前、この『巫女様』を抱え込んで何をしてやがる。お前一人の独占欲じゃ、調律(ケア)が追いついてねぇんじゃねぇのか?」
白虎の挑発的な問いに、朱雀の眉間がピクリと跳ねた。煌の肩を抱き寄せる腕に、ミシミシと音がしそうなほどの力がこもる。その指先は、誰にも触れさせないと誇示するように煌の喉元を緩く囲った。
「くどいぞ、白虎。わしの童の力は、わし一人が引き出せば足りる。お主のような野蛮な虎に、この肌の一分たりとも触れさせるつもりはない」
「……っ、おいエロ鳥、話が逸れてんだろ! 離せって!」
朱雀の腕の中でもがく煌を余所に、白虎は当然のような顔をして二人の背後へ回り込み、その巨躯をドカリと板張りの床に沈めた。
「まぁいい。そんなことより鉄拳の巫女。今日の飯はなんだ? 俺は腹が減って動けねぇぞ」
「たく、なんだかんだ言ってそれが目的なんだろ……」
絶対そうだ、そうに違いない。そうでなければ、西の守護獣ともあろう者がこんな頻繁に朱雀の宮殿へ通い詰めるはずがないのだ。
「……俺のこと、飯炊きババァか何かと勘違いしてねぇか?」
「ガハハ! まぁそう言うな。お前の作る飯は見たこともねぇ品ばかりだし、何より美味い。ここでしか食えねぇなら、通うしかねぇだろ?」
「あっそ。……たく、しゃぁねぇなぁ」
正直、自分ではそこまで料理が上手だとは思っていない。プロの料理人でもないし、レパートリーが山ほどあるわけでもない。
それでも、神様だの神獣だのと呼ばれて崇められている連中が、ガキみたいに「美味い、美味い」と食い付いてくる姿を見ていると、つい絆されてしまう。
それに――。
「じゃぁ、食わせてやる代わりに、とっておきの情報教えろよ?」
「うむ、わかっておる!」
任せとけと言わんばかりに、銀髪の隙間からのぞく耳をぴくぴくさせ、満足げにしっぽを揺らす白虎。その姿に、煌は呆れ半分で苦笑した。
来るたびに朱雀と火花を散らし、宮殿の主を猛烈に不機嫌にさせるのだけは勘弁してほしいが、これだけあっさり情報源が釣れるなら、安い買い物だろう。
「……童、わしの前でその野良猫と密約を交わすな。食わせるなら、わしが許可した残飯だけにせよ」
「残飯とか言うな! さっさと離せ、火が使えねーだろ!」
背後で唸る朱雀を肘で突き飛ばし、煌はエプロン代わりの特攻服を正しながら、今夜の献立――情報を引き出すための「餌」について考え始めた。