テラーノベル
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電車を降りて、夜道を並んで歩く。
さっきまで騒がしかった駅前とは違って、住宅街は静かだった。
「……」
「……」
隣を歩く吉田仁人が、ちら、とこっちを見る。
そのたびに、佐野勇斗は落ち着かなくなる。
いや無理だろ。
さっき電車で「好きすぎるかも」とか言われたあとに平然とできるわけがない。
「勇斗」
「っ、はい!」
「返事でか」
「仁人が急に呼ぶから!」
「呼んだだけなんだけど」
仁人が笑う。
その笑い方が優しくて、勇斗はまた変に意識してしまう。
「……あとどのくらい?」
「もうちょい」
「そっか……」
もうちょいで着く。
つまり、お泊まりが始まる。
その事実がじわじわ現実味を帯びてきて、勇斗は急に緊張してきた。
「……」
「また静かになった」
「いや別に」
「分かりやす」
「うるさい」
仁人は少しだけ歩幅を緩める。
そして、自然に勇斗の手に触れた。
「……っ」
「繋ぐ?」
「外!」
「暗いし」
「そういう問題じゃ……」
言いながらも、勇斗は結局その手を握ってしまう。
仁人の指がゆっくり絡んできて、胸が苦しくなる。
「……勇斗」
「ん?」
「今日さ」
「うん」
「ずっと幸せ」
その声があまりに優しくて。
勇斗は思わず仁人を見る。
街灯の下で、仁人が少し照れたみたいに笑っていた。
「……何その顔」
「どんな顔」
「好きって感じの顔」
「好きだから」
「っ……」
即答。
しかも真顔。
勇斗は勢いよく前を向いた。
「……ほんと急にそういうこと言う」
「勇斗も言うじゃん」
「俺は言ってない!」
「言ってる」
「言ってない!」
「顔で」
「顔!?」
仁人が肩を揺らして笑う。
「今日ずっと、仁人好き〜って顔してた」
「してない!!」
「してた」
「……」
「かわいかった」
勇斗はもう反論する気力を失った。
なんなんだ今日。
ずっと心臓が休まらない。
そんなことを考えているうちに、仁人がマンションの前で立ち止まる。
「着いた」
「……」
勇斗も立ち止まる。
見上げたマンション。
ついに来てしまった。
「勇斗?」
「……今ならまだ帰れる?」
「帰さない」
即答だった。
「っ……」
仁人が小さく笑う。
「そんな緊張しなくていいのに」
「するだろ普通!」
「何もしないよ」
「それはそれで困る!」
「え」
「あ」
言った瞬間、勇斗は固まった。
終わった。
完全に終わった。
仁人も目を丸くしている。
「……へえ」
「違う違う違う!!」
「何が違うの」
「今のは事故!!」
仁人が俯く。
肩が震えていた。
「……笑うな!!」
「ごめん、無理……っ」
「うわ最悪!!」
勇斗がしゃがみ込みそうになると、仁人が優しく腕を引いた。
「ほら、行こ」
「……」
「勇斗」
「……何」
「かわいい」
「もう聞き飽きた!!」
でも。
仁人の手はすごく温かくて。
そのままエレベーターに乗る。
狭い空間。
二人きり。
沈黙が気まずい。
「……」
「……」
「勇斗」
「っ、はい!」
「だから返事でかいって」
「仁人が突然話しかけるから!」
「緊張しすぎでしょ」
「誰のせいだと……」
そこで、ふいに仁人が近づいた。
「っ!?」
壁際に追い込まれる。
近い。
近すぎる。
「仁人!?」
「んー?」
「な、何」
仁人はじっと勇斗を見る。
その視線が妙に甘くて、勇斗は息を飲んだ。
「……今日の勇斗、ほんとやばい」
「何が……」
「好きすぎて困る」
「っ……」
「今もかわいい」
「……っ」
「顔真っ赤」
「仁人のせい!」
「知ってる」
エレベーターが止まる音がした。
でも仁人はすぐには離れない。
勇斗の鼓動だけがうるさく響く。
「……仁人」
「ん?」
「これ、家着いたらどうなるの」
仁人は少しだけ考えるように黙ってから、
「……たぶん、もっと甘やかす」
と、小さく笑った。
その瞬間。
勇斗のHPは完全にゼロになった。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
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ちゃき
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