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ハウレス 特訓する
幼い主が現れて約1週間。
今まで天使の襲撃が無かったため忘れかけていたが、主の仕事は天使狩りの際に悪魔執事たちの力を解放することである。
悪魔執事たちの力を解放するためには主の指輪と本が必要になり、本の文字をなぞって詠唱を行う必要がある。
しかし、主は殆ど言葉を発せず、文字も理解しているのか怪しいところである。
幼い主を守りながら悪魔の力無しで天使狩りを行うとなると、主の居なかったとき以上に執事たちを危険に晒すことになってしまう。
とにかく、文字は読めなくても呪文を覚えてもらわなくてはいけない、とハウレスは主とロボを庭に連れ出し、特訓を始めることにした。
ロボには木刀を握らせて素振りをさせている間に、主と詠唱の特訓を始める。
「主様、これから呪文の練習をしましょう。俺達悪魔執事の力を解放し、天使を殲滅するのに必要なことなのです」
『?』
「あ、えぇと、簡単に言うと・・・
俺達を強くしてもらう呪文を練習していただきます。
これは、主様のお仕事みたいなものなので、頑張っていただけるとありがたいのですが・・・」
(こくん)
トリコは緊張した様子で頷いた。
「大丈夫ですよ、ちょっとずつ覚えていけば良いのですから。
では、俺の真似をして言ってみてください。
【来たれ。闇の盟友よ。】」
『きたぇ、やみのめーぅーぉ』
「【我は汝を召喚する。】」
『わぇはなんじぉ、しょーかん?すぅ』
「【ここに悪魔との契約により、】」
『ここに、あくまとのけーやくによぃ』
「【執事の力を解放せよ。】」
『ひつじのちからぉ、かいほぉしぇぉ』
かなり怪しい発音で紡がれる詠唱に、ハウレスは本当に悪魔の力を解放できるのかかなり不安になった。
「・・・とりあえず、実際に解放してもらって考えようか・・・
では、主様こちらの本をお持ちください」
ハウレスはトリコに分厚い本を手渡す。
「ここの、丸の下の字をこう・・・こんな風に、なぞってみてください」
トリコは言われた通り、戸惑いつつも文字をなぞる。
すると、本の紋章が光を発した。
『!』
「よし、それでは詠唱しましょう!
【来たれ。闇の盟友よ。】」
『きたぇ、やみのめーぅーぉ』
「【我は汝を召喚する。】」
『わぇはなんじぉしょーかんすぅ』
「【ここに悪魔との契約により、】」
『ここに、あくまとのけーやくによぃ』
「【ハウレスの力を解放せよ。】」
『はうぇすのちからぉかいほぉしぇぉ』
詠唱が終わった瞬間、ハウレスの身体に力が漲るのが分かった。
久しぶりに悪魔の力を解放できたということだ。
こんな詠唱でも良いのか、と若干引っかかるが、解放できるなら何でも良いというのも本音であるため、深くは考えないことにして、トリコを目一杯褒めてあげることにした。
「主様、ありがとうございます!
無事に力の解放ができました!」
『!』
「よく頑張りましたね!
主様、いい子ですね。いい子、いい子・・・」
ハウレスはトリコの頭を優しく撫でて、いい子いい子、と繰り返した。
折角力の解放をしてもらったので、ロボと模擬戦をすることにした。
「ロボットさん、素振りはそこまでにして模擬戦をしよう。ロボットさんはナイフの模造刀でやってみようか。持てるだけ持ってみてくれ」
〈頷く〉
ロボは木箱に入っているナイフをどんどんリュックに放り込み、木箱の半分以上を詰め込んだ。
そこまで多くのナイフを持てると思っていなかったハウレスは困惑しながらも、どう戦うべきか高速で戦略を組み立てていく。
「よし、では、始めるぞ。
俺は剣を使う。ロボットさんはその大量のナイフを接近戦に使ってもいいし、投げたりしてもいい。
とにかく、俺の攻撃を避けながら仕掛けてきてくれ」
〈ピョン〉
主に開始の合図を頼み、ロボと向かい合って剣を構える。
トリコは貸してもらった笛に思い切り息を吹き込んだ。
ピーーーーーッ
笛の音を合図にハウレスは一気に距離を詰めてロボに斬りかかる。
ロボは左右に走り回り、斬撃を器用に避けていく。
しばらく逃げ回っていたロボは、ハウレスの動きを幾らか把握したところで反撃に出る。
剣を振り切った瞬間に死角に駆け込み、ナイフを放つ。
ハウレスは剣でナイフを落とした。
頭部に向かって投げられたナイフに気を取られている間に、ロボはハウレスの足元に入り込む。
ロボを見失って焦るハウレスの脚をナイフで切りつける。
「っ!!」
ナイフが当たった瞬間、ハウレスは体を反転させロボに鋭い蹴りを入れた。
ロボは腕で攻撃を防いだものの、1メートルほど飛ばされてしまった。
すぐに体制を立て直した両者は武器を構えたまま互いの動きの読み合いをする。
先に動いたのはロボで、リュックからナイフを掴めるだけ掴み、次々に投げつける。
勢い任せに投げられるナイフを叩き落とし、避けていくハウレス。
ハウレスに当たる前にナイフが無くなると判断したロボは、ハウレスに向かって真っ直ぐ、全速力で駆け出した。
「!?」
急に自分に向かって高速で走ってくるロボに驚いたハウレスだったが、なんとかロボの突撃を避ける。
しかし、ロボは一瞬で方向転換をして、またハウレスに突撃してくる。
次もなんとか躱したが、今度は振り向きざまにナイフを投げつけてきたため、ナイフに気を取られてロボを避けきれなかった。
「ぐぅっ!!」
太腿に深々とナイフを打ち込まれ、ハウレスは降参した。
「俺の、負けだ・・・」
〈ピョンピョン〉
嬉しそうにその場で跳ねたロボにトリコが駆け寄り、2人はぎゅっと抱きしめあった。
微笑ましい光景に、ハウレスはその場に座ったまま癒やされていた。
ひとしきりロボと喜びあったトリコはハウレスの前に歩いてきて、頭に手を置いた。
『いーこ、いーこ』
「!」
先ほどハウレスがトリコにしたように、手を優しく動かして撫でてくれる。
「ふふ、ありがとうございます主様。
・・・もっと精進いたします」
『?』
「さあ、そろそろおやつの時間です。
おやつを食べてから、もう一度練習しましょうね」
『ん!』
「主様、返事ははい、ですよ」
『ぁい』
「もっと元気にしましょう」
『あい!』
「良いですね、ではお手々を洗いに行きましょうか」
ハウレスはトリコを抱き上げ、屋敷に入っていく。
ロボがハウレスを追い越し、玄関を開けて待っている。
「すごいな、ボスキなんかよりよっぽど執事らしいんじゃないか?」
『くすくす』
屋敷に入ってトリコを下ろすと、トリコは歩きたがらず、ハウレスのズボンを掴んで見上げてくる。
「・・・どうしました?」
『んっ』
トリコはハウレスに向かって両手を伸ばす。
「・・・抱っこですか?」
『ん!』
「えっと・・・さっきのをしてほしいんですか?」
『あい!』
「はい、分かりました。
今度から、抱っこ、と申し付けてください。そうすれば執事もすぐに分かってくれますから」
『あ、こ?』
「だっこ」
『らっこ』
「ふふ、お上手ですよ」
ハウレスは再びトリコを抱き上げて歩き出す。
その後、いろんな執事に『らっこ』と言って回るトリコの姿があった。
抱っこが上手だったり、そのまま絵本を読んでくれたり、肩車をしてくれたりした執事には『いーこいーこ』が与えられ、貰いそこねた執事たちがお菓子、おもちゃ、絵本などを持って「もう一度チャンスを下さい!」と必死に頼み込む光景も見られたのだった。