「話す必要なんてないから。だって、彼は香坂ホールディングスの御曹司だよ。わたしみたいな庶民が彼に釣り合うはずないし、それに、わたしは玲伊さんが彼女と一緒にいるところをこの目で見たんだし」
「いや、玲伊ちゃんの気持ちを確かめるべきだと思うけどね」
「そんなの……確めなくたって、わかりきってるよ。無駄につらくなるだけ」
「まったく。意地っ張りだね、優紀も。へんなところがあたしに似ちゃったね」
祖母は苦笑いを浮かべて、そう言った。
「でもね、優紀。あたしには玲伊ちゃんはお前のことを誰よりも大切に思っているようにしか見えないよ」
「そんなこと……ないって」
「年寄りの言うことは素直に訊くもんだよ。お前の何倍生きてると思ってんだい。勇気を出して、一度、優紀の気持ちを素直に伝えてごらん。そうしないと、本当のことは何もわからないじゃないか」
「うん……」
祖母は膝に手をおくと、よいしょっと言って、立ちあがった。
そして「夕飯、おいておくから、食べたいときに食べればいいよ」と言って、部屋から出ていった。
予想はしていたけど、その夜はまったく眠れなかった。
窓の外が白んできたころ、ようやく気持ちが落ち着いてきて、おばあちゃんのいうとおり、とにかく一度玲伊さんと話さなければならない、と思えるようになった。
自分の気持ちをすべて明かして、これからの身の振り方を考えなければならない。
今からモデルを降りるのが無理なら、せめてヘアメイクは玲伊さん以外の人にしてもらいたい。
気持ちを打ち明けて砕け散った後、あのサロンでふたりきりになるのは、もう耐えられないから。