映画が公開された時は、毎日のように彼と仕事をして顔を合わせていた。
もちろん撮影の時も。
それが終わって早くも数カ月たって、連絡すればすぐに返信をくれることはわかっていたけど、一体どう誘えばいいのか、なにを理由にメッセージを送ればいいのか考えている間に日々は過ぎていった。
テレビ、雑誌、ラジオに映画にライブ···彼を見ない、その曲を聴かない日なんて1日もないくらい忙しそうな彼に連絡するのはどうにも気が引ける。
それなのにただ会いたいな、と思って苦しくなる···いや、ただ会いたいだけじゃないからこそより苦しくなる。
2人だけで打ち上げと称して食事をしていたあの日、雰囲気のいい個室で酔っぱらってへらへらになった俺の隣に座り、何も言わず余裕の笑みを浮かべてキスをしたのは彼だった。
「へ、あ···?」
「さ、風磨くんそろそろ帰ろっか。明日も仕事だしね」
どうせ明日も明後日も仕事だろ、なんて軽口を叩く余裕はなく、情けない顔のまま俺は彼の後について店を出て、呼んでくれたタクシーに乗せられてらそれっきりそのあとは何にもなかった。
あれは、あのキスは何だったのか?
あの時俺の心はきゅっと掴まれて、今もそのまま。
「大森くんに会いたいんだよなぁ···」
そんな俺にチャンスが巡ってきたのはそれから少しした頃、偶然にもテレビ局で出会うことになる。
「風磨くんだ」
「え、お、大森くん···」
本当にさらりと声をかけられて動揺する俺は、なに緊張してんの、と笑って肩を叩かれる。
「ひ、久しぶりだったから···元気そうじゃん、相変わらず忙しそうだけど」
「おかげさまで。風磨くんもでしょ?けど、ご飯食べる時間くらいはあるでしょ」
「え···うん、ある、連絡する!」
彼なりの誘いだと分かってそう言うと大森くんは嬉しそうに待ってる、といいヒラヒラ手を振りながら去って行った。
「マジ?え、いいのかな」
でもこれは、チャンスだ。
大森くんに迫るチャンス。
急いで予定を連絡して、俺はその日に向けて慌てて用意をした。
俺の計画を実行する日。
用意するのは簡単に作れそうなパスタ、美味しいと噂のテイクアウトの料理、少しお高めのお酒。
そして、ネットで購入した高い媚薬。
もうすぐ何も知らない大森くんが俺の家に来る。
あの日キスされた仕返しなんだからと言い訳して俺は計画を実行すると決めた。
コメント
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お久しぶりのふまくんです、この組み合わせも好きなんです☺️