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会社の昼休み、気乗りしなさすぎて重い足でナースステーションに着いた麗は、女性の看護師に面会申請をした。


看護師が笑顔で応対しようとして失敗したような表情をしたので、どうせ父が何かやらかしたんだろうなと申し訳なくなる。

台湾土産の箱菓子を皆さんでどうぞと看護師に渡した後、個室の病室に行くと、扉が開いていた。

中で看護師が父に点滴を打っていた。


筋肉がすごい男性の看護師だ。

女性の看護師にセクハラをした結果、この人が担当になったのでなければいいが。


「遅い! 入院している父親が呼んでいるのに何故すぐ来ない? この薄情者!」

開口一番怒鳴り付けられ、麗は溜め息をついた。


「しゃーないやろ、薄情なところはあんたに似てん。わざわざ買い物して来てあげただけでも感謝して」

修羅場かと困った顔をしているムキムキの看護師に挨拶し、買ってきたパジャマと雑誌を並べた。


「身寄りのなくなったお前を引き取ってやったのは誰だと思っている!」

「姉さん。因みに高校と短大に行かせてくれたのも姉さん。因みに身寄りはお前がいたからなくなってない。ただ、お前が遺伝子ばらまいた責任を放棄していただけ」

この男がしてくれた事と言えば、姉に強制されて麗を認知したことくらいだ。


「生活費は私が出してやった!」

「知ってた? 子供の生活費って親が出して当たり前なんやで?」

「うるさい! 大体、お前の夫はどうした? 義父が入院しているのに一度会社の用だけのために来たっきり見舞いにも来ないのか!?」

不利を悟ったのだろう、なおも癇癪が続く父の矛先が明彦に向かった。


「明彦さんはあんたがガッタガタにした会社のせいで忙しいの。姉さんに散々尻拭いさせておいて追い出して、次は明彦さんに迷惑かけて恥ずかしくないわけ? しかも私を社長に据えるとかどんたけ迷惑よ」

娘のことを可愛くて仕方がないとばかりに嬉しそうに話していた営業部長と己の父を比較してしまい、麗は苛立った。

「違う、あれは嫌がらせのつもりでは……いや、もういい! それより、おい、誰がクロスワードパズルを買ってこいと言った! 経済誌を買ってこいと言った筈だ」

指定された雑誌ではなく、懸賞付きクロスワードパズルの雑誌を買ったのは麗の嫌がらせだった。


「どうせ経済誌なんか読まへんくせに? そもそも、あんたもう会社追い出されたんやで。大人しくそれやって時間潰し」

仕事が忙しくてなかなか会えないという実母の詭弁を信じていた子供のころは、次に父に会えるのを指折り数えて懐いていたし、会う回数が少ないため可愛がられていた。


だが、それも、母が捨てられるまでだった。


父にとって麗など、己が手間をかける必要がないから可愛がることができる愛人のペット扱いだったのだろう。


そのペットが噛みついて、己のテリトリーに侵入してからというもの、当然だが、扱いは変わった。


無視されればまだいい方で、父が恐れている姉がいない時は、怒鳴り付けてくる事も多かったが、病気になってからというもの余計に酷くなった。


「何だと! お前の今の裕福な暮らしがあるのは誰のお陰だと思っている!」

「明彦さん。ありがたいことに親元にいたときよりずっと幸せやわ」

「分不相応な生活をして随分と調子に乗りおって! こっちは、麗音ではなくお前なんぞを嫁がせたせいで、辞任させられたというのに!」


麗は父の言葉に息を詰めそうになった。

(辞任と引き換え? アキ兄ちゃんはやっぱり私なんか娶りたくなかったから交換条件をつけたの? ……違う、大丈夫。例え交換条件が本当だったとしても権力に固執しているこの人を辞任させるための方便に使っただけ。こいつの言葉より好きだと言ってくれたアキ兄ちゃんの言葉を信じるべき)


「お陰様で、社内が明るなったわ。あんたがいなくなってお婆様の代に戻ったみたいやって言って、みんな楽しそうにしてるで」

麗が祖母、麗華の事を持ち出した瞬間、我慢ができなくなったんだろう、クロスワードパズルが飛んできた。

当たりはしなかったので、麗は無視する。


「お前は、お前は…!」

父にとって、祖母と比べられることが一番我慢ならないのだ。

知りたくもないが、祖母と父の間にもまた確執があったのだろう。


「すみません! これ以上患者を興奮させないで下さいっ」

怒られたので、麗はすみませんと看護師にだけ頭を下げ、床に落ちたクロスワードパズルを拾い端において病室をでたのだった。

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