『好きな人がBLドラマに出演しまして』~d×n~
Side涼太
「え?BLドラマ?」
翔太のちょっと裏返った声が、会議室に響いた。
その瞬間、俺の胸の奥にふわっと温かいものが広がった。
翔太が新しいことに挑戦する――それだけで嬉しかった。
「そうです。タイトルは『君の隣で眠りたい』。深夜枠での放送が予定されています」
マネージャーの田中さんが落ち着いた声で話を続けるのを聞きながら、俺は隣に座る翔太の横顔を見つめていた。
最初は驚いた顔してたけど、だんだんと期待に目が輝いていって、その変化がすごく愛しくて……思わず頬が緩んだ。
「翔太、すごいじゃん!」
俺が声をかけると、翔太がパッと振り返った。
目がちょっと潤んでて、顔も少し赤くて、嬉しいけど照れくさい――そんな感情が全部混ざった顔。
「ありがとう、涼太」
その笑顔があまりにも眩しくて、胸の奥がギュッと締めつけられた。
翔太がこうして新しい世界に踏み出すときの、あのまっすぐな瞳を見るのがたまらなく好きだ。
何かを頑張る翔太って、本当にきれいで、
ドキッとするくらい魅力的なんだよな。
「相手役は佐野晴人さんです」
田中さんのその一言に、翔太の目が丸くなった。
「佐野さんって…もしかして、涼太がバラエティー番組で共演した佐野くん?」
俺の顔をじっと見て、翔太が聞いてきた。ああ、そうだった。俺が『エンタメの夜』で佐野くんと共演したとき、翔太に収録のことを話したんだ。
あの時もメンバーで全員で番組見てくれたんだよな。
「そう。あの佐野くんだよ」
俺が頷くと、翔太の顔がパァッと明るくなった。
「うわぁ!涼太がバラエティーで共演した佐野くんと一緒にお仕事できるんだ!すごいじゃん!」
本当に嬉しそうで、こっちまで嬉しくなってくる。翔太が前向きにこの仕事に取り組もうとしてるのが伝わってきて、俺の胸もどんどんあったかくなる。
「舘さん、佐野さんってどんな人?」岩本が聞いてきた。
「とても優しくて、プロフェッショナルな俳優だよ。一緒に仕事する人への気遣いもすごくて、俺もたくさん学ばせてもらった」
真面目に答えると、翔太がすごく嬉しそうな顔で俺のことを見ていた。
「それなら安心だね!涼太が認める人だったら間違いない」
そう言ってにこっと笑う翔太の顔があまりにも可愛くて、俺、たぶん今、表情が緩みっぱなしだと思う。
「涼太も応援してくれる?」
ちょっと不安そうに、でも期待も込めた声で聞いてくる翔太。その目に見つめられて、俺の心は一瞬でとろけた。
「もちろん。翔太が頑張ってるのを見るの、俺すごく好きだから」
「ありがとう」
そう言ってくれた翔太の笑顔は、宝物みたいにキラキラしてて。
この笑顔をずっと見ていたいと思った。
会議が終わると、メンバーたちがわらわらと翔太のまわりに集まってきた。
「翔太、おめでとう!」
深澤が一番に声をかけて、続けて岩本が翔太の肩を軽く叩く。
「すげぇじゃん!BLドラマの主演なんて」
「俺も絶対見るわ」
佐久間もニコニコしながら言う。
「翔太のファン、すごく喜ぶだろうな」
阿部ちゃんが優しく微笑んで、康二も穏やかに頷いた。
「きっといい作品になるよ。翔太の魅力が、もっとたくさんの人に届くといいね」
「しょっぴー、頑張って!俺たちもずっと応援してるから」
ラウールが元気いっぱいに言って、目黒も明るく言葉を添えた。
「みんなでお祝いしない?今度の休みにでも」
「それいいね!翔太の新しいスタート、みんなでお祝いしよう」
俺がそう言うと、翔太の目に涙が浮かんでいた。
「みんな…ありがとう」
声が少し震えていて、その姿があまりにもまっすぐで、純粋で。俺の心がじんわりとあたたかく満たされていく。
「俺ら9人で支え合ってきたんだから、翔太の成功はみんなの誇りでもあるよ」
そう伝えると、メンバー全員が力強く頷いてくれた。
「そうそう!翔太が頑張ってる姿、俺たちも勇気もらってるし」
「一緒に成長していこうな」
みんながそれぞれの言葉で翔太を励まして、あったかい空気が会議室いっぱいに広がっていく。
そんな中で、翔太が深く頭を下げた。
「みんながいてくれるから頑張れる。本当にありがとう」
その姿が、たまらなく愛しくて。
翔太の新しい挑戦を、全力で応援したい。心からそう思った。
―――――――――――
撮影開始まで、あと約一ヶ月。
その間、翔太は本当に一生懸命にドラマの準備を進めていた。
台本を何度も読み返して、役作りのために資料を集めて、監督との打ち合わせにも積極的に参加してて――俺の目から見ても、その姿勢はまっすぐで、すごくかっこよかった。
「今日は佐野くんと顔合わせなんだ」
そんなある日、控え室で二人きりになったタイミングで、翔太がちょっと嬉しそうに教えてくれた。
「そっか。楽しみ?」
俺がやわらかく聞き返すと、翔太の顔がぱっと明るくなった。
「うん!涼太がバラエティーで共演した人だから、どんな人かもう知ってるし。涼太が優しい人だって言ってたから、安心してる」
その言葉を聞いて、自然と胸がじんわりとあたたかくなった。
仕事に真剣に向き合ってる翔太の姿は、ほんとに尊敬できるし、素直に応援したくなる。
「翔太ならきっと大丈夫。佐野くんも、すぐ翔太の良さに気づくと思うよ」
そう言うと、翔太が少し照れたように笑った。
「そうかな?」
「うん。翔太の真面目さとか優しさは、誰が見ても分かるよ。それに佐野くんって、本当に相手を大事にする人だから」
俺が本音を込めて伝えると、翔太の頬がふわっと赤く染まった。その表情が可愛くて、思わず口元が緩む。
「ありがとう、涼太。そう言ってもらえると安心するよ」
その笑顔を見るたびに、俺の胸の中に温かい気持ちが広がっていった。
夕方になって、翔太が顔合わせから戻ってきた。
その顔には、満足そうな明るさがあって、きっと良い時間を過ごせたんだなってすぐに分かった。
「どうだった?」
俺が声をかけると、翔太がキラキラした目でこたえてくれた。
「めちゃくちゃ良かった!佐野くん、開口一番『宮舘くんとはどんな関係なんですか?』って聞いてくれてさ。ダンスの時はシンメなんで、幼馴染って説明したら、『宮舘くんはとても面白くて素敵な方でした』って言ってくれた」
ちょっと驚いた。
佐野くん、俺のことそんな風に評価してくれてたんだ――
「それで?」
「『宮舘くんのシンメなら、きっと渡辺くんも素晴らしい方なんでしょうね』って!もう、涼太のおかげで最初からすごく打ち解けられたよ」
「そうだね、翔太人見知りだから」
「大変お世話になります」
翔太の声からは嬉しさが溢れていて、その姿を見てると、こっちまで幸せな気持ちになる。
「佐野くんらしいな。ちゃんと翔太のこと、受け止めてくれてよかったね」
「うん!しかも今度の役についてもいろいろアドバイスくれたんだ。『自然体でいることが一番大事』って言ってくれて」
翔太の表情には、どこか安心感がにじんでいて、その顔がたまらなく愛おしくて、胸がふわっとなる。
「それは嬉しい言葉だね。翔太なら、きっと自然体が一番魅力的に映るよ」
「涼太がバラエティーで共演した人だから、なんか不思議と身近に感じられるんだよね」
そう言って笑う翔太に、俺の胸の奥がぎゅっと温かくなった。
翔太の新しい挑戦が、ちゃんと支えられて、いい形で進んでいってる。それがたまらなく嬉しかった。
撮影が近づくにつれて、翔太の口から自然と佐野くんの話題が増えてきた。
「あ、あと佐野くんがね、『感情は心の奥から自然に湧き上がらせるものだよ』って」
「さすが、経験豊富だよね。いいアドバイス、もらえてよかったね」
「うん!しかも『渡辺くんは素のままでも魅力的だから、無理に作らなくていい』って」
その言葉を話す翔太の瞳が、キラキラと輝いていて。
その顔を見ていると、もうそれだけで胸がいっぱいになる。
翔太が誰かに認めてもらえてる。それが、俺にとっては何よりも嬉しいことだった。
翔太の笑顔がまぶしくて、思わず見惚れてしまう。
心の底から、翔太が成功してほしいって思った。
この一ヶ月、努力してきた翔太の頑張りが、ちゃんと報われてほしい。
先日、みんなで翔太のお祝いもした。
全員集まって、賑やかに食事して、翔太の新しい一歩をお祝いして。
そのときの翔太の笑顔――幸せそうで、キラキラしてて、今でも鮮明に思い出せる。
――――――――――――
翔太の撮影初日。
スタジオに足を踏み入れた瞬間、大きなセットと慌ただしく動き回るスタッフの数に、思わず息をのんだ。
これが本格的なドラマの撮影現場か――照明の熱、張りつめた空気、スタッフたちの真剣な目。全部が本気の世界で、圧倒される。
こうやって外から見るのも勉強になるな。
翔太が、ここで、演技をするんだ。
そう思った瞬間、胸の奥がじわりと熱くなった。誇らしい気持ちと、ちょっとした不安が入り混じってる。
うまくやれるかな。いや、きっと大丈夫。でも……緊張してないかな。
「涼太、来てくれたんだ!」
聞き慣れた声に顔を向けると、翔太が笑顔で駆け寄ってきた。
メイクをして衣装をまとった翔太は、いつもよりも少しだけ大人びて見えた。役を背負った空気感が、彼をほんの少し遠くに感じさせて……でも、その変わらない笑顔が、やっぱり”俺の知ってる翔太”で、ホッとした。
「うん。ちょうど隣のスタジオで打ち合わせなんだよ」
「え!?そうなの?うわ~、めっちゃ偶然じゃん」
おどけた口調で言いながらも、翔太の表情がほんのりゆるんで、緊張が少しほどけたのが分かった。
俺がここにいるだけで、少しでも安心できるなら、それがすごく嬉しかった。
「涼太が見ててくれるから心強いな。……ちょっと緊張してたけど、なんか元気出た」
そんなこと言われたら…もっと側にいてやりたくなる。
「そっか。俺も翔太の頑張るとこ、見られて嬉しいよ」
そう返した瞬間、佐野晴人くんが現れた。
久しぶりに見る佐野くんは、以前よりもぐっと大人の雰囲気が増していて、堂々とした俳優の風格があった。
「宮舘くん、久しぶりだね」
優しい声に振り向くと、変わらない穏やかな笑顔がそこにあった。
「佐野くん、お久しぶりです。今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ。まさかまたこうして現場で会えるなんて」
そのまま佐野くんが、翔太に目を向ける。
「渡辺くんも、よろしくね。前の顔合わせの時も思ったけど、本当に素直で面白いね」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします!涼太からも佐野くんのこと、いろいろ聞いてました!」
翔太がぺこっと頭を下げながらも、嬉しそうに笑っている。
その姿を見てるだけで、なんかもう……胸がいっぱいになる。
「そうなんだ。俺も宮舘くんから、君のことちょっと聞いてたよ」
佐野くんが俺の方を見ながら、軽く微笑む。
「宮舘くん、バラエティーでもとても魅力的だったから。その仲間ってだけで、渡辺くんにも信頼が持てるよ」
佐野くんのその言葉に、翔太の頬がほんのり赤く染まる。
「そ、そんな……」
「ううん、翔太はすごいよ。真面目に頑張ってるの、俺知ってるから」
俺が口を挟むと、翔太がちょっと照れたように下を向いた。
ああ、かわいい。
こういう時の翔太、ほんとに抱きしめたくなるくらい、まっすぐで眩しい。
「ほんとに、仲良いんだね」
佐野くんが笑いながら言うと、翔太が慌てて首を振る。
「ち、ちがっ……!いや、仲良いけど…」
「うんうん、分かってる。微笑ましいよ」
佐野くんが優しく返してくれて、翔太もほっとしたように笑う。
改めて思った。
この現場で翔太が仕事をするってこと、佐野くんと一緒に芝居を作っていくってこと。
それを支えるスタッフがいて、信頼できる人たちに囲まれてるってこと。
それが、どれだけ心強いか。
そして、翔太自身がちゃんとその輪の中に、もうちゃんと入ってるってことが、俺にはすごく嬉しかった。
翔太なら、絶対大丈夫。
この場所で、ちゃんと光を放ってくれる。
俺の大切な人が、ここで羽ばたいていく瞬間を、俺はちゃんと見届けたい。
「それでは、最初のシーンから始めましょう」
監督の声がスタジオに響いて、場の空気が一気にぴんと張りつめる。
リハーサルが始まる。
今日撮るのは、物語の導入部分。
翔太が演じるアイドルの主人公が、佐野くん演じる会社員とカフェで偶然ぶつかってしまう、初めての出会いのシーン。
セットの中に立つ翔太を、俺は少し離れたモニター越しに見つめていた。
あの姿が、今日から”役”として生きていくんだと思うと、胸がそっとざわめいた。
「すみません!大丈夫ですか?」
翔太が台詞を発した瞬間、自然と息をのんだ。
柔らかな標準語がスッと耳に入ってくる。普段の関西弁とは違うのに、全然違和感がない。むしろ、今まで見たことのない翔太がそこにいた。
俳優としての表情。
声のトーン。
仕草。
どれもが新鮮で、目が離せなかった。
「こちらこそ、急に立ち上がってしまって」
佐野くんが静かな声で応じると、空気がふっと変わった。
二人の間に、確かに”ドラマの世界”が存在していた。
翔太がしっかりと役の中に入り込んでるのが、モニター越しにも伝わってくる。
「コーヒー、かかってませんか?シャツとか……」
「大丈夫です。それより、あなたこそ火傷してませんか?」
佐野くんがそう言って、翔太の手にそっと触れた。
その瞬間――不思議な感情が、胸の奥で小さく波打った。
(……あれ?)
説明できない気持ち。
じわっと熱くなる胸の真ん中。
でも、きっとこれは感動だ。翔太の演技が、それだけすごいってことなんだろう。そう、自分に言い聞かせた。
「あ、の、大丈夫です……」
翔太が頬を染めながら答える。
視線を少し伏せて、小さく肩をすぼめて――その仕草が、あまりにも自然で、リアルで、俺は息を止めるように見入っていた。
(……翔太、すごいじゃん)
彼の真剣な表情に、演技の力に、改めて圧倒される。
本気でこの役に向き合ってきたんだって、ここまでの努力が全部伝わってきた。
「カット! とてもいいですね。自然な雰囲気が出ています」
監督の満足そうな声が響く。
空気がふっと和らいで、スタッフたちの動きも少し緩んだ。
「渡辺くん、リラックスしていて良かったです。佐野さんとの相性もいいですね」
「ありがとうございます!」
翔太が元気よく返事する。笑顔がぱっと咲いて、まるで子供みたいに嬉しそうで――でもその笑顔が、俺には何より誇らしかった。
佐野くんも穏やかに微笑みながら、横に立つ翔太に言葉をかける。
「渡辺くん、宮舘くんが言っていた通り、とても自然で素晴らしい演技だね。初日とは思えないくらい、いい空気感だったよ」
「ほんとですか!?うれしい……ありがとうございます!」
翔太が顔をくしゃっとさせて笑った。その横顔が、なんとも言えず可愛くて、胸がまた少し熱くなる。
(ちゃんと伝わってる。翔太の頑張りが)
そう思ったら、自然と微笑みがこぼれていた。
翔太がここにいて、演技をして、誰かに認められて――それを俺が見ていられることが、ただただ幸せだった。
―――――――撮影はどうやら順調に進んでいるらしい。
打ち合わせの合間を縫って、また俺はこっそり翔太の様子を見に行った。
姿を探すと、ちょうどモニターのそばで休憩していた翔太が、俺の姿を見つけてパッと顔を明るくする。
「お疲れさま。どう?楽しい?」
俺がそっと声をかけると、翔太は弾けるような笑顔を浮かべて答えてくれた。
「めっちゃ楽しい!佐野くんがほんとに優しくて。涼太が言ってた通りだったよ。めっちゃ話しやすいし、自然に芝居できるんだ」
その無邪気な笑顔と楽しそうな声に、俺の胸もふわっとあたたかくなる。
翔太がリラックスして撮影に臨めている。それだけで嬉しい。
「それは良かった。翔太の演技、すごく自然だったよ」
「ほんとに?うわ〜涼太に褒められると、照れるけど……めっちゃ嬉しい!」
言いながら、翔太が少し頬を染める。そんな姿を見て、思わず俺も笑ってしまう。
翔太の素直なリアクションって、ほんとにかわいくて、いちいち胸をくすぐる。
その時だった。
「宮舘くん、お疲れさま」
佐野くんがすっと近づいてきて、落ち着いた笑顔で声をかけてくれた。
「お疲れさまです。今日もありがとうございます」
「いや、こちらこそ。渡辺くんの演技、本当に素晴らしいね。びっくりしたよ。初共演なのに、もうちゃんと役に馴染んでて」
佐野くんのその言葉に、俺は嬉しくなると同時に、少しだけ胸の奥がざわっとする。
翔太が褒められて嬉しい。
でも、誰かが翔太の”良さ”に気づいていくことに、ほんの少しだけ、心がざらつく。
「ありがとう。翔太も、佐野くんのおかげでリラックスできてるみたいで」
「いやいや、それは彼自身の力だよ。宮舘くんのメンバーだけあって、すごく真摯に演技と向き合ってる。すごくいいパートナーだと思う」
(……”パートナー”か)
その言葉に反応してしまう自分が、ちょっと情けない。
でも、仕方ないだろ。翔太は、俺にとって――
俺にとって…?なんだろう。
「渡辺くん、次のシーンの確認をしようか?」
「はい!お願いします!」
翔太がさっと立ち上がり、嬉しそうな顔で佐野くんのあとをついていく。
その後ろ姿を、俺はただ静かに見送った。
そしてすぐに、次のシーンのリハーサルが始まる。
今回の設定は、街中で偶然再会した二人が、一緒にお昼を食べる流れ。
自然に仲が縮まり始める、ちょっと甘めのパートだ。
「また会いましたね」
佐野くんの台詞に、翔太がふっと顔を上げる。
「あ、この前の……!偶然ですね」
その言い方が、どこか嬉しそうで、少し照れてる感じがリアルすぎてドキッとする。
演技ってわかってるのに、その声が、表情が、心に刺さる。
「よろしければ、一緒にお昼はいかがですか?」
「えっ、いいんですか?あ、でも、迷惑じゃ……」
翔太がちょっと戸惑いながらも嬉しそうに答えて、その絶妙なバランスが完璧だった。
本当に”偶然再会して嬉しかった人”みたいで、見てるこっちが緊張してしまう。
カフェのセットで、二人が向かい合って座る。
机を挟んだ距離が近くて、思わず俺の胸がざわついた。
まるで、本当にデートしてるみたいな空気。
佐野くんが柔らかく微笑んで、翔太が自然に笑い返す。
そのやり取りに、演技だって分かっていても、何故か喉の奥がちくりとした。
(翔太……すごくいい表情してる)
嬉しい気持ちと、ちょっとだけ拗ねたような気持ちがないまぜになって、俺は黙ってモニターを見つめた。
でも、やっぱり――誇らしい気持ちの方が大きい。
こんなにも真剣に、こんなにも魅力的に演じる翔太を、俺は知っている。
――たとえちょっとだけ、心がざわついたとしても。
―――――――――――――――――――――――
渡辺くんは、アイドル活動はどうですか?」
休憩時間三人でのトークタイム。
佐野くんが柔らかい表情で翔太に問いかけた。
それだけで、翔太の目がぱっと輝く。
「楽しいです!みんなでパフォーマンスを作り上げていくのって、すごくやりがいがあるし、毎回新しい発見があるんです」
真っ直ぐな声。隠せないくらいの熱量。
その話し方が翔太らしくて、俺の胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「素敵ですね。僕も、そういう仲間との絆……ちょっと憧れます」
佐野くんが優しく笑いながら、少し身を乗り出す。
その仕草が自然すぎて――でも、俺の目にはやけに親密に映った。
なんだろう、この距離感。近すぎないか?
俺はその光景を少し離れた場所から見ていて、胸の奥に小さな違和感を覚えた。
それは今まで感じたことのない、説明のつかない感情。
佐野くんが翔太と談笑している。
穏やかで、和やかで。悪いものではない。むしろ微笑ましいくらいだ。
でも――どこか、ざわざわする。
「佐野さんは、お仕事大変そうですね」
翔太が少し遠慮がちに声をかけると、佐野くんはすぐに笑みを浮かべた。
「そうですね。でも、好きなことだから。あと……」
一瞬、佐野くんの言葉が止まる。
そしてふと、まっすぐに翔太を見つめて――
「最近、仕事以外にも楽しみができました」
そう言って、佐野くんが翔太の手にふわっと触れた。
わずかに、そっと。けれど、はっきりと。
「えっ……」
翔太が一瞬びくっとして、驚いたように目を見開く。
そしてすぐに視線を逸らして、顔が赤く染まる。
その光景を見た瞬間、俺の胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
さっきまでの”ざわざわ”が、一気に”ざわっ”と音を立てた気がする。
それは、演技への感動とはまるで違う感情だった。
どこか、もっと深くて、もっと熱くて、言葉にならない想い。
(……なんだ、これ)
「なーんてね。冗談冗談」
佐野くんはパッと翔太から手をどかしおどけてみせた。
内心ほっとしたような複雑な気持ちだ。
「な、な~んだ、驚かさないで下さいよ」
翔太と佐野くんが笑い合ってる姿が映る。
微笑ましい、はずなのに。
なぜか、俺は黙って見ていることしかできなかった。
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※本編後の関係をより深く描いたR-18おまけ小説も収録。ご希望の方はぜひご覧ください。